不動産登記の表題部に所有者名(所有者 B)のみが記載されている変則型登記の事例で,土地台帳まで遡って調査したところ,当初の所有者として「A」の記載があり,その後に,「死亡絶家に付き〇〇人」と冠記があって「B」の記載がある不動産があるらしい。あたかも,A→Bという権利の承継がされたような記載であるが・・。
しかし,そもそも「絶家」は,旧民法時代に,家督相続人がいない場合の取扱いであり,このような権利の承継がされているのは不可解である。
そこで,調べていたところ,次の裁判例に行き当たった。
cf. 大判例「甲府簡易裁判所 昭和34年(ハ)53号 判決」
https://daihanrei.com/l/%E7%94%B2%E5%BA%9C%E7%B0%A1%E6%98%93%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%89%80%20%E6%98%AD%E5%92%8C%EF%BC%93%EF%BC%94%E5%B9%B4%EF%BC%88%E3%83%8F%EF%BC%89%EF%BC%95%EF%BC%93%E5%8F%B7%20%E5%88%A4%E6%B1%BA
「ところで民法施行前に開始した相続について、若し「単身戸主死亡又は除籍の日より満六ヶ月以内に跡相続人を届出でないときは絶家したるものと看做」していたが、(明治十七年六月大政官布告第二十号)絶家の財産は絶家と同時に官没される法規又は例規が存在せず、右の財産は五ヶ年間親族又は戸長において保管し、右年限後は親族の協議に任じ然らざるものは官没すべきものとされていた。(大審院大正九年(オ)第五五〇号同十年三月八日判決参照)従つてたとえば絶家後五年を経過した後において、親族間で絶家財産につき協議がなされず又官没もされなかつたとすれば、右財産は民法施行当時無主の財産となつていたというべく、これが不動産であれば民法第二百三十九条第二項により民法施行と同時に国庫の所有に帰したものと認めるのが相当である。」(上掲・大判例)
Aが不動産を取得した時及びAが死亡した時が不明であるので,何ともではあるが,上記の裁判例の理由中の記載からすると,Bについて冠記されている「死亡絶家に付き〇〇人」は,「死亡絶家に付き保管人」であるようだ(実際,そのように読み取ることができる。)。
事実,地券に「A」の記載があるので,Aは,明治時代前半期において,本件不動産を所有していたようである。
であるとすれば,現在の不動産登記記録の表題部に「所有者 B」とあるのは,誤りであって,法的には,所有権は国庫帰属となっているものと推察される。
と単純に考えたが,なかなか容易ではないようである。
cf. 末光祐一「事例でわかる戦前・戦後の新旧民法が交差する相続に関する法律と実務」(日本加除出版)
https://www.kajo.co.jp/book/40689000001.html
※ 86頁~99頁の解説を参照。
もちろん,その後に,Bの相続人等による時効取得の問題が生じている可能性もあるかもしれない。
極めてレア・ケースであると思われるが,備忘として。