月刊登記情報2016年1月号に,「各種の法人における代表権を有する理事の選任又は選定の方法並びにこれを証する書面について」(29頁以下)が掲載されている。南野雅司前法務省民事局商事課法規係長ほかによる解説である。
現行の登記実務の取扱いを丁寧に紹介したものであり,ぜひ御一読を。下記にそのポイントを紹介しておく。
1.定款の全文の添付の要否について
「添付する定款又は寄附行為について,その全部の写しを添付することを要するのかについても見解の分かれるところである。現行の登記実務では,商登規第61条第1項の規定により定款又は寄附行為を添付する場合には,その全部の写しを添付しなければならないとされている(昭和35年9月26日民事甲第1110号民事局長回答参照)・・・そもそも,定款又は寄附行為について,その全部の写しの添付を求めるのかどうかの問題は,同項の規定の適用の有無によって一律に決すべきものというよりは,定款又は寄附行為の抄本を認めた場合において,登記官の適正な審査を担保することができるかどうかという視点からの検討が必要であると考えられる。この問題について,今後の整理が必要であろう。」(上掲32頁,36頁注22)
※ ということであれば,「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあることを証する書面」でよいとする登記実務の取扱いはやはり疑問であり,定款の全文の写しを添付しなければならないと解される。
cf.
平成27年6月4日付け「監査役の監査の範囲に関する登記」の登記すべき事項(再掲)
2.学校法人の理事長の変更の登記について
「(理事長が任期の定めがない理事である場合に)校長(又は園長)である理事以外の理事の任期満了に伴い,理事を選任し,その後,理事長の再選行為があった場合であっても,理事長は退任していないことから,当該理事長の再選行為は,確認的意味しか持たず,理事長の変更(重任)の登記はすることができないものと考えられる。」(上掲34頁)
※ もっともである。
cf.
平成23年4月13日付け「学校法人の理事長の変更の登記(補遺)」
3.社会福祉法人において理事の互選により理事長を選任したことを証する書面について商登規第61条第4項を適用することの可否
「定款の規定に基づき理事の互選により理事長を選任し,かつ,当該理事長のみが社会福祉法人を代表するということは,その実質は,当該理事長以外の理事の代表権を完全に制限することにほかならない・・・しかしながら・・・特定の理事に社会福祉法人の代表権を与えることと同視することもでき・・・各登規第5条において準用する商登規第61条第4項の規定を適用すべきであり」(上掲36頁以下)
※ 「取締役会設置会社以外の株式会社」の取締役の互選の場合との平仄からは,やむを得ないのかもしれないが・・。
cf.
平成23年3月31日付け「社会福祉法人の理事の変更の登記について」
4.代表権を有する理事を予選することの可否
「理事長等を予選することについて合理的理由があり,かつ,その期間が比較的短期間であるとともに,予選の前後において,理事の構成に変動がない場合に限り,することができるとするのが現行実務の取扱いである。」(上掲49頁)。
「現在の理事のうちの一部が再選されたものの,その他の者は再選されず,その者の後任者も選任されなかった場合は・・・理事の構成に変動がない場合に該当しない」(同頁注60)
※ 後者については,許容してもよいのではないか。
5.理事の互選を証する書面として理事会の議事録を添付することの可否及び当該議事録の記名押印
「理事の互選を証する書面としての理事会の議事録について,議事録署名人の記名押印しかない場合であっても,その根拠法により,定款又は寄附行為等において,理事長等の選任方法,理事会の設置及び当該理事会についての議事録署名人を定めることが許容されている法人については,当該議事録を理事の互選を証する書面として認めて差し支えないと考えられる。」(上掲51頁)
※ 公式見解が示されたということで,実務も安定するであろう。
cf.
平成22年7月9日付け「社会福祉法人を代表する理事(理事長・会長)の選任の手続について」