〇 同一名義人につき数個の持分取得の登記がある場合の登記事務の取扱いについて(昭和58年4月4日法務省民三第2252号民事局長通達)
【要旨】
1 同一名義人が数回に分けて各別の登記により持分を取得している場合には,その登記に係るそれぞれの持分につき抵当権設定の登記又は持分移転の登記を申請することができる。
2 この場合における登記の目的の記載は「何某持分一部(順位何番で登記した持分)の抵当権設定(又は移転)」の振合いによるものとし,申請書に添付すべき権利に関する登記済証は,その持分取得の登記の際に交付された登記済証で足りる。
不動産登記実務における有名な先例の一つであるが,このようなケースで,若干混乱が生じているようである。
まず,数個の持分取得の登記がある共有者A(10分の1ずつ5回取得しており,共有持分は10分の5)がその共有持分の一部(10分の1)をBに贈与する場合の申請情報の記載方については,
1.原則
登記の目的 A持分一部移転
登記の原因 年月日贈与
権利者 持分10分の1 B
2.例外
登記の目的 A持分一部(順位〇番で登記した持分)移転
登記の原因 年月日贈与
権利者 持分10分の1 B
である。
昭和58年通達によって,例外が認められたのは,担保権が設定されている持分と設定されていない持分がある場合,各別に処分したいニーズがあること,また,同通達発出時は区分所有法制定前であり,マンションの専有部分とこれに対応する土地持分(敷地利用権)のみに抵当権を設定したいニーズがあることなどが理由とされていたようである。
cf. 弁護士法第二三条の二に基づく照会(抵当権等の担保権の目的たる持分とその目的でない持分を相続した場合における後者の持分のみの持分一部移転登記申請の可否等) について (平成11年7月14日民3第1414号回答)
https://shihoshoshi.com/touki2030/archives/1863?fbclid=IwAR0JurSrQXvwWzD-L-_U9iu7J9eo5KjOwL757YOwaZ4jLaTEM5vm9NyZ7CA
※ 甲区133番の持分の合計が違うと思われる。
こうした原則と例外の考え方を理解していれば,問題の起きようはずもないのだが,登記記録例211「共有持分の一部移転(数個の持分取得の登記がある場合)」の記載方が誤解を生んでいるのか,原則どおりの申請をしようとしたところ,例外のように「A持分一部(順位〇番で登記した持分)移転」と訂正等をするようにとの補正指示が出されることがあるそうである。
面妖な・・。
登記記録例215及び216「共有持分の一部が第三者の権利の目的となっている場合」には,「(注)順位3番で移転した持分又は順位4番で移転した持分を目的とする抵当権の設定登記等がある場合である。」と注記があり,順位番号で特定する必要があるのは,本来このようなケースである。例えば,昭和37年6月28日民事甲1748号民事局長通達のような事案である。
ところで,東京法務局不動産登記部門から東京司法書士会宛の事務連絡(令和5年2月1日付け)によると,
「同一名義人につき数個の持分取得の登記がある場合の登記申請情報の作成につきましては、昭和58年4月4日民三第2252号民事局長通達によることとされていますが、近時、 申請情報に、 登記の目的が持分の一部である旨(「何某持分一部(順位何番で登記した持分)」 など)を示さず、単に「持分〇分の〇」 のみを記録するなどの誤った申請が散見されています。」
とある。もう少しわかりやすく書いて欲しいところであるが,推察するに,これは,
登記の目的 A持分10分の1移転
登記の原因 年月日贈与
権利者 持分10分の1 B
のように記載して補正になるケースが多いということであろうか。
おそらく,これは,記録例212「共有者の各持分の一部移転」のケースが,
登記の目的 甲持分10分の1,乙持分10分の1移転
登記の原因 年月日売買
権利者 持分10分の2 丙
と記載すべきであることから誤解したものであろう。
とまれ,共有関係の登記については,いま一度整理しておくべきである。