【史上初】国会で首相が「悪質ホスト」に言及、被害者家族は岸田答弁をどう見たか?
富岡悠希:ジャーナリスト、ライター
2023.11.21 5:35
衆議院本会議で鎌田さゆり議員の質問に答える岸田首相(衆議院のインターネット中継の画像/編集部作成)
「悪質ホスト」問題は、ついに首相が国会で答弁するに至った。
岸田首相は20日午後、衆院本会議の代表質問で同問題への認識を問われ、「返済のために売春するなどの事例があることを承知しております」と回答。首相が「しっかり行って参ります」と宣言した対策の中身とは?
「悪質ホストクラブ被害防止法案」を超党派で成立させるべき
質問した鎌田さゆり議員(立憲)は、政務三役の辞任ドミノや世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への対応などと共に悪質ホスト問題について、次のように尋ねた。
「『悪質なホストクラブ問題』について。この問題は、客に支払い能力をはるかに超える数十万円、数百万円もの売掛金債務を負わせ、その返済のために風俗で働くことや売春を強いる点に悪質性があり、客の支払い能力をもとに信用を与える通常の売掛とは全く違います。
人生を狂わされるケースや、被害者が自死に追い込まれる被害も出ています。職業安定法違反、売春防止法違反による逮捕も相次ぎ、消費者契約法のデート商法に該当する可能性があり、海外での売春にも拡大し、露木(康浩)警察庁長官は背後に犯罪グループが存在する可能性を指摘しました。
私がお目にかかった被害者のご家族は、『自分の娘と同じ被害にあう人を無くして欲しい。自分の娘は社会復帰のチャンスは与えられないのか。助けて欲しい』と、切々と訴えておられました。
総理、『悪質なホストやホストクラブ商法』は問題と思われませんか。どのようにして被害を防止し、被害者を救済するおつもりですか。私たちが来週にも国会提出予定の現行法を最大限活用しての被害防止のための理念法案『悪質ホストクラブ被害防止法案』を超党派で成立させるべきではないですか。見解をお伺いします」
取り締まり、立ち入り指導
をしっかり行う
岸田首相は以下のように回答した。
「悪質なホストクラブへの対策についてお尋ねがありました。いわゆるホストクラブの利用客が、高額な利用料金の売掛による借金を背負い、その返済のために売春するなどの事例があることを承知をしております。
議員立法については、まずは国会においてご議論いただくものであり、政府の立場からお答えすることを差し控えますが、政府としても、関係省庁が一層緊密に連携をし、ホストクラブ従業員による売春防止法違反、職業安定法違反等の違法行為の取り締まりの他、風営適正化法に基づくホストクラブへの立ち入り指導、消費者契約法等の関係法令の周知、また相談対応の強化等の対策、これをしっかり行ってまいります」
史上初の首相答弁に被害者家族が思うこと
首相答弁に被害者家族が思うこと
当時18歳の身内が悪質ホスト被害を受けたという西日本に住む60代女性Aさんも、ネットで岸田首相の答弁を見つめた。Aさんはホストからの被害体験や、相談先が見つからなかった苦悩などを複数メディアに語ってきた。
そうした経緯を踏まえ、「今まで野放しだった悪質ホスト問題が国会で取り上げられ、さらに首相が承知しているとの認識を示したことには一定の意味がある」との評価を示した。
そのうえで2022年4月の民法改正で成人が20歳から18歳になったことに言及。「特に18、19歳の若年女性が悪質ホストに狙われていることに意識を向けて欲しい」と続けた。
そして、今後に向けての決意を添えた。
「被害者家族として、気を緩めず現状を注視すると共に、世間の興味関心が薄れないようにしたい。同じ被害者や支援団体と密に連絡を取り合って動いていきます」
若い女性を風俗店勤務に追い込む「悪質ホスト」が社会問題となっている。
ホストに対して多額の売掛を抱えてしまい、その支払いを迫られる女性が後を絶たない。18、19歳の被害者も増えているという。その支援を担う「青少年を守る父母の連絡協議会」(略称・青母連/せいぼれん)には、今夏の設立以来、相談の電話が絶えない。新宿区歌舞伎町で21年にわたって相談対応をしてきた「日本駆け込み寺」創設者で青母連の代表を務める玄秀盛さん(67)に、ホストの悪質な手口や「売掛金禁止条例」の必要性について話を聞いた。(取材・文/ジャーナリスト 富岡悠希)
1 統一教会と悪質ホスト
問題の根っこは同じ
——悪質ホスト問題への報道が増える中、青母連の活動は今、どうなっていますか?
