●メールは行政文書か 6割の自治体「内容によって判断」
NHK 2017年9月2日
国家戦略特区での獣医学部新設などをめぐり、文部科学省の職員の間で共有されていたメールや文書の管理の在り方が議論となっています。こうした中、市民オンブズマンが全国の自治体に調査した結果、職員が公用のパソコンを使って複数の人に送ったメールについて3分の1余りの自治体が行政文書に当たるとした一方、6割の自治体は「内容によって判断する」などと回答したことがわかりました。市民オンブズマンは「恣意的(しいてき)な運用で不都合な情報が隠されることがないようにすべきだ」と指摘しています。
国家戦略特区での獣医学部新設をめぐっては、文部科学省の複数の職員に送られ共有フォルダーから見つかった文書やメールの管理の在り方が議論になりましたが、文部科学省は職員個人の備忘録で行政文書ではないと説明しています。
こうした中、市民オンブズマンが都道府県や政令指定都市など全国115の自治体を対象にどのようなメールを行政文書として扱っているかアンケート調査を行い、2日、和歌山市で開かれた市民オンブズマンの全国大会で結果が報告されました。
それによりますと、たが、6割にあたる69の自治体は「条例などの基準に基づきメールの内容によって個別に判断する」などとし、3つの自治体が「行政文書にはあたらない」と回答しました。
また、1対1で送られたメールでも共有サーバーで保管するなどほかの人も内容を知ることができる場合には4割余りのおよそ50の自治体が「行政文書にあたる」と回答しましたが、半数以上の自治体は複数の人に送られたメールと同様に「内容によって判断する」などと回答しました。
調査は14の中央省庁に対しても行われましたが、11の省庁はいずれの質問にも「法律の規定に基づき適切に判断する」と回答し、財務省、防衛省、環境省は期日までに回答しませんでした。
全国市民オンブズマン連絡会議の新海聡事務局長は「メールの内容によって行政文書かどうかを判断すれば恣意的(しいてき)な運用によって不都合な情報を隠すことが可能になってしまう。行政機関の意図が入り込まない外形的な条件によって判断すべきだ」と指摘しています。
行政文書の管理めぐる議論
公文書の管理について定めた「公文書管理法」では行政文書について「省庁などの職員が職務上作成し、組織的に用いるため行政機関が保有するもの」と定義していて、メールなどの電子データも含まれるとしています。そして、政府の意思決定などの過程を検証できるようにするため期限を決めて適切に管理・保存するよう定めていて、地方自治体でもこの法律の趣旨にのっとり適切に管理するよう求めています。
国家戦略特区での獣医学部新設をめぐっては、内閣府などとのやり取りを記した文書が文部科学省の複数の職員にメールで送られ省内で共有されていましたが、文部科学省は「職員個人の備忘録で、本来、共有すべきものではなく行政文書ではない」と説明し、メールなどの管理の在り方が議論になりました。
このため、政府は職員の間で共有されたメールなどを行政文書と認定して保管する場合の基準を明確にするなど管理の適正化に向けて今年度中にガイドラインを見直すとしています。
一方、国や地方自治体の業務でメールなどの利用が進んでいることから膨大な電子データの記録をどう管理していくかも課題となっています。
兵庫 尼崎 「市長のメール公開」
どのようなメールを行政文書として扱うかは自治体によって対応が分かれています。
兵庫県尼崎市は、職員のメールについて「内容や保存形態を踏まえ、個別に判断する」と回答しましたが、今回、市民オンブズマンの情報公開請求を受けて、稲村和美市長がことし6月の10日間に職員などに送った5通のメールのうち4通を行政文書として公開しました。
メールには、市が開催する教育イベントについて稲村市長が職員に相談する内容や、外部の関係者から子どもの貧困について記者の取材を受けるよう依頼され、市長が了承する内容などが記されていて、市長と職員との間の日頃のやり取りを知ることができます。
尼崎市秘書課の小島大作課長はメールを公開した理由について「職務に関連する内容を職員に対して送っているメールなので、行政文書として情報公開の対象と判断した」と説明しています。
そのうえで「意思形成の過程にある内容であっても積極的に公開することで市民の市政への参加を促すという考え方で市の条例は制定されており、その考え方にのっとって対応している」と話しています。
岡山 倉敷「直ちには行政文書にあらず」
岡山県倉敷市は職員が公用パソコンでやり取りしたメールについて「直ちには行政文書にあたらない」と回答しています。
その理由について倉敷市の石川裕之情報公開室長は「メールには自分の主張だけを送って来るようなケースもあり電話と同じような連絡手段として処理している。すべてのメールを行政文書として取り扱えば通常の業務が機能しなくなり合理的ではないと考えている」と説明しています。
そのうえで「条例の規定に基づいてメールの内容が組織として使う必要があるものかどうか判断し、そうした内容のメールについては電子データや紙ベースにして市のシステムに保存し行政文書として管理している」としています。
メール公開の条例未整備の自治体も
メールを行政文書として公開するための条例が整っていないとする自治体もあります。
大阪・枚方市は条例で情報公開の対象となる行政文書にメールなどの「電磁的記録」が含まれていないとしています。このため、現状では職員が組織的に使う内容のメールであっても行政文書として管理する対象にはなっていないということで、枚方市は今後条例の改正を検討しているということです。
専門家「第三者的なチェック体制必要」
公文書の管理や情報公開に詳しい東洋大学法学部の早川和宏教授は「行政機関の職員が職場で与えられたアドレスでやり取りしたメールは基本的に行政文書に当たると考えられる。しかし、役所の中だけでメールの内容によって行政文書かどうかを判断してしまうと、恣意的(しいてき)な運用によって都合の悪い情報を隠そうという意図が働く可能性もある。常に第三者的な専門家がチェックする体制を整えていく必要がある」と指摘しています。
そのうえで、「行政文書は役所の人だけが使うものではなく、私たち国民の共有の財産だと考えるべきだ。行政文書をどのように管理すべきか法律でもっと細かく決める必要があると思う」と話しています。
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