司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

「相続登記の促進に向けた法定相続情報証明制度の課題」

2023-05-10 22:52:12 | 不動産登記法その他
 民事月報令和5年3月号に,大村健祐「相続登記の促進に向けた法定相続情報証明制度の課題」がある。

 曰く,

「令和3年度は申出件数が約20万件,一覧図の交付通数が約138万件となっており」

「申出件数に対して一覧図の写しを添付してされた相続登記の申請件数の割合は50%を下回っており」

「令和3年度の相続その他一般承継による所有権の移転の登記の申請件数は約120万件であったことに対して,一覧図の写しを添付した相続登記の申請件数は約8万5千件であった。つまり,一覧図の写しを添付した相続登記の申請件数は,相続登記の申請件数全体のうち1割に満たない数しかなく・・・」


 国税庁が公表している数字によれば,令和3年分における被相続人数(死亡者数)は143万9856人であるから,申出件数が約20万件であれば,約13.9%の利用があったということになる。まずまずではないだろうか。

 持ち家率は,約60%といわれているから,単純計算では,持ち家を有する被相続人数は約86万4000人である。

 司法書士が相続登記に関わる場合,概ね,

(1)全ての相続手続のポータルとして相談を受ける場合(「相続手続は何から始めたらいいの?」というケース)
(2)全ての相続手続の最後の手続として相続登記の申請の相談を受ける場合(預金の払戻しや相続税の申告等を全て終えてから相続登記を考えるケース)

のいずれかである。

 前者(1)においては,「まずは預金の払戻しから」というケースが多いので,「とりあえず法定相続情報一覧図の写しの交付を受けましょう」となりやすい。

 しかし,後者(2)においては,不動産登記の管轄が複数である場合(それほど多くはない。)でない限り,一覧図の写しの交付を受けるニーズはないのである。

 そして,実感としては,圧倒的に,後者(2)のケースが多いように思われる。

 私の事務所では,一覧図の写しを添付した相続登記の申請件数は,相続登記の申請件数全体のうち約20%程度であり,平均よりは多いといえるが,申出を代理した件数と同程度の持込件数(本人や他士業者が交付を受けたもの)があることから,それを差し引くと,必ずしも多いとは言い難い。

 司法書士界としては,「司法書士が全ての相続手続のポータルとして相談を受ける」が理想であるが。

 とまれ,申請サイドから考える「課題」としては,

・ 「一覧図の写しを添付した相続登記の申請」も,そうではない相続登記の申請と比して,登記完了までの日数は変わらないのは,何故?である。戸籍事項証明書等の調査がいらないのであれば,即日完了でもいいと思うくらいであるが,概ね登記完了予定日まできっちり日数を要している感である。もっと短期間に手続を了してもらえないのであれば,制度を利用するメリットは小さいのではないか。

・ 一覧図の写しの交付の申出から交付を受けるまでに概ね1週間程度を要している。もっと短期間に手続を了してもらえないのであれば,制度を利用するメリットは小さいのではないか。

・ 管轄が複数(例えば,3か所)である場合,3つの登記所で申請書の調査が重複してされることになり,全ての登記が完了するまでに相当の日数(1か月以上)を要することになる。3の管轄の一括申請を可能とし,申請をポータルで受理した登記所が責任調査を行い,他の2の登記所には調査結果を通知する等により,重複した調査をなくせば,スピーディーに登記完了に至ることができるものと思われる。おそらく登記所においても,このような未来予想図を描いているのではないだろうか。

 一覧図の写しの交付の申出及び相続登記の申請のいずれも,本人申請(俗に「セルフ登記」と呼ばれているらしい。)が激増していると言われ,登記所の負担も比例的以上に増加していると聞く。司法書士界としても全面的に協力したいと思う(個人の感想です。)が,そのためには,もっとスピード感が欲しいところである。
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犯収法第 4 条第 1 項の取引時確認における「実質的支配者」の確認

2023-05-10 19:34:08 | 会社法(改正商法等)
 月報司法書士2023年4月号に,特集「司法書士に求められるマネーローンダリング・テロ資金供与対策」があり,その一として,拙稿「犯収法第 4 条第 1 項の取引時確認における『実質的支配者』の確認」が掲載されている。

 令和6年4月頃の施行が見込まれている改正犯収法に関して,「犯収法第 4 条第 1 項の取引時確認における『実質的支配者』の確認」の概要を紹介するものである。

「この改正により犯収法第 4 条第 1 項の取引時確認事項の範囲が拡大され、司法書士による取引時確認の場合においても、法人顧客の本人特定事項、代表者等の本人特定事項及び取引権限のみの確認のみならず、取引を行う目的、事業内容並びに実質的支配者及びその本人特定事項の確認も求められることとなった(改正後の犯収法第 4 条第 1 項)。
 そこで、本稿においては、この改正のうち、実質的支配者及びその本人特定事項の確認の概要について解説を試みることとする。」

 ぜひ御覧ください。
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イオン株式会社の定款変更(企業理念の充実)

2023-05-10 19:24:29 | 会社法(改正商法等)
イオン株式会社
https://www.aeon.info/ir/stock/meeting/

 従前から存した定款第2条「企業理念」の規定に関して,「企業集団としての行動姿勢,想いを追加する」ために大幅に加筆するものである。

 ん~,確かに「想い」が込められているが,ここまで行くと,果たしてどうなのか?

 取締役は,定款を遵守する義務を負う(会社法第355条)が,取締役の業務執行が定款第2条に違反するという問題が起こり得るのか?

会社法
第29条 第27条各号及び前条各号に掲げる事項のほか、株式会社の定款には、この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項及びその他の事項でこの法律の規定に違反しないものを記載し、又は記録することができる。

 (忠実義務)
第355条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。


 その他,バーチャル・オンリー株主総会の開催を可能とするための規定を新設。
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