清算株式会社については,会社法第2編「株式会社」第4章「機関」第2節「株主総会以外の機関の設置」の規定は,適用されない(会社法第477条第6項)。
したがって,株式会社の解散により,取締役は,退任することとなり,登記実務においては,「解散の登記をした登記官が,職権で,取締役会設置会社である旨の登記並びに取締役,代表取締役及び社外取締役に関する登記を抹消する(商登規72条1項1号)ため,会社が取締役及び代表取締役の退任の登記を申請する必要はない」(松井信憲「商業登記ハンドブック(第2版)」(商事法務)410頁)という取扱いである。
ところで,取締役権利義務承継者の場合は,どうであろうか。
会社法又は定款で定めた取締役の員数が欠けた場合には,任期の満了又は辞任により退任した取締役は,新たに選任された取締役(一時取締役の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで,なお取締役としての権利義務を有する(会社法第346条第1項)。したがって,登記実務においては,会社法又は定款で定めた取締役の員数が欠けることになる任期満了又は辞任による退任の登記は,受理されず,後任者の就任の登記と同時にしなければならない(最判昭和43年12月24日民集22巻13号3334頁)という取扱いである。
この取締役権利義務承継者も,株式会社の解散により,その地位を失い(会社法第477条第6項),確定的に退任する。したがって,当該者に関する「任期満了又は辞任による退任の登記は,受理されない」という縛りも解凍されることになるから,解散の登記と同時に,取締役の任期満了又は辞任による退任の登記を申請すべきということになる。
この点,従来の実務においては,改選等の要否が問題とされることはあっても,退任の登記の要否について検討されることは稀であったように思われる。しかしながら,会社法の規定により登記した事項に変更が生じたときは,株式会社は,変更の登記をしなければならない(会社法第909条)のであり,商業登記が中間省略を宥恕していない点に鑑みると,解散の登記と同時に,取締役の任期満了又は辞任による退任の登記をするべきである。
なお,取締役の任期満了又は辞任による退任の登記を同時に申請しなくても,解散の登記が受理されるのはもちろんであるが,選任懈怠の問題は,当然生ずる(露見する)ことになる。株式会社の清算人の登記の申請書には,定款を添付しなければならない(商業登記法第73条第1項)ことから,解散の決議と同時に定款の変更の決議を行い,取締役に関する条項の削除を行わない限り,添付された定款により取締役の任期が判ずるので,任期満了による選任懈怠については,登記官の知るところとなるからである。
cf.
平成21年4月21日付「株主総会決議不存在確認の訴えの係属中における破産手続開始の決定」