公明新聞 2023年12月3日
党創立者と公明党 人間主義の政治をリード
作家 佐藤優氏に聞く
公明党創立者である池田大作創価学会名誉会長が11月15日に逝去されました。各界の指導者・識者らと対話を重ねてきた池田名誉会長は「世界的な人道主義のリーダー」(アンワルル・チョウドリ元国連事務次長)として、国内外に大きな影響を与えました。池田名誉会長が公明党を結党した意義や、日本外交に与えた影響などをどう見るか、『池田大作研究』などの著書がある作家の佐藤優氏に語ってもらいました。
■(結党の意義)庶民の側に立つ初の大衆政党
公明党の淵源は、日蓮仏法に基づく教団である創価学会に1954年に設置された文化部だ。戸田城聖・創価学会第2代会長の時代だった。その戸田氏の思いを第3代会長となった池田大作氏が受け継ぎ、公明政治連盟の結成、公明党の結党へとつながっていった。
当時の政治状況は、民衆から遊離したところで政治が決められる“宴会政治”“金権政治”が厳しく批判されていた。こうした政治の土壌を変えるためには、庶民の側に立つ、大衆政党をつくる必要があった。
当時、政党には、自民党のような国民政党、社会党や共産党のような階級政党があった。国民政党では、国家の枠にとらわれ、日本国籍のない外国人は排除されてしまう。階級政党はイデオロギーが中心となり、人間は二の次になる。国籍や階級を超えた人間主義で、人間の生命を大切にする大衆政党は公明党の誕生によって初めて実現された。
忘れてはならないのは、公明党結党の根底には、池田氏が生涯貫いた、民衆を侮蔑する権力との闘争があったことだ。国家権力と民衆の間には“壁”がある。これを破壊しようとするのが革命家や革命政党だ。池田氏はそうではない。壁の向こう側にも人間がおり、対話で変化を起こす。さらには人間主義の価値観を持つ人を壁の向こう側に増やしていく闘いだった。
■立党精神堅持し与党に
池田氏は、公明政治連盟第1回全国大会で立党精神の淵源となる「大衆とともに」との指針を示し、これが現在の公明党でも堅持されている。私は、この立党精神には理想と現実のはざまで、少しでも現実を理想に近づけていくという意味も込められていると思う。
公明党は与党になるという歴史的選択をした。もはや、きれいな看板、きれいな言葉ばかり掲げることはできなくなった。その代わり、実際に苦しんでいる人々に政策を通じて恩恵を届けることができる。公明党が与党になったのは、現実を理想に近づける立党精神を追求していった先の、必然の帰結だったのではないか。
■(外交への影響)生命尊厳の価値観広げる
池田氏は、世界各国の要人と交流を重ねた。特に中国とは、周恩来・初代首相から胡錦濤・前国家主席に至るまで歴代首脳と会談している。公明党は池田氏の切り開いた中国人脈を引き継ぎ、日中外交を政党の立場からサポートする重要な役割を担っている。
私が外務省でソ連担当であった1990年、池田氏はゴルバチョフ大統領(当時)と会談した。翌年4月にゴルバチョフ氏の訪日を実現できたのは池田氏のおかげだ。
両氏は、核廃絶という価値観で強く共鳴していた。池田氏を突き動かしていた「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない」との確固たる平和への信念は、公明党にも共有されている。
指摘しておきたいのは、池田氏や公明党の価値観が、自民党や政府を“感化”している点だ。例えば、岸田文雄首相が今年9月に行った国連総会の演説では「人間の命、尊厳が最も重要であるとの原点に立ち返るべき」と、何度も「人間の尊厳」「人間中心」という言葉を使っている。
まさに岸田首相が人間主義の立場に転換を遂げており、これは公明党の大勝利だと思う。公明党員の皆さんは、どうか自信を持ってほしい。
■(「政教分離」考)宗教など中間団体の政治参加は世界の主流
政教分離には、世界にA型とB型の二つのタイプがある。A型は、国家が特定の宗教を優遇もしくは忌避しない。かつ宗教団体が自らの価値観に基づいて政治活動を行うことも自由だ。むしろ宗教団体のような中間団体が政治に関与することが、民主主義の担保になると考える。米国やドイツ、日本など世界のほとんどの国が、この立場だ。
一方のB型は、国家が特定の宗教を優遇もしくは忌避しないのは同じだが、教育や政治から一切の宗教を排除する。この立場を取るのは中国や北朝鮮、さらにフランスだ。日本はA型の立場を取っている以上、公明党と創価学会の関係は全く問題ない。
「言論問題」についても触れておきたい。公明党と創価学会はかつて、政治学者の藤原弘達氏が書いた『創価学会を斬る』の出版を妨害したとして社会から集中砲火を浴びたが、この本は現代の基準では“ヘイト(憎悪)本”だ。加害者は藤原氏、公明党と創価学会は被害者という基本構図を忘れてはいけない。
内閣調査室(現・内閣情報調査室、内調)幹部の回想録で明かされた事実として、藤原氏は内調から20年以上にわたり接待を受け続けた協力者の1人だったことも指摘しておく。
■相次ぐ退潮報道、根拠は何もなく
池田氏の逝去を受け、公明党の支持母体である創価学会が退潮するとの報道が目に付くが、私は全くそうは思わない。なぜなら、池田氏は将来への基盤を完璧に整えてきたからだ。
公明党の得票数がピーク時と比べて減っているといっても、社会全体で世俗化や政治的無関心が進む中、創価学会は日本最大の組織力を持っている。それを過小評価するべきではない。
何の根拠もないマスメディアの報道や誹謗中傷に対しては、公明党もしっかり言論戦で打ち返していくべきだ。
さとう・まさる
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省に入省。在ソ連・在ロシア日本大使館に勤務し、主任分析官として活躍。『佐藤優の「公明党」論』『創価学会と平和主義』など著書多数。新聞、雑誌の連載も多い。