【撮影地】北海道函館市(2009.2月撮影)
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その店で、一人で飲みつづけていると、「あけみ」という子が、そして、しばらくして「さやか」という子が出勤してきた。2人とも年は20代前半で、超ミニの今風の派手なパンクファッションを身にまとっている。ファッションは、地方の方がいつも派手めだ。豹よりも豹柄がよく似合うような2人。アイラインをばっちり決めた目は、いつも暗く輝きを失っていて、会話をしても目を合わせることはない。ヤンキーによくありがちな・・・。
それとはなしにママに聞くと、彼女たちは借金返済のためにその種の仕事についているらしい。いわゆるワケ有り。彼女たちが時折見せるさびしそうな顔つきは、そうした生活からくるのかもしれない。見知らぬ客から電話が入り、指定の場所に出かけていく。そして一仕事を終えて、30分ぐらいで戻ってくる。
「あけみ」という子が2度目の仕事に出かけた時に、「さやか」という子が最初の客から戻ってきて、カウンターの向こうで「最悪だった」とため息をついた。きっと、しつこい客から嫌なことをされたのだろう。しかし、何があったのか聞かなかったし、向こうも聞かれても答えるつもりはなかったろう。
23時ごろ、遅れて出勤してきた「サキ」という子が、ママに遅刻を叱られた。叱られていても、ふてくさるこなく素直に言うことを聞いている。化粧も薄く、ファッションも普通のOL風で、"水商売"には不向きな感じで痛々しかった。それでも彼女は、屈託のない明るさがあっで陽気だった。カウンターの席の端っこに座った彼女は、ちょっとしたことにも笑顔を見せた。編みタイツが好きというぼくに、「今日は編みタイツなのよ」と足を見せてくれたりする。
そのうちに、「何処から来たのか」という話になったんだろうと思う。
「京都にいたし、それから静岡へ」
彼女のこの言葉が、どきんとぼくの胸にひびいた。流れ流れて函館へ。彼女の20幾年かの人生で、いろんなことがあったろう。寂れた港町。人生の吹き溜まり。サキという子の言葉は、ぐさっとぼくの胸に突き刺さった。彼女の人生からくる言葉だった。
「待っててね」深夜を過ぎて客の呼び出しがかかった時、彼女は、こう言い残して店を出て行った。
ごく普通のOLにしか見えない彼女。自分の武器を知っているとすれば、彼女は最強であるとしか言いようが無い。
だが、ぼくはこうした擬似恋愛をするには、あまりにも汚れちまっていた。実際に今日の格好ですら、乞食に近いものがある。
浸るにはあまりにも辛い世界を見せられて、ぼくは酔うに酔えなくなってしまっていた。サキちゃんが店を出てまもなく、ぼくは店を出て、もう一軒、飲み屋へ立ち寄った。こうせずには、滅入ってしまいそうだったのだ。結局、次の店で3時まで飲んだのだが、ほとんど覚えていない。
普段できないような深い人生経験を、ぼくはこの函館でした。だが、人生の深淵を垣間見たはずなのに、ぼくは酒を飲みすぎて記憶を無くしちまっていた。いつのまにか天気は回復し、凍てつく函館の空に大きな月がぽっかり浮かんでいたのを、帰りがけに見かけた記憶だけが頭にこびりついていた。
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