株主リストに関する商業登記規則第61条第3項には,「登記すべき事項につき株主総会・・・の決議を要する場合」とある。同項の規定振りは,商業登記法第46条第2項の規定に倣ったものである。
ところが,この「株主総会の決議を要する場合」に関して,従来から,特段の議論はされてこなかったように思われる。
cf. 神﨑満治郎ほか「論点解説 商業登記法コンメンタール」(きんざい)
商業登記実務研究会編著「新版 商業登記法逐条解説」(日本加除出版)
商業登記法や同規則の規定によって,登記すべき事項を証する書面を添付しなければならないという,申請人に対する義務が課されているわけであるから,本来,その要否(本件では「株主総会の決議を要する場合」の該当性)については,精緻に検討されるべきであるが,この点が看過されてきた嫌いがある。
これまで取り上げていない論点を取り上げてみると,
1.取締役会設置会社が株主総会の決議によって代表取締役を選定した場合
先日,最高裁判決も出たように,取締役会設置会社であっても,定款の定めにより,株主総会の決議によって,代表取締役を選定することができると解されている。
それでは,この場合の代表取締役の変更の登記の申請書には,株主リストを添付しなければならないのか。
通常は,何の疑問もなしに,添付されているのであろう。
しかし,厳密に言えば,「株主総会の決議を要する場合」に該当するとは言えないであろう。上記定款の定めによっても,取締役会の選定の権限は奪われていないのであるから。
2.取締役会設置会社でない株式会社において,法定事項以外の決定を株主総会の決議によって行った場合
取締役会設置会社でない株式会社においては,会社法が「株主総会の決議を要する」と明定していない事項の決定については,取締役の過半数の決定によるほか,株主総会の決議によって行うことも可能である(会社法第295条第1項)。
このような事項の変更の登記の申請書には,株主リストを添付しなければならないのか。上記と同様の議論が当てはまるであろう。
例えば,本店移転の決定を株主総会の決議によって行った場合,株主総会議事録に加えて,株主リストも添付しなければならないのかである。
3.合同会社の業務執行社員の職務執行者を株主総会の決議によって選任した場合
上記2の例で行けば,合同会社の業務執行社員が取締役会設置会社でない株式会社である場合には,当該業務執行社員の職務執行者を選任し,登記しなければならないが,この選任を当該株式会社の株主総会の決議によって行ったときは,選任を証する書面として当該株主総会議事録を添付しなければならないことから,株主リストの添付の要否が問題となり得るであろう。
登記すべき事項の変更等につき,株主総会の決議によって決定しているのであるから,拘泥するところではないとも言えるが,「株主総会の決議を要する場合」を端的に「株主総会で登記すべき事項につき決議した場合」と読み替えて差し支えないとは言えないように思われる。
4.新株予約権の行使があった場合
新株予約権の行使による変更の登記の場面においては,資本金の増加額の算定について,発行時の株主総会議事録を添付することがあるが,行使については,直接的に「株主総会の決議を要する場合」に当たらないので,株主リストは不要であると思われる。
東京法務局管内では,不要という取扱いが確定しているそうである。
cf. ひよっこ支部長のブログ
http://shihoushoshi.main.jp/blog/archives/003126.html
しかし,登記すべき事項である資本金の額の増加額の算定基準である「新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金に関する事項」(会社法第236条第1項第5号)の決定については,正に「株主総会の決議を要する場合」に該当すると言えるので,微妙な感も。
そもそも,この事項は,最初から(新株予約権の発行による変更の登記の時に)登記事項にしてしまえば,簡明なのであるが。新株予約権の行使による変更の登記の申請書に,株主総会議事録を添付する必要もなくなるわけであるから。
5.その他
簡易合併の要件を満たす場合に,敢えて通常の株主総会の決議を経るケースも,「株主総会の決議を要する場合」に当たらないという議論もあるが,この場合は,おそらく添付書面からは「簡易合併の要件を満たす場合」であることが判じないので,実務上,株主リストの要否が問題となることはない。
6.結語
平成17年改正前商法時代は,株主総会の権限についての規定は,「総会ハ本法又ハ定款ニ定ムル事項ニ限リ決議ヲ為スコトヲ得」(改正前商法第230条ノ10)であったが,会社法の施行により,取締役会設置会社でない株式会社については,会社法第295条第1項が適用されることになったことから,「株主総会の決議を要する場合」にあいまい感が現れたものである。
とまれ,「株主総会の決議を要する場合」の解釈につき,議論が深化されるべきであろう。
些末な議論のようではあるが,登記実務の現場では,「~しなければならない」と「~することを要しない」の文言は,厳密に使い分けられていることからの問題提起である。
私自身は,新株予約権の行使の場面を除けば,あっさり「添付する」ですね。