混迷する世界と日本

2025年01月09日 14時06分41秒 | 社会・文化・政治・経済

【特集】イアン・ブレマー氏に聞く 混迷する世界の行方

特集は、世界の混迷に、何らかの出口はないのかを考えていきます。別府正一郎キャスターがアメリカの国際政治学者、イアン・ブレマー氏にインタビュー。

 

ブレマー氏といえば、1年のはじめに「世界の10大リスク」を発表することで知られていますが、2024年は、「アメリカの分断」や「瀬戸際に立つ中東」、「ウクライナの事実上の割譲」などをリストアップしていました。

最新の情勢をどう見ているのか、聞きました。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で2024年10月28日に放送した内容です)

 

・ウクライナ 紛争凍結の可能性

別府キャスター: 現在、世界の最大の課題であるウクライナと中東について伺います。まずはウクライナですが、公正で持続的な和平を実現できる可能性はあると思いますか?つまり、ロシアが侵攻を断念する可能性はありますか?

 

ブレマー氏: 日々の戦闘がなくなり、紛争の凍結もありえます。しかしウクライナが奪われた領土を取り戻せるとは思えません。ロシアがウクライナの土地を占領するのは不当なことですので、公正な解決策にはなりません。

ウクライナの軍事力は十分ではありません。現在のレベルで戦闘を続けたり、支援を受け続けたりすることはますます難しくなるでしょう。ロシアはウクライナより広大で、経済も軍の規模もずっと大きな国です。しかも、何の処罰も受けずに行動しています。残念ですが、出来ることは、ウクライナへの侵攻を許してしまったような過ちを繰り返さない方策を考えることです。

別府キャスター: そもそも紛争の凍結は可能でしょうか?ウクライナの人々は、たとえ望んでも凍結されることはないと話しています。ロシアが再び攻撃してくるまでの一時的な中断にすぎないと懸念しています。

ブレマー氏: 戦闘が止まっている間に、ウクライナの安全を保証する措置をとることは可能です。ウクライナ国内に西側諸国の部隊を派遣したり、ウクライナのNATO加盟が実現したりすれば、ロシアが再び攻撃することは防げるでしょう。逆に言えば、こうした措置がとられない限り、一時休止の後、ロシアが再びウクライナを攻撃するのを防ぐことは出来ません。

 

・中東情勢鎮静化のシナリオ

別府キャスター: 次は中東についてですが、鎮静化のシナリオはありますか?

ブレマー氏: そのシナリオはあると思います。実際ガザでは、鎮静化の兆しはすでに見てとれます。もちろん、苦しむパレスチナ人にとって、そうは思えないでしようが、死者の数を見てもここ数か月は4万人台となっています。なぜならば、イスラエルにはもはや攻撃する標的すら多くは残されていないからです。すでに多くの指導者を殺害し、トンネルを爆破し、ミサイルや兵器の保管場所を破壊しました。他に何を攻撃するというのでしょうか。ある時点で、イスラエルが「大規模な軍事作戦は終了した。ただし、テロリストを見つけたら攻撃する権利は保持する」と一方的に言い出す可能性が高いと思います。

 

ブレマー氏: レバノンについては、まだそこまでには至っていませんが、数週間から数か月以内に同じ状況になるでしょう。イスラエルが北部から避難している6万人の住民を帰還させ、自宅や学校に戻すことができれば、レバノンでも軍事作戦の完了について何らかの宣言があると思います。

イランは、イスラエルにとって大きな敵であり続けますが、両国は国境を接していません。アメリカが関わる全面戦争になって、原油が湾岸を通過できなくならない限り、事態が大きくエスカレートすることはほぼないでしょう。

 

・リーダー不在 “Gゼロ”の世界

別府キャスター: 長年、地政学的な問題を見てきた中で、アメリカのイスラエルに対する影響力の低下は驚きですか?

