新書 続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実
アジア・太平洋戦争で約230万人の軍人・軍属を喪った日本。死者の6割は戦闘ではなく戦病死による。この大量死の背景には、無理ある軍拡、「正面装備」以外の軽視、下位兵士に犠牲を強いる構造、兵士たちの生活・衣食住の無視があった。
進まない機械化、パン食をめぐる精神論、先進的と言われた海軍の住環境無視……全面戦争に拡大する日中戦争以降、それらは露呈していく。
本書は帝国陸海軍の歴史を追い、兵士たちの体験を通し、日本軍の本質を描く。
【目次】
はじめに
序 章 近代日本の戦死者と戦病死者――日清戦争からアジア・太平洋戦争まで
疾病との戦いだった日清戦争 戦病死者が激減した日露戦争 第一次世界大戦の戦病死者 シベリア干渉戦争の戦没者数 伝染病による死者の激減 軍事衛生の改善・改良と満州事変 退行する軍事衛生――日中戦争の長期化 アジア・太平洋戦争の開戦 陸海軍の戦没者数 日露戦争以前に戻った戦病死者の割合
第1章 明治から満州事変まで――兵士たちの「食」と体格
1 徴兵制の導入――忌避者と現役徴集率
徴兵令の布告 現役徴集率二〇%の実態 徴兵忌避の方法 沖縄の現実、徴兵忌避者の減少 軍医の裁量権――高学歴者への配慮と同情
2 優良な体格と脚気問題――明治・大正期
明治の兵士――身長一六五センチ、体重六〇キロ 脚 気――総人員三割から四割の罹患 兵士たちを魅了した白米
3 「梅干主義」の克服、パン食の採用へ
栄養学の発展――第一次世界大戦後の日本 陸軍の兵食改善 一九二〇年のパン食導入 冷凍食品の導入と大型給糧艦 洋食の普及と充実――満州事変期 壮丁と兵士の体格
4 給養改革の限界――低タンパク質、過剰炭水化物
シベリア干渉戦争の失敗 飯盒炊さん方式による給養 兵食における質の問題 陸軍でのパン食のその後 揺れる海軍のパン食――「皇軍兵食論」の登場
第2章 日中全面戦争下――拡大する兵力動員
1 疲労困憊の前線――長距離行軍と睡眠の欠乏
苦闘を強いられる日本軍 萎縮し「奮進」できない兵士たち 多発する戦争栄養失調症 「殆ど老衰病の如く」
2 増大する中年兵士、障害を持つ兵士
低水準の動員兵力 軍隊生活未経験者の召集 召集が原因の出生率低下 国民兵役までも 知的障害の兵士 吃音の兵士 野戦衛生長官部による批判 攻撃一辺倒の作戦思想
3 統制経済へ――体格の劣化、軍服の粗悪化
総力戦の本格化、国民生活の悪化 軍隊の給養――副食の品種減少、米麦食偏重 劣化する軍服――絨製から綿製へ 向上しない体格、弱兵の増加
4 日独伊三国同盟締結と対米じり貧
ドイツの大攻勢による政策転換 資源の米英依存による新たな困難 石油禁輸とジリ貧論――アジア・太平洋戦争の開戦へ 中国戦線にくぎ付けにされ続けた陸軍
第3章 アジア・太平洋戦争末期――飢える前線
1 根こそぎ動員へ 植民地兵、防衛召集、障害者
植民地から日本軍兵士へ――朝鮮・台湾から 防衛召集による大量召集 視覚障害者たちの動員開始 強制動員されるマッサージ師たち
2 伝染病と「詐病」の蔓延
戦争末期の戦没者急増 栄養失調の深刻化 マラリアの多発 「現場」での非現実的予防対策 精神病の「素因」重視 詐病の摘発 詐病の増大 戦力を大きく削ぐ皮膚感染症
3 離島守備隊の惨状
「自給自足の態勢」強化の指示 不十分なままの海軍の給養 兵員の体格劣化、栄養失調による死者 違法な軍法会議と抗争 食糧をめぐる陸海軍の対立
4 かけ声ばかりの本土決戦準備――日米の体格差
野草、貝類、昆虫…… 「こんな軍隊で勝てるのだろうか」 兵士たちによる盗み 体格・体力のさらなる低下 アメリカ軍の給養と体格
第4章 人間軽視――日本軍の構造的問題
1 機械化の立ち遅れ――軍馬と代用燃料車
「悲惨なともいうべき状態」――国産車の劣悪な性能 代用燃料車の現実 軍機械化の主張とその限界 断ち切れない「馬力」への依存
2 劣悪な装備と過重負担――体重40%超の装備と装具 過重負担の装備 戦闘の「現場」、兵士の限界点 一〇〇日間、二〇〇〇キロを超える行軍 中国人から掠奪した布製の靴、草履一六六名の凍死者 粗悪な雨外套
3 海軍先進性の幻想――造船技術と居住性軽視
造船技術は先進的だったか 居住性の軽視 一般の兵員に対する差別 「松型駆逐艦」の居住性 「世界に類のない非常対策」高カロリー食の失敗 特殊環境下の乗員の健康 アメリカ海軍
の潜水艦との比較 ドイツ海軍Uボートの徹底検証
4 犠牲の不平等――兵士ほど死亡率が高いのか
兵役負担の軽重 大学生の戦没率 召集をめぐる贈収賄 食糧の分配をめぐる不平等 戦死をめぐる不平等 メレヨン島とパラオ本島 長台関での階級間格差 正規将校の戦病死率
おわりに
日中全面戦争下、野放図な軍拡 宇垣一成の陸軍上層部批判 騎兵監・吉田悳の意見書 日本陸軍機械化の限界 追いつかなかった軍備の充実
コラム
①戦史の編纂――日清戦争からアジア・太平洋戦争まで
②戦場における「歯」の問題再び
③軍人たちの遺骨
④戦争の呼称を考える――揺れ続ける評価
⑤軍歴証明と国の責任
あとがき
参考文献
近代日本の戦争 略年表
1954(昭和29)年生まれ.77年東京教育大学文学部卒.83年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学.83年一橋大学社会学部助手,講師,助教授を経て,96年一橋大学社会学部教授.2000年一橋大学大学院社会学研究科教授.現在は一橋大学名誉教授,東京大空襲・戦災資料センター館長.専攻・日本近現代軍事史,日本近現代政治史.
著書に『昭和天皇の終戦史』(岩波新書,1992年),『日本人の戦争観』(岩波現代文庫,2005年/原著は1995年),『アジア・太平洋戦争』(岩波新書,2007年),『現代歴史学と軍事史研究』(校倉書房、2012年),『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書,2017年)第30回アジア・太平洋賞特別賞,新書大賞を受賞.『兵士たちの戦後史』(岩波現代文庫,2020年/原著は2011年)ほか
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