ジープ島周辺のエリア、周囲200kmに及ぶ世界最大級の堡礁・チューク環礁域には、乾季・雨季はないらしい。低気圧はこのエリアで発生し、パラオ辺りで渦を巻きだし、フィリピン沖で本格的な台風。それが北上して日本や中国に襲来する。
生活が海と直結する地元の人々にとって、天候の関心事は風と嵐だ。雨は午後になるとたいていやってくるから、日本のように雨とか晴れの天気が話題にのぼることはない。
一年中、気温が27~29℃、いわゆる常夏。5月の降雨量は360mm。雨季はないといえども一年で一番多い。月に24日、つまり、降らない日は少ない。
朝、お気に入りの北の方角の島々を視線でたどりつつ、遥かかなたに灰色の壁が見えた。そのうち、風が強く吹き出したと思う間もなく島は雨の中。
すぐに晴れるさとタカをくくってたらずーっと雨。島の四方が雨雲に囲まれ、激しく振る雨は上がる気配すらない。 日本海に面した城下町からやってきた女性ゲストが来てから、天気はずっとこの調子だ。
・・・誰かさんは「嵐を呼ぶ女」っすか?とか嫌われ口をきいていたのだが、彼女が帰る日にはなんとか雨も止み、空にダブル・レインボー。
最終日にダブル・レインボーってすごくね?
外で寝ててワンコに飛び乗られて、おそらくジープ島が開島して初めての女性の絹を引き裂くような悲鳴を夜中にとどろかせたワンコ嫌いの彼女も、今は2匹のワンコたちに挟まれてベットに腰をかけておとなしく虹を見ている。
とってもいい風景だ。
満月が水平線の雲から顔を出す前のひと時。
星座図によれば、この時期は日没後の南の空の水平線上に南十字星が見えて来る頃。
南の空を眺めてみるが、厚い雲に覆われてなかなかその姿を見せてくれない。
北緯7度17分23秒。地球の裏側で冬を越した南十字星。サザンクロス。
季節感の乏しい南の島で、季節の移ろい感じさせてくれるというそのまだ見ぬ姿。満月を過ぎれば、月の出も少しずつ遅くなってくる。滞在中にサザンクロスが見れたらと月に願う。
ずっと古くから航海の指標として見つめられてきたサザンクロス。今もなお、ぼくらに遠い南の島への憧れと、そして日々の安らぎを与えてくれる。
日本海に面した城下町からやってきた女性ゲストが海に入ろうとすると、いつもブラックチップシャーク(ツマグロ)が現れるらしい。メジロザメ属に属するサメの一種。鰭の先端に黒い模様を持つサメだ。現れるのは体長1mぐらいの子ザメ。この島の浅瀬は、どうやらその個体の巣になってるようだ。
サメは基本的に臆病だ。レジャーダイバーがサメに襲われ死亡に至ったケースは一度もない。水中でシュノーケラーは、フィンを履いた約2メートルくらいの長さ。サメにしてみれば、ヘンテコな動きをする得体の知れない恐ろしい存在だ。
人間をエサとは思わず、むしろ食われるんじゃないかと警戒している。好んで人を食うこともないから、人間は彼らの食糧として質が低いのではという意見もある。だから、エサと間違えてカブッとしても、ペッと吐きだす・・・らしい。
流線的なシェイプ、そして鈍く反射する肌。水中でサメに出会えたらものすごく幸運だ。なかなか出合えないから言うのだけど・・・。
それよりも、この海にはゴマモンガラやイソモンガラ、キヘリモンガラもいる。
6月から8月のゴマモンガラは危険かも。産卵期には卵を守るために凶暴化し、どんな大きな相手でも執拗に攻撃をしかけてくる。サンゴを砕くあの強靭な歯で噛まれたらひとたまりもない。
モンガラカワハギと同じ種類とは思えない程凶悪な面構えで、できればばったり出会いたくない魚だ。
満月のジープ島。電気がすべて消え、月の明かりが煌々と島を照らす。驚いたのはその明るさ。前に来た時も月は美しかったが、思い出の月よりももっと大きく、これでもかというぐらい明るい気がした。
日本で見るよりも、ジープ島で見る月はもっと近くに見える。
・・・そういえば、ジョー、満月の島へ行く(Joe Versus the Volcano)という1990年に製作されたトム・ハンクス主演の映画があったけ。
東の水平線にあった雲の隙間から顔を出した満月は、ゆらゆらと波打つ海面に「光の道」を描きだす。 神秘的で、どこか神話の世界の中にでもいるような光景。
やがて月は頭上へ、あたりに一面の銀の光が降りそそぐ。いつまでもこの光の中に埋もれていたい衝動に駆られる。満月の夜もまた、格別の風情。
サンゴ砂の浜はひんやりと気持ちいいので、つっかけたギョサンを脱いではだしに。
ワンコどもも月明かりに浮かれてじゃれあってる。
月の虹を探して、ワンコ達としばし月光浴。
月の光を浴びてると、「ジョー、満月の島へ行く」じゃないけど、なんだか"千年も生きらる”ような気になってくる。
満月にはロマンスが似合うのかも。そういえば、ジープ島の和名は「婚島」だったけ。。
ジープ島に到着したとき、迎えてくれたのはいつもニコニコ顔のお母さん、リペル。そして恥ずかしがり屋のエリックとイッチェン、リペルの孫たちだった。
イッチェンは自称7才。素潜りが得意で、イルカスイムの時はイルカとともに自由に泳ぎ回る。日本の弱っちい同年代の小学生なんかよりもずっと頼もしい。
ジープ島のすべてが彼のおもちゃ。ゲッコー(トカゲ)の小さい奴を捕まえては、ゲストに見せに来たり、ヤドカリを殻から出しては遊んでいる。
一緒に島の周りのサンゴ礁(ハウスリープ)を素潜りしたとき、海底のナマコを見つけて彼に差し出したら逃げて行った。
彼にも苦手なものがあるんだ。とか思ってたら、ナマコが白い糸状のものを放出していた。キュビエ器官だ。刺激を受けると肛門からキュビエ器官を吐出し、襲った動物の体表にねばねばと張り付きその行動の邪魔をする。そこらじゅうに張り付き、ネバネバ。たしかに気持ち悪い。
・・・イッチェンはずっとおばあちゃんと島にいて、学校に行かないんだ。リペルに聞くと、勉強が嫌でたびたび教室から脱走するらしい。とか、ニコニコ顔で教えてくれるのだが、小学校は義務教育だ。彼の将来のためにも、島で自由にさせておくのは問題がある。
せめてぼくが滞在している間だけでもと、算数の足し算とか、簡単な日本語とか教えていたのだが、次の日には脱走。家族がいる夏島に帰って行った。
その代わりやってきたのが、高校生の孫娘。ニヤカーベ(美人)さんだ。
聞くとバケーション。学校は休みという。
なんだかよくわからないが、どうやら孫たちはリペルを手伝いに交代で島に来ているもよう。チュークの伝統的生活様式の変容はあったのだろうが、家族社会の生活はまだ残っている。彼らは一族で支えあって暮らしている。