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非認知スキルの心理学 (講談社現代新書)
目標を達成するためには、様々な誘惑や困難を乗り越えなければならない。
目標を立ててそれを実現している人もいれば、いつも目標倒れになってしまう人もいる。
この違いはどこから来ているのだろうか。
生まれつきのものなのだろうか。
それとも訓練で克服できるものなのだろうか。
目標を達成するためには、自分の欲求や考え方をコントロールする能力をしっかり持っていなければならない。
誘惑があった場合でも、今までの習慣を続けたくなった場合でも、自分をきちんとコントロールして目標から外れたことをしてしまわないようにする能力だ。
子どもの時の環境が重要だ。
虐待を受ける子どもは大きなストレスを受ける。
直接的な虐待でなくても、夫婦間の暴力どころか口論さえ、子どもにストレスを与える。
内容紹介
「自分をコントロールする力」が人生の成功を左右する!
近年にわかに注目を集める「非認知スキル」。そのなかでもとりわけ「自分をコントロールする力(実行機能)」は、どうやら学校の成績や仕事の業績、そして将来の健康をも大きく規定するようです。
果たしてその能力は、どのようにして身につくのでしょうか。あるいはどんなときに働かなくなるのでしょうか。発達心理学の最新知見から、その育て方・鍛え方を大公開します。
―――
「非認知スキルがIQより大事って本当?」
「がまんが苦手な子どもの将来はどうなるの?」
「親の貧困や虐待は子どもにどんな影響を与えるの?」
「YouTubeを子どもに見せるのはやっぱりダメ?」
「理想の子育てって?」
「大人でも鍛えられるの?」
……いま大注目の「非認知スキル」にかかわる”そもそも”の疑問に、最新の科学が丁寧に答えます!
* * *
[目次]
はじめに
第1章 実行機能とは?
第2章 自分をコントロールすることの重要性
第3章 実行機能の育ち方
第4章 自分をコントロールする仕組み
第5章 岐路となる青年期
第6章 実行機能の育て方
第7章 実行機能の鍛え方
第8章 非認知スキルを見つめて
おわりに
内容(「BOOK」データベースより)
人生の成功を左右する「非認知スキル」。そのなかでもとりわけ重要な「自分をコントロールする力(実行機能)」は、どのように身につき、どんなときに働かなくなるのか?発達心理学の最新知見から、その育て方・鍛え方を大公開!
著者について
森口 佑介
福岡県生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。京都大学大学院教育学研究科准教授。専門は、発達心理学・発達認知神経科学。著書に、『自己制御の発達と支援』(編著、金子書房、2018年)、『おさなごころを科学する:進化する乳幼児観』(新曜社、2014年)、『わたしを律するわたし:子どもの抑制機能の発達』(京都大学学術出版会、2012年)など。Twitter:@moriguchiy
目標を達成するために、自分の欲求や考えをコントロールする能力を、実行機能と呼びます。
子どもの時にこの能力が高いと、学力や社会性が高くなり、さらに、大人になったときに経済的に成功し、健康状態も良い可能性が高いことが示されています。
第7章「実行機能の鍛え方」から読みたいところをぐっと堪え、第1章から読みました。これも実行機能なのでしょうか。実行機能は、基礎研究の段階を経て、家庭や保育・教育現場において支援・応用する段階に入っています。
子を持つ親や保育士・学校の先生ならこんなチャンスを逃す手はありません。もちろん、実行機能以外の力も大事です。何もかもを考えるのは難しいので、実行機能に注目するのが現実的であり、成功の秘訣です。各章の終わりに「まとめ」がありますが、振り返りは実行機能を鍛える方法の一つです。最も気になる大人になっても実行機能は鍛えられるのかについては、まずは誘惑のある状況に身を置かないのが大人の振る舞いのようです。
キーワードは「実行機能」(いわば自制心)、それをもう少し学術的にいうと「非認知スキル」というのでしょう。 たんに精神論でコーチング技術を唱える巷間の本とは別格、と思います。
ただ本著の性格上、著者の主張はボールドされません。 世界のさまざまな研究成果が紹介されます。 まずはこの「非認知能力」を”認知”してもらいたい、というのが本著のめざすところといえます。
「実行機能」をもっとわかりやすく(皮肉っぽく?)いうなら、「犬でもできる待て、ができるかどうか」、でしょう。
ながらスマホにみられるよう、目の前の欲望に支配されるだけの大人への警鐘であり、そういう人間にならないよう幼少期から留意すべきヒントを提供しています。
大人の定義とは(いろいろな本から一言でまとめるなら)、”感情を思考でコントロールできること”、といえると思います。
