月刊登記情報2013年1月号「商業登記掲示板 泣き笑い千例集」(119頁)に,佐々城理「マンション解体と清算人選任申立て」があり,破産会社における「スポット清算人」の選任と選任決定の取消しの登記に関して取り上げられている。
「スポット清算人」とは,会社法第478条第2項の規定により,利害関係人から清算人選任の申立てがされるような場合に,申立人が目的とする限定的な清算事務のみを行う清算人を選任するものであり,一部の裁判所で行われている運用である。
Q2 債権譲渡の通知の受取りや不動産の譲渡だけお願いしたいのですが。
A2 事実上申立人の希望する事務だけを行う清算人選任も可能です。
本来,清算人は,例えば破産手続において財団放棄された物件をすべて処分するなど,清算事務をすべて終わらせ,清算を結了させなければなりません。
しかし,それでは,申立人は,希望する清算事務以外の清算事務の分まで,清算人の報酬を事実上負担しなければなりません。
そこで,清算人に対して会社法が規定する厳格な清算手続のすべてを行うことを求めず,申立人が目的とする限定的な清算事務のみを行い,当該事務が終了した時点で,非訟事件手続法59条1項により選任決定を取り消して当該清算人の事務を終了させ,選任に係る登記を裁判所書記官からの嘱託で抹消するという運用(スポット運用)も行っています。
cf. 大阪地裁商事部Q&A
http://www.courts.go.jp/osaka/saiban/minji4/dai2_5/index.html#syouji_18
さて,この場合の登記手続であるが,
① 清算人の選任の裁判に関する登記
清算人の選任の裁判があった場合の変更の登記は,裁判所書記官がその登記を嘱託すべき旨の規定がないので,通常の清算人に関する変更の登記と同様,清算株式会社の申請によってする(会社法第928条第3項,第4項)。
この場合における清算人の選任の登記の申請書には,定款,選任の裁判の裁判書の謄本並びに代表清算人の氏名及び住所(会社法第928条第1項第2号)を証する書面を添付しなければならない(商業登記法第73条第1項,第3項)。なお,裁判所により選任された清算人が定款を入手することが困難である場合には,代表清算人のその旨の上申書があれば,定款の添付がなくても登記申請が受理されているようである(松井信憲「商業登記ハンドブック(第2版)」(商事法務)502頁)。
この場合には,登録免許税が課されるのであり,申請1件につき,9000円(登録免許税法別表第一第24号(四)イ)である。
② 清算人の氏,名又は住所に変更が生じたとき
裁判所が選任した清算人の氏,名又は住所に変更が生じた場合の変更の登記は,裁判所書記官がその登記を嘱託すべき旨の規定がないので,通常の清算人に関する変更の登記と同様,清算株式会社の申請によってする(会社法第928条第3項,第4項)。
この場合の変更の登記の申請書には,変更の事由を証する書面を添付しなければならない(商業登記法第74条第1項)。
この場合には,登録免許税が課されるのであり,申請1件につき,6000円である(登録免許税法別表第一第24号(四)ニ)。
③ 清算人の選任決定の取消しに関する登記
清算人の選任決定の取消しの裁判(非訟事件手続法第59条第1項柱書)があったときは,裁判所書記官は,職権で,遅滞なく,その登記を嘱託しなければならない(会社法第937条第1項第2号ニ)。
この嘱託書には,選任決定の取消しの裁判の裁判書の謄本を添付しなければならない(商業登記法第15条,商業登記規則第40条第1項)。
この場合には,登録免許税が課されるのであり,申請1件につき,6000円である(登録免許税法別表第一第24号(四)ニ)。
余談ながら,清算人の選任決定の取消しの裁判があった場合の登記嘱託に関する会社法第937条第1項第2号ニの規定は,会社法施行時には存しなかったが,「信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(平成18年法律第109号)による会社法の一部改正(平成19年9月30日施行)により追加されたものである。
cf. 非訟事件手続法(平成23年法律第51号)
(終局決定の取消し又は変更)
第59条 裁判所は、終局決定をした後、その決定を不当と認めるときは、次に掲げる決定を除き、職権で、これを取り消し、又は変更することができる。
一 申立てによってのみ裁判をすべき場合において申立てを却下した決定
二 即時抗告をすることができる決定
2 終局決定が確定した日から五年を経過したときは、裁判所は、前項の規定による取消し又は変更をすることができない。ただし、事情の変更によりその決定を不当と認めるに至ったときは、この限りでない。
3 裁判所は、第1項の規定により終局決定の取消し又は変更をする場合には、その決定における当事者及びその他の裁判を受ける者の陳述を聴かなければならない。
4 第1項の規定による取消し又は変更の終局決定に対しては、取消し後又は変更後の決定が原決定であるとした場合に即時抗告をすることができる者に限り、即時抗告をすることができる。