社会福祉法人等の「代表権を有する理事」の予選の問題に関して,以下のように考えるべきではないか。
cf.
平成23年3月31日付「社会福祉法人の理事の変更の登記について」
取締役会設置会社において,定時株主総会の終結の時に取締役全員(ABC)が任期満了退任するために,当該定時株主総会において後任の取締役(ABD)を選任するような場合,同選任議案が承認可決されたからといって,定時株主総会が終結する前に,ABDが取締役会を開催して後任の代表取締役を選定することはできない。未だ取締役の就任の効力が生じていないのであるから当然である。
しかし,「取締役会設置会社以外の株式会社」において,代表取締役の選定を株主総会が行う場合には,当該定時株主総会の取締役選任議案の次の議案として,代表取締役を選定することができる。いわゆる代表取締役の予選であるが,こちらは,問題なくOKである。
それでは,「取締役会設置会社以外の株式会社」において,取締役の選任と代表取締役の選定を,定時株主総会に先立って開催される臨時株主総会において行うのはどうか。もちろんOKである。取締役が任期満了した後の後任の取締役は,定時株主総会において選任されるのが通常であるが,絶対的にそうしなければならないものではなく,先立って開催される臨時株主総会において選任決議を行っても,条件付決議として許容される範囲内であれば,全く適法である。
一般社団法人においては,理事会を設置しない類型である「理事会設置一般社団法人以外の一般社団法人」が許容されており,上記の理は,そのまま当てはまる。
さて,例えば,社会福祉法人に関して,根拠法である社会福祉法は,理事会について法定しておらず,したがって,社会福祉法人の理事会は,あくまで定款の定めに基づく機関に過ぎない。すなわち,社会福祉法人は,「理事会設置一般社団法人以外の一般社団法人」と同じ類型に該当すると言える。理事全員が各自代表権を有するのが原則で,「代表権を有する理事」を選定する行為がされることによって,他の理事の代表権の全部が制限される点も同様である。
社会福祉法人の「代表権を有する理事」については,定款の定めに基づき,理事の互選によるのが一般であるが,あくまで定款の定めによるのであるから,「理事の互選」と異なる方法を採用することも,法的には可能である(監督官庁の「行政指導」を突破できればの話ではあるが。)。すなわち,理事の選任機関において,任期満了後の後任の理事を選任するのと同時に,後任の代表取締役を予選することも可能であるはずである。
したがって,社会福祉法人の理事(ABC)が任期満了退任する場合に,後任の理事(ABD)を予選するようなときにおいて,理事長(代表権を有する理事)の選定についても,定款の定めが「理事の互選による」のでないのであれば,予選が可能であると言える。
そもそも論であるが,理事を選任する際に,定款の定めに基づいて,「代表権を有する理事」「代表権の全部を制限された理事」と区分して選任することもできるはずであり,それが最もシンプルであろう。
長々と論じたが,社会福祉法人の「代表権を有する理事」の予選不可の問題をクリアするには,定款の「理事の互選による」旨の定めを排して,他の方法によるように,定款の変更を行うことが最も簡明であり,妥当であると考える。
なお,特定非営利活動促進法の一部改正(平成24年4月1日施行)による登記実務の取扱いの変更(理事全員を登記する → 代表権を有する理事のみを登記する)によって,改正法施行後の「代表権を有する理事」の「就任(重任を含む。)年月日」は,どのような取扱いになるのか?
cf.
平成23年6月15日付「特定非営利活動促進法の一部改正」
特定非営利活動法人について,改正後の「就任(重任を含む。)年月日」の取扱いを異にする必要はなく,逆に社会福祉法人の「就任(重任を含む。)年月日」の取扱いを早々に改めるべきであろう。