tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

スパニッシュ・アパートメント

2007-11-08 19:51:45 | cinema

エラスムス計画(The European Community Action Scheme for the Mobility of University Students : ERASMUS)とは、各種の人材養成計画、科学・技術分野におけるEC(現在はEU)加盟国間の人物交流協力計画の一つであり、大学間交流協定等による共同教育プログラム(ICPs:Inter-University Co-operation Programmes)を積み重ねることによって、「ヨーロッパ大学間ネットワーク」(European University Network)を構築し、EU加盟国間の学生流動を高める目的で1987年よりその一部が開始された。この映画では、パリに住む大学生グザヴィエ(ロマン・デュリス)が、「エラスムス・プログラム」の奨学金を得て、バルセロナに留学し、イタリア、ドイツ、デンマーク、イギリス、スペイン、ベルギーの同じ奨学生と生活をともにし、「大人」の経験を積んで行く。なお、この共同教育プログラムは、1995年以降に教育分野のより広いプログラムであるソクラテス計画の一部に位置付けられて、2004年~2008年にはエラスムス・ワールド計画として、欧州とそれ以外の地域との大学間共同プロジェクトにより、交流する4,000人の欧州の学生と800人の欧州の客員研究者の支援が行われている。
こうした人物交流協力計画は欧州の経済・社会に大きな影響を及ぼしつつある。学生が欧州各国で培った技術や能力を域内のどこでも自由に発揮することが、拡大するEU市場の需要増につなげることができるからだ。このようなシステムをアジアーオセアニアでもできないものであろうか。現在、中国などの外国からの留学生が日本に大勢来ており、日本人学生の大学院の進学率を凌駕するまでになっている。若いときに見聞きした外国の情報は社会に出てから必ず役に立つし、留学中に構築できる人脈ネットワークは、さまざまな国際問題を解消するに一役を担うことになるはずで個人的に期待してやまない。

さて、多国籍の若い男女が暮らすスパニッシュ・アパートメント。いろいろな価値観や思想があふれる自由な空間で、みんなそれぞれの生き方を探して迷い、そして立ち止まっている。こういう一時的な共同生活で、心の扉の開け方や個人の未来を探す人たちの交流とかを描いた作品がぼくは好きだ。最初は、経費節減のためにはじめた集団生活が、メンバー全員の自我を解放する場になって行く。もちろん、こういう公共の場で発生する集団ルールが各自の自我を拘束して閉鎖してしまう場合もあるのだが、この映画は、その解放的な側面にのみ焦点を当てている。

「エラスムス・ワールド計画」に象徴されるように、現代は「共の時代」迎えたといえる。こうした時流に沿って、難解な言葉「マルチチュード」が世界を闊歩している。グローバルなデジタル化時代の芸術は、なんでもありのカオス的な状況を呼び起こす。
Multitude。マルチチュード、ムルチチュードとも読まれる。なお、ラテン語 multitudo は「多数」と「民衆」の両方の意味で使われる。もともとは、群衆=多数性、多数者などと訳される哲学・政治学の概念だ。政治哲学者ホッブズ(主著『リヴァイアサン』)が、社会契約を結んで「国民」になる前の数多くの(まとまりのない)人びとという意味で使った言葉である。特に近年イタリアの思想家・革命家アントニオ・ネグリが新たなる歴史の「変革主体」として位置づけたことで知られている。

若いが故に、国籍の違う同士、ぶつかり合うこともあるが、それは、国籍やカルチャー文化の差異に起因する。この映画で我々は、新たな時代の流れとしてのマルチチュードを実感することになる。

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