本書には、それを実現するための「非認知スキル」という能力、またそれを具体化する「実行能力」の力量に着目してもらおう、という目的がうかがわれます。
前置きが長くなりましたが、差支えない範囲で少し引用してみます。
2章「自分をコントロールすることの重要性」では、IQよりも(というかIQだけでなく)、「自分や他人とうまくつきあっていく能力」がともなってこそ実社会でうまくやっていける、というわけです。 そのスキルがOECDでも報告される「非認知スキル」、というわけです。
たしかに、高学歴・高偏差値なのに、仕事ができない(むしろ足を引っ張る)人って、まぁいますよねぇ、、、。
部分最適・全体非最適といいましょうか、視野の狭い我が道を行くタイプです。 いくら頭よくても考えものです(それを否定はしませんが。本人はそれで幸福なのかもしれませんので)。
5章「岐路となる青年期」は、中学生くらいのお子さんをもつ親御さんたちにとってお役立ちといえそうです。
この章では、ローリスク・ローリターンをとる傾向にある幼少・成年に対し、ハイリスク・ハイリターンをとりがちな青年期(中学生の頃)の事情が説明されます。
要は、青年期は脳のアンバランスな発達期なんですね。
報酬系回路(アクセル)と前頭前野(ブレーキ)の領域が同時に発達しないというわけです。
子ども期の実行機能は青年期における防御因子になる、という専門家の報告も紹介されています。詳しくは本書にあたってくださいね。
6章「実行機能の育て方」は、育児(赤ちゃんを育てている親御さん)にお役立ちでしょう。
アタッチメント(愛着)の重要性が説明されます。
要は、ちゃんと抱っこしてあげて、赤ちゃんに情緒的な安心感を与えることが大切ってことでしょう。
ネグレクトの罪深さも説明されています。
あいかわらずニュースされる
虐待の原因を感じさせ、考えさせられます。
7章「実行機能の鍛え方」では、教育のありかたを考えさせられます。
ステレオタイプな学習指導要領よりも、家庭や社会で直接・間接に「実行機能」を向上させることのほうが、教育的に末広がりなんだろうなぁ、と思ってしまいます。
学校教育がムダというわけではありませんが、なにか方向がおかしいように思えてしまいます。
たとえば、2020年から小学校で教科化される英語に対し、”英語より国語力を”と論じる識者は少なくありません。
それは、この非認知スキルと無関係ではないと思います。
コミュニケーション力とは語学というツール以前に、「そういう関係づくりができる能力」なのだと思います。 それができなくて困っている高偏差値系にさらに高得点を取る能力を積み上げたところで、コミュニケーション能力は上がるより下がるリスクの方が大きいのではないでしょうか…。 話をもとに戻します。
196頁で紹介される”ごっこ遊び”の効用は、ちょっとなつかしい。
要は”オママごと”です。懐古趣味といわれそうですが、昔はみんなそうやって遊んでましたよね。
お金もかからないし、実行機能を高めるためには理にかなった遊びだったといえそうです。
8章「非認知スキルをみつめて」では、”思考の実行機能”が世界の研究者に注目されている背景が説明されます。
冒頭で述べたとおり、感情をおさえる理性的な方法として”思考”が重要、とはよく言われることです。
人間である限り感情的になってしまうことを避けることはできません。
しかし、感情に支配されたまま行動を脱線させるか、いち早く正常路線に自分を引き戻せるかで人生は違ったものになるといって過言ではなさそうです。
そこで、感情と別の”思考”能力が大人としてのバランスには重要、というわけです。
言葉の悪さを承知でいうなら、感情的な人ってバカっぽく見えます。
それは、自制心(つまり実行機能に基づく非認知スキル)がないために自分にも周囲にも不利益な状況をばらまいているばかりか、それに自身が気づいていないからなのでしょう。
本書は「非認知スキル」の説明(その世界の研究報告の紹介)が全213頁にわたり占めており、著者の提言やその検証、証明といったスリリングな展開はありません。
しかし著者みずから212頁で述べているとおり、”この本を通じて実行機能についての理解が広まることを願っている”のであって、それが本書の目的なのですね。
一冊の本としての完結度はさておき、まずは「非認知スキル」という聞きなれない能力への理解が深まったことだけでも本書を読んだ価値は大きかったと思います。
今後、ご自身の提言から検証まで発展的に著作を増やしていただけるよう期待します。
といいますのも、著者は「おわりに」の最後でこう述べます。
執筆時、「学術的な書き方が抜けきれず苦戦したが、編集部から適切なコメントをもらった」、と。
たぶんもっと堅苦しい内容だったけれども、玄人目線から素人目線に切り替えたのでしょう。
全編、語り口調のとても分かりやすく読みやすい内容です。
特に子育て世代にはおススメですね。