これまで普通の生活を送っていたのに、突然、多額の現金や価値の高い不動産などを相続したことで、暮らしが一変してしまう人にお会いすることがときどきあります。相続だけではなく、贈与のケースもありますし、多額の生命保険金が入った人、はたまた何千万円以上といった高額宝くじに当たった人もいらっしゃいました。
「相続したものは使えばなくなるから、将来に備えよう」などと考えて行動できる堅実な人ももちろんいらっしゃいます。ですが、例えば不動産を相続して、毎月家賃収入などを得られるようになった人は、毎月の収入が増えたことにより、支出が多くなりすぎる傾向があります。
そして、給料と家賃収入の両方を毎月得られるのが当たり前になり、それを使い切るような生活になって、そんな生活の仕方に慣れきったときに、家賃収入が途絶え、暮らしが立ち行かなくなる……。そんなケースも実は少なくありません。
もちろん、そういったイレギュラーな収入には手を付けずに生活しようと決めて、しっかりと貯めている人もいますが、家計相談に来られる人の中では少数派です。
膨らんでしまった支出を改善するためには、当たり前ですが、生活費のダウンサイジングをし、働いて得た収入の範囲で暮らして、貯蓄体質に変わらなければなりません。ただ、最初からきちんと収支の計画を立てて蓄えておけば、困ることなく将来のためにお金を回せただろうに、と残念に思ってしまいます。
● 父親から賃貸用不動産を相続 家賃収入を得て「ちょっとぜいたく」な生活に
先日、家計相談にいらっしゃった会社員のJさん(43)も、相続をきっかけにお金の使い方が変わってしまった一人です。長く闘病していた父親が亡くなり、2軒の賃貸用の不動産を相続しました。母親は既に他界しており、一人っ子であったため、全てJさんが相続しました。
相続は大変ありがたいものでしたが、実はJさん自身、数年前に住宅を購入し、住宅ローンを返済中です。ですから、この相続した不動産は売却したほうがよいのではないか、それとも今支払い中のマイホームを手放し、相続した物件に住むほうがよいのかなど迷いました。結論が出ないままでいましたが、相続関係の手続きが終わり、相続税の支払いも終わると、家賃という臨時収入が増え、暮らしが意外と楽になったと感じるようになりました。
Jさんにはパート勤務の妻(44)と、長男(中2)、長女(小6)がいます。会社からの手取り収入は34万円ほどでしたから、住宅ローンの返済などをしていると、欲しいものをなかなか家族に買ってあげられず、我慢させることも多かったと感じていました。
ですが、家賃として毎月20万円強の収入を得るようになると、「少しくらいいいか」「今までさんざん我慢させたんだから」と子どもたちが欲しがっていたゲーム機や洋服、電子ピアノなど、妻にもバッグやアクセサリーを買ってあげるようになりました。
さらに外食が増え、身に着けるものも今までよりちょっといいものになり、すっかりお金を使う生活に慣れてしまいました。「ちょっとぜいたく」が当たり前になってしまったのです。
● 入居者の退去で家賃収入半減! ぜいたくに慣れたら元に戻すのは大変
翌年の春、入居者のうち1世帯が転勤のため退去することになりました。すぐに次の入居者を探しましたが、なかなか決まりません。このことで、月の家賃収入は約10万円減り、毎月のやりくりはすっかり赤字となりました。
そんな中、Jさんが住んでいる家、賃貸用の物件2軒分の固定資産税の請求書が届きました。4期に分けて支払うとはいえ、まず第1回の納入期限は月内となっています。1期分の納付額は3軒分を合わせて25万円ほどですが、どんどんお金を使う癖がついてきていたJさんは、減収に加え、貯蓄を取り崩して日々の生活費に充てていたため、どのように固定資産税を支払っていけばいいのか、わからなくなってしまいました。
こうした状況の中、家計相談で私のもとへ来られたわけですが、できることは限られています。生活費を圧縮するという当たり前のことだけです。そしてそのためには、ちょっとしたぜいたくに慣れてしまった金銭感覚を変えることが必要です。さらに、先々支払わなくてはいけないお金について見据えることも大切でしょう。
今までは家賃収入があることで家計が回っていたわけですから、もしかすると最初は我慢が大きかったり、つらいと感じたりするかもしれません。ただ、以前、家賃収入がないときも、何とか黒字を維持できたのですから、不可能ではないはずです。まずは、本当に必要な支出かそうではないか、メリハリをつけながら、以前の家計の状態に近づけるよう改善していくことが望ましいでしょう。
人は、思いがけず収入が増えると「大切にとっておこう」と思っていたとしても多少の気のゆるみができ、知らず知らずのうちに羽目を外してしまいがちです。それがすべて悪いわけではありませんが、Jさんのように羽目を外しすぎると、慣れてしまった後に元に戻すことが非常に大変になります。
相続はありがたいものですが、それに頼った生活をしてしまうと、その後の暮らし方に大きな影響を与えます。臨時収入が定期的に増えるのであれば、それに関する経費について、またはその安定はずっと続くものかを考慮して、支出をコントロールしていきたいものですね。
(家計再生コンサルタント 横山光昭)
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