青木登『登記官からみた「真正な登記名義の回復」・「錯誤」―誤用されやすい登記原因―』(新日本法規)という元登記官の視点からの良書があるが・・。
http://www.sn-hoki.co.jp/shop/product/book/detail_50807.html
同書154頁以下に,『Q53 「委任の終了」による所有権の移転と構成できる例はありますか。」というQ&Aがあり,
「いわゆる権利能力なき社団の代表者が登記名義人となっている場合に,この社団が法人格を取得し,社団名義に所有権を移転する例が考えられます」として,
「定款を作成し,公証人の認証を得た,設立中のA会社は,その設立登記の前に本件不動産を購入したので,発起人B名義で所有権の登記を経由した。今,設立の登記をしたので,A会社の名義に移転したい」という事案を設定し,
「A会社が本件不動産を取得した時には,会社の設立に向け,定款の作成,公証人の認証(会社30)がなされているので,設立中の会社として,権利能力が認められないとしても,権利能力なき社団として社会的な実在は認められると考えられます」
「そうすると,B名義の登記は,実体には符合するものの,登記の方法がなかったものですから,あながち,「無効」と考えることはできません」
「A会社とBとの間には,A会社の設立に向けて,Bにその事務処理を委任する法律関係(民643以下)が存在すると構成できるのであり,B名義の登記は,この委任に基づく事務処理上なされたものと考えることができます」
「したがって,「所有権移転」の登記原因は,この法律関係の終了,つまり「委任の終了」とすることとなります」
と解説されているのだが・・・。
株式会社の成立後2年以内において,その事業のために継続して使用するものとして不動産を取得する場合には,原則として,株主総会の決議によって,当該不動産の売買契約の承認を受けなければならない(会社法第467条第1項第5号)。
また,いわゆる「変態設立事項」の一である「財産引受」(会社法第28条第2号)の規制があり,株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産等については,定款の記載事項とされている。
さらに,会社設立自体に必要な行為のほかは,発起人において開業準備行為といえどもこれをなしえず,ただ原始定款に記載されその他厳重な法定要件を充たした財産引受のみが例外的に許されるものと解されている(最判昭和38年12月24日民集17・12・1744)。「その他厳重な法定要件」としては,検査役の調査(会社法第33条)等がある。
したがって,これらのルールを無視して,「定款を作成し,公証人の認証を得た,設立中のA会社は,その設立登記の前に本件不動産を購入した」など,会社法上,無効な行為である。
元登記官の解説ということで,鵜呑みにして,実行してしまうことがないように,御注意を。