●Listening:<そこが聞きたい>秘密保護法基準案の検討 清水勉氏
毎日 2014年02月19日
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◇経過の公開、非常に重要--弁護士・情報保全諮問会議メンバー、清水勉氏
今年中に施行される特定秘密保護法=1=に基づき設置された有識者会議が、秘密指定や解除の基準案を検討している。7人のメンバーのうち、1人だけ法律に反対の立場を明確にしている清水勉弁護士(60)に課題を聞いた。【聞き手・青島顕、写真・宮間俊樹】
--この法律の解説書を書いているそうですが、改めて問題点は。
官僚支配の露骨な法律です。条文を読んでも中身がスカスカ過ぎて分からないことが多すぎます。普通は国会で決める法律に木の幹の部分を書き、枝葉は役所の判断で作る政令で定めます。でもこの法律は幹の部分も政令で決まる。このままでは適正な運用はできません。
--法律に反対されていますが、運用基準を審議するために設置された有識者らで作る諮問会議「情報保全諮問会議」=2=のメンバーに選ばれました。
昨年夏に法案の概要ができたころ、日本弁護士連合会の対策本部事務局長として与党の国会議員を回りました。話を聞いてもらい部分的な法案修正につながったのですが、その時に話し合った自民党と公明党の議員から要請され、両党の推薦でメンバーになりました。
--諮問会議は「会議として」首相に意見を述べることになっています。反対派が1人では、多数派に取り込まれるだけではあり
ませんか。
そうはならないでしょう。秘密保護法18条には「首相は(秘密指定などの)基準を定めるときは、識見を有する者の意見を聴いたうえで案を作成する」とあります。「識見を有する者」という個人の立場で意見を言えるから参加しました。問題意識や専門性の高い人が、情報の適正管理という観点から公的な場で言った意見を踏まえ、法律が運用されていくのが正しい筋道だと思います。
--メンバー構成をどうみますか。
賛成、反対はともかく、官僚と対等に話せる専門家集団にすべきでした。例えば森本敏・前防衛相や元外交官の孫崎享(うける)さんのように、秘密を扱った経験があったり、秘密を扱っている人に問い合わせたりできる立場の人を入れてほしかった。情報保護、情報公開、公文書管理、報道、法律の分野の専門家で構成することになっていましたが、7人全員が必ずしも専門家ではありませんし、男性4人、女性3人という構成も、性別のバランスを考えただけという感じがします。
--先月17日の初回はメンバーが所信を述べただけでした。会議は3回程度とされています。基準の素案作りは2回目からですか。
この7人で何か具体的な議論をして決めるとは思いません。自分の分かっていること、見えていることに問題意識を持って発言することが一人一人に求められています。
--会議の役割は。
基準を作って秘密指定の対象を絞り込むことや、秘密を扱う人を選ぶための「適性評価」の項目作り、それから適性評価の個人情報の管理方法です。適性評価は秘密を扱う民間企業の従業員も対象になりますが、評価をするのは国なので、企業が知らない従業員の情報を国が知っているということも起こりうる。法施行後も毎年、首相から報告を受けてメンバー個人の意見を付けます。
--内部告発者保護の仕組み作りも重要な役割ですね。
情報管理を厳格にするなら、情報公開や内部通報制度を充実させなければなりません。要件を満たさない違法な秘密指定がされる可能性がありますが、情報公開請求をしても非開示になって明るみに出ない。内部告発しかないわけです。しかし、今の制度では告発者を守るには不十分です。本来、秘密保護法を作るより先に整えておくべきものでした。内部告発があったことが相手組織に分からないような仕組みが必要です。
--メンバーは秘密そのものを見ることができません。秘密を握っている官僚主導で基準の素案が作られる懸念や限界は感じませんか。
そうですね。当然、注意は必要です。しかし、官僚に資料や素案を出してもらう必要もあります。私たちは民主党政権時代の2011年に法制化を検討するために開かれた有識者会議を「官僚主導だ」と批判しました。今回は、その時のようになってはいけない。現在の法律では外部の者が秘密を見るのは無理ですが、できるだけ機微に触れる情報も見せてもらったり、説明してもらったりすることは必要です。
--反対派である自身の役割は。
賛成、反対ではなく、経過をなるべく公表公開する必要があると思っています。議事録には発言者の氏名を入れることになりました。意味のある発言を公的な場で記録することが重要です。後からでも意見が生きればよいと思います。基準案作りに向け、資料をなるべく多く見せてもらい、考え抜いて意見をまとめたいと思っています。
◇聞いて一言
昨年12月の参議院委員会の強行採決前日、安倍晋三首相が唐突に口にした「諮問会議」。批判をかわすための付け焼き刃的存在だ。「識見を有する者」の会議なのに「自分は専門家ではない」とあいさつしたメンバーもいる。法施行時に「外部の意見を聞いた」というアリバイに使われはしないかという疑念がぬぐえない。清水弁護士の参加には日弁連内部にも異論があったと聞く。秘密指定の乱用を少しでも防ぐため、権力に利用されず、市民の代表としての役割を果たしてもらいたい。
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■ことば
◇1 特定秘密保護法
(1)防衛(2)外交(3)スパイ活動などの防止(4)テロ防止の4分野で、国の重要な情報を漏らした人に最高懲役10年の厳罰を科す内容。秘密の範囲を行政が都合よく決める余地がある▽指定期間が一部は60年まで延長可能▽秘密を扱う人は民間人も含めて身辺調査(適性評価)を受ける--などの問題点が指摘されている。
◇2 情報保全諮問会議
特定秘密の指定に歯止めを設けるための基準作りにあたる首相の私的諮問機関。夏までに素案を作って首相に答申する。メンバーは座長の渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長兼主筆▽永野秀雄・法政大教授▽宇賀克也・東京大大学院教授▽塩入みほも・駒沢大准教授▽住田裕子弁護士▽ディー・エヌ・エー創業者の南場智子氏▽清水勉弁護士。
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■人物略歴
◇しみず・つとむ
埼玉県生まれ。薬害エイズ訴訟で被害者側代理人。情報公開とプライバシー保護に取り組む。日本弁護士連合会の情報問題対策委員会委員。 |