7月20日に設立して以降、電話相談は150件、面談は50件を超えた。今もそこの電話がなっているでしょう。ほとんどが青母連への連絡で、今も応対者が別の場所で話を聞いているところです。
全国から電話がかかってきます。「娘がホストにハマり、900万円の売掛がある」「ホストに貢ぐために、娘が風俗で働くというのを止めたい」。相談はこうした切実な内容ばかりです。青母連の立ち上げとメディアの報道が重なったこともあり、まさにパンドラの箱が開いたように感じています。
さらに言うと、最近起きた二つの大きな事件で、ようやく「悪質ホスト問題」が社会問題として認知されるようになってきました。
20年以上にわたって歌舞伎町で活動してきた玄秀盛さん
撮影:富岡悠希
——二つの事件とその影響とは、どのようなものなのでしょうか?
キーワードは、「マインドコントロール」。最近でもよく耳にするやろ?安倍晋三元首相への襲撃事件から表面化した「旧統一協会問題」と根っこは一緒や。不幸なテロ事件で表に出てきた宗教のやり方と、ホストの手口がまさに同じだと、我々は気づくことができました。
ホストは若い女の子を、あの手この手でマインドコントロールしようとします。そして、中絶や過剰な風俗店勤務を強いるなどの性加害に加担しているのです。
この春、俺は1冊のノートを手に入れた。そこにはホストの新人研修で講師のホストが語ったホストの心得やテクニックが、4ページにわたってメモされていました。客の女の子に対して精神的な「鎖をかける」とか、言葉の「地雷をおく」といったテクニックで客を「マインドコントロール」状態に陥れるとハッキリ書いてあります。つまり、客に正常な判断をさせないという手法が横行しているわけです。
ジャニーズと悪質ホストに共通する
「夢」と「性加害」
——もう一つの事件とは何でしょうか?
連日のように取り上げられてきた、旧ジャニーズ事務所の創設者、故・ジャニー喜多川氏による性加害問題です。#MeToo運動が広がりを見せるなど、その時々で性被害・性加害の問題は注目されてきました。しかし、企業が有名タレントとの契約を見直す動きが起きたこともあり、やはりこのジャニーズ問題は決定的な重みを持ったのだと考えています。
悪質ホストは、女性に対して恋愛感情や結婚をエサにつけ入ります。そして「僕がナンバーワンになるのを手伝って欲しい」「将来、独立して店を持ちたいから支えて欲しい」とささやく。そして、高額な売掛を払わせるために、女性を風俗店勤務へと誘導するのです。女の子は惚れているうえに、マインドコントロール下にあるから、ホストの要求を飲んでしまいます。過剰なシフトで働くと体調を崩すようになるが、「僕たちの夢のために」とホストは休むことを許しません。
また、きちんと避妊せず「枕営業」をするホストもいます。女性は妊娠してしまうが、「今は2人で夢に向かって頑張っている途中だから無理だけど、今度は産もう」などと言って、中絶させるようです。その中絶費用はあえてホストが払ったりするケースもあります。これは共通の後ろめたいことを作って共犯関係を形成し、女性が引けないようにするのです。
ジャニー氏はアイドルになりたい男の子の夢を利用し、性加害を犯した。ホストは自分と一緒になりたい女の子の夢を利用し、同じく過剰な風俗勤務や中絶による性加害をもたらしている。夢を利用する点で同じ構造を持っているのです。
——何か対策はありますか?
25歳以下の「青少年」に対してはホストが売掛ができないように「売掛禁止条例」を作るしかないでしょう。20代以下の普通の女性に、一晩で50万円や時に100万円以上ものツケを払わせるのは、どう考えてもおかしい。根本を止めさせなければいけません。
2022年4月の民法改正で成人が18歳になりました。それまでは18歳・19歳だったら「未成年者取消権」が使えて、売掛も帳消しにできましたが、今はできません。むしろ、若年女性が標的となっているのが現状です。
身分を隠したホストがSNSで、17歳の女性と接触。徐々に仲良くなっていき、18歳になったら「最初だからタダでいいよ」とお店に誘う。一度、来店させてしまえば、あとはホストの思うまま。恋愛経験も社会経験もほぼない若い女の子ならすぐに術中にはまってしまうでしょう。
我々も手をこまねくだけでなく、こちらからも動かなければいけません。前例はあります。2000年に東京都がいわゆる「ぼったくり防止条例」を、2013年には新宿区が「客引き禁止条例」を制定しました。これらを参考にして各所に働きかけをしていきたい。