1勝3負を狙って競輪場へ

2015年08月17日 01時46分19秒 | 創作欄
3戦を2勝1負
阪神はこのままで行けばセ・リーグで優勝するだろう。
木嶋典男は1勝3負を狙って競輪場へ通っていた。
福島県の白河から14歳で上京した木嶋の父親の宏輔は、深川の米屋の丁稚小僧として働き、やがて自分の店を構えることができた。
たまたま祭りの夜店で瀬戸物に魅せらて、米屋の奉公から瀬戸物屋を目指し21歳で深川に店を構えたのである。
新しくできた相撲部屋へ瀬戸物を売りに行ったら、女将さんに気に入られすんなり商品が売れたのである。
女将さんが福島の白河出身であったことも幸いした。
「あんた、若いのに21歳で独立するなんて、やり手だね」と女将さんが褒めてくれた。
何が幸いするかわからない。その女将さんの好意から他の相撲部屋にも瀬戸物を売り込みことができたのだ。
さらに相撲部屋の縁から深川界隈の料亭にも瀬戸物を収めることができたのだ。
だが、戦争のためにすべてが灰塵に帰してしまった。
一生食べられる財産を築いていたのだが、多くの人々と同様に皮肉な運命を辿ったのである。
宏輔は実家の木嶋家の長男も次男も戦死したので、父親に請われて戦後は白河に戻り農家を継いだ。
木嶋典男は取手の居酒屋で利根輪太郎に父親の話をした。
「俺が商売を始めたら、オヤジがお前は金儲けが下手だとけなしてね。でも、こうして73歳の今も現役で居られる。好きな競輪もできる。オヤジはいっさい賭け事をしなかったがね」
輪太郎はその日の競輪談義をしながら、木嶋典男の半生も聴くことができた。























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