ブレマー氏: 私は12年前に「Gゼロの世界では国際的なリーダーシップはますます欠如する」と書いたので、衝撃ではありません。アメリカは世界の警察官で、グローバルな貿易や価値観の推進者という役割に消極的になっていました。

 

ブレマー氏: 確かに、イスラエルはアメリカにとって中東における最も重要な同盟国です。それでもアメリカは積極的ではありませんでした。「2国家共存、人道支援が大切だ」とロで言うだけで、物資を搬入する桟橋を建設した程度です。しかし、アメリカがイスラエルに何か強制するでしょうか?言うことを聞かないイスラエルは何かを失いますか?ありませんよね。それがGゼロの世界秩序であり、リーダー不在ということです。

別府キャスター: とはいえイスラエルへの最大の軍事支援国であるアメリカはもっと真剣になるべきでは?

ブレマー氏: 東南アジアでは、その影響が見てとれますね。アメリカから中国寄りになっている国があります。マレーシアやインドネシアのような国の人々は「これはイスラム教徒に関わる、自分たちの問題」と見ていて、ガザで起きていること、そしてガザでのアメリカの行動に大きな怒りを感じています。

別府キャスター: アメリカ政府の当局者は、イスラエルへの過剰な支援が自身の評判や信頼を傷つけると認識できていますか?

 

ブレマー氏: 中国でさえ、ロシアへの支援によって、ヨーロッパでの影響力が大きく低下しています。中国政府はそれを認識していても、対応する気はない。習近平国家首席はBRICSサミットで、仲間のプーチン大統領と一緒に座っている状況です。中国は国際秩序、国連に基づく秩序を支持すると言っていますが、ロシアがウクライナで犯す何千もの戦争犯罪を止めるために何もしていません。

これがリーダーシップが欠如したGゼロの世界です。

 

・悪意ある使用も AIの脅威

別府キャスター: これはブレマーさんが年始に発表した2024年の10大リスクです。AIのリスクを4番目に挙げていますね。AIは私たちの生活をより良くするテクノロジーだと考えられています。中東の紛争やウクライナの危機と一緒に並べられるのはなぜでしょうか?

ブレマー氏: これが前向きなチャンスを提供するもののリストだったら、AIは1位になるでしょう。AIはリスクとチャンス、両方のリストに入ってきます。恩恵も大きいですが、危険性もあります。多くの場合、技術が世界にどんな影響を与えるかは、誰がどう使うかにかかっています。そして、管理されていないAIの一部が、いま悪意を持って使われています。

 

ブレマー氏: つい先日、アメリカの大統領選挙でも起きました。ロシアからのディープフェイクが、選挙に影響を及ぼしたのです。ハリス氏の副大統領候補ウォルズ氏が、かつて彼の生徒に対して性的な嫌がらせをしたという偽動画や偽情報が拡散されました。それは完全な偽情報なのですが、トランプ氏の支持者の間で大きな注目を集めています。アメリカのような国で、偽情報がはびこり、平和的に政権が移行するのを妨げる深刻な状況なのです。

別府キャスター: 人々が見たい情報だけに浸っていると民主主義が妨げられるのはなぜですか?

ブレマー氏: 何が事実かについてすら合意できないようでは、民主主義の維持は困難です。アメリカでは今、基本的な事実についての意見が食い違う中で、選挙戦が行われています。

 

・秩序なき世界 日本の役割は

別府キャスター: 最後は日本についてです。問題が山積するこの世界で日本が果たすべき役割は何ですか?自分の国に甘すぎるかもしれませんが、去年帰国してやはりほっとしています。こうした日本特有の良さはGゼロの世界を良い方向に導けますか?

 

ブレマー氏: 日本には調和の取れた秩序があり、人々はルールと規範を守って暮らしています。それは素晴らしいことです。ただ、世界が崩壊しようとしている中で、日本は内にこもって安心してはいられません。日本に求められるのは、ルールや法律が確実に守られるよう、世界で大きな役割を担うことです。日本が成功するためにも、日本こそが安定した一貫性のある国際秩序を必要としているはすです。日本の総理大臣は、明確な世界観をもち、それをしっかりと世界に示さなければなりません。

 


中川キャスター: ブレマーさんが言う「Gゼロの世界」、リーダー不在によって問題が深刻化するということでした。

別府キャスター: そうですね。一方でインタビューを通じて感じたのは、現状を追認するだけでもいけないということでした。

そういう意味で日本が大切にしてきた、規範やルールの尊重、社会のつながりといった価値観をもっと世界に発信していく重要性が増しているようにも思います。

 

 

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