以前の記事で,「破産法改正(平成17年1月1日施行)前に任意売却された物件上に否認の登記等が残置されたままとなっているものについても,申し出があれば,職権抹消される取扱いであるはずである」と書いていたが,「当該記事を参考にして申出をしたところ,職権抹消の取扱いを受けることができた」という話を最近耳にしたので,再掲しておく。
cf.
平成25年3月10日付け「否認の登記の職権抹消」
破産管財物件の任意売却による所有権の移転の登記の際に,(1)否認の登記と(2)否認された行為を登記原因とする登記又は否認された登記((2)に後れる登記も)は,登記官の職権により抹消される(破産法第260条第2項)。
これは,破産法改正(平成17年1月1日施行)の際に,追加された規定である。
cf. 「破産法の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)」(平成16年12月16日付け法務省民二第3554号民事局長通達)
https://shihoshoshi.com/touki2030/archives/2031
以下は,平成13年5月17日当時の拙文であるが,改正の意図がわかりやすいと思われるので,今更ながらではあるが,掲げておく。
(ここから)
破産物件に登記されている根抵当権設定請求権仮登記を破産管財人が否認訴訟を起こして勝訴し,否認の登記がされています。その後任意売却がなされると,この仮登記及び否認の登記は朱抹されないまま残されることになりますが,抹消されたのと同一の効力を有するものとして確定し,抹消登記の申請もできないという先例があります。
さて,当該土地が分筆されるとどうでしょうか?
先日取引物件に上記の登記が転写されており,売主側の司法書士から「消せない登記だ,法務局にもそう言われている」と言われたのですが,法務局に赴き,表示の校合官に対して「分筆されると現に効力を有する登記のみが転写される(改正前不動産登記法第76条ノ2,現行不動産登記規則第5条第1項)ため,上記の登記は転写を要しないと思われるが・・・」とねじ込んだところ,比較的あっさり局長許可による職権更正により抹消する,との回答を得ました。
分筆された土地だったからよかったものの,元番の土地の方は朱抹されないまま残り,売買されるたびに買主及び融資金融機関にいらぬ不安を引き起こすことになってしまいます。「司法書士始末記」(日本評論社)には,そのような場合に「枚数過多による移記」を利用し,消すことができたという事例が紹介されていますが,なんらかの立法的解決が図れないものかと思いますね。
(おわり)
なお,改正前に任意売却された物件上に否認の登記等が残置されたままとなっているものについても,申し出があれば,職権抹消される取扱いであるはずである。
ところで,旧不動産登記法第76条第4項の規定が類推適用(?)されて,移記閉鎖された事例として,次に掲げるものがあるようだ。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/147/0004/14704040004010c.html
○ 他人の不動産に誤って仮差し押さえの登記や破産の登記をしたため誤記を理由としてその登記を抹消したが,所有者等から信用問題であるとして苦情の申し出があった場合。
○ 登記の抹消請求訴訟の提起があり,裁判所の嘱託により予告登記がされたが,原告の敗訴判決が確定して予告登記が抹消されたものの,所有者等から信用問題であるとして苦情の申し出があった場合。
○ 破産手続等における否認の登記がされたが,破産取り消し等により否認の登記が抹消されたものの,所有者等から信用問題であるとして苦情の申し出があった場合。
○ 第三者によって偽造印鑑証明書等を使用して所有権移転登記等の登記がされたものについて,無効の判決がされた登記が抹消されたものの,所有者等から信用問題であるとして苦情の申し出があった場合
○ 登記簿を部外者により改ざんされたものについて正当な是正措置がされたものの,所有者等から信用問題であるとして苦情の申し出があったというような場合