続・日本軍兵士

2025年02月09日 10時45分15秒 | 社会・文化・政治・経済

続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実-電子書籍

―帝国陸海軍の現実 

新書 続・日本軍兵士―帝国陸海軍の現実

 アジア・太平洋戦争で約230万人の軍人・軍属を喪った日本。死者の6割は戦闘ではなく戦病死による。この大量死の背景には、無理ある軍拡、「正面装備」以外の軽視、下位兵士に犠牲を強いる構造、兵士たちの生活・衣食住の無視があった。
 進まない機械化、パン食をめぐる精神論、先進的と言われた海軍の住環境無視……全面戦争に拡大する日中戦争以降、それらは露呈していく。
 本書は帝国陸海軍の歴史を追い、兵士たちの体験を通し、日本軍の本質を描く。

【目次】
はじめに
序 章 近代日本の戦死者と戦病死者――日清戦争からアジア・太平洋戦争まで
疾病との戦いだった日清戦争  戦病死者が激減した日露戦争  第一次世界大戦の戦病死者  シベリア干渉戦争の戦没者数  伝染病による死者の激減  軍事衛生の改善・改良と満州事変  退行する軍事衛生――日中戦争の長期化  アジア・太平洋戦争の開戦  陸海軍の戦没者数  日露戦争以前に戻った戦病死者の割合

第1章 明治から満州事変まで――兵士たちの「食」と体格
1 徴兵制の導入――忌避者と現役徴集率
徴兵令の布告  現役徴集率二〇%の実態  徴兵忌避の方法  沖縄の現実、徴兵忌避者の減少  軍医の裁量権――高学歴者への配慮と同情
2 優良な体格と脚気問題――明治・大正期
明治の兵士――身長一六五センチ、体重六〇キロ  脚 気――総人員三割から四割の罹患  兵士たちを魅了した白米
3 「梅干主義」の克服、パン食の採用へ
栄養学の発展――第一次世界大戦後の日本  陸軍の兵食改善  一九二〇年のパン食導入  冷凍食品の導入と大型給糧艦  洋食の普及と充実――満州事変期  壮丁と兵士の体格
4 給養改革の限界――低タンパク質、過剰炭水化物
シベリア干渉戦争の失敗  飯盒炊さん方式による給養  兵食における質の問題  陸軍でのパン食のその後  揺れる海軍のパン食――「皇軍兵食論」の登場

第2章 日中全面戦争下――拡大する兵力動員
1 疲労困憊の前線――長距離行軍と睡眠の欠乏
苦闘を強いられる日本軍  萎縮し「奮進」できない兵士たち  多発する戦争栄養失調症  「殆ど老衰病の如く」
2 増大する中年兵士、障害を持つ兵士
低水準の動員兵力  軍隊生活未経験者の召集  召集が原因の出生率低下  国民兵役までも  知的障害の兵士  吃音の兵士 野戦衛生長官部による批判  攻撃一辺倒の作戦思想
3 統制経済へ――体格の劣化、軍服の粗悪化
総力戦の本格化、国民生活の悪化  軍隊の給養――副食の品種減少、米麦食偏重  劣化する軍服――絨製から綿製へ  向上しない体格、弱兵の増加

4 日独伊三国同盟締結と対米じり貧
ドイツの大攻勢による政策転換  資源の米英依存による新たな困難  石油禁輸とジリ貧論――アジア・太平洋戦争の開戦へ  中国戦線にくぎ付けにされ続けた陸軍

第3章 アジア・太平洋戦争末期――飢える前線
1 根こそぎ動員へ 植民地兵、防衛召集、障害者
植民地から日本軍兵士へ――朝鮮・台湾から  防衛召集による大量召集  視覚障害者たちの動員開始  強制動員されるマッサージ師たち
2 伝染病と「詐病」の蔓延
戦争末期の戦没者急増  栄養失調の深刻化  マラリアの多発 「現場」での非現実的予防対策  精神病の「素因」重視  詐病の摘発  詐病の増大  戦力を大きく削ぐ皮膚感染症
3 離島守備隊の惨状
「自給自足の態勢」強化の指示  不十分なままの海軍の給養  兵員の体格劣化、栄養失調による死者  違法な軍法会議と抗争 食糧をめぐる陸海軍の対立
4 かけ声ばかりの本土決戦準備――日米の体格差
野草、貝類、昆虫……  「こんな軍隊で勝てるのだろうか」  兵士たちによる盗み  体格・体力のさらなる低下  アメリカ軍の給養と体格

第4章 人間軽視――日本軍の構造的問題
1 機械化の立ち遅れ――軍馬と代用燃料車
「悲惨なともいうべき状態」――国産車の劣悪な性能  代用燃料車の現実  軍機械化の主張とその限界  断ち切れない「馬力」への依存
2 劣悪な装備と過重負担――体重40%超の装備と装具 過重負担の装備  戦闘の「現場」、兵士の限界点  一〇〇日間、二〇〇〇キロを超える行軍  中国人から掠奪した布製の靴、草履一六六名の凍死者  粗悪な雨外套
3 海軍先進性の幻想――造船技術と居住性軽視
造船技術は先進的だったか  居住性の軽視  一般の兵員に対する差別  「松型駆逐艦」の居住性  「世界に類のない非常対策」高カロリー食の失敗  特殊環境下の乗員の健康  アメリカ海軍
の潜水艦との比較 ドイツ海軍Uボートの徹底検証
  
4 犠牲の不平等――兵士ほど死亡率が高いのか
兵役負担の軽重  大学生の戦没率  召集をめぐる贈収賄  食糧の分配をめぐる不平等  戦死をめぐる不平等  メレヨン島とパラオ本島  長台関での階級間格差  正規将校の戦病死率

おわりに
日中全面戦争下、野放図な軍拡  宇垣一成の陸軍上層部批判  騎兵監・吉田悳の意見書  日本陸軍機械化の限界  追いつかなかった軍備の充実

コラム
①戦史の編纂――日清戦争からアジア・太平洋戦争まで
②戦場における「歯」の問題再び
③軍人たちの遺骨
④戦争の呼称を考える――揺れ続ける評価
⑤軍歴証明と国の責任

あとがき
 参考文献
 近代日本の戦争 略年表

 

吉田 裕 

 1954(昭和29)年生まれ.77年東京教育大学文学部卒.83年一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学.83年一橋大学社会学部助手,講師,助教授を経て,96年一橋大学社会学部教授.2000年一橋大学大学院社会学研究科教授.現在は一橋大学名誉教授,東京大空襲・戦災資料センター館長.専攻・日本近現代軍事史,日本近現代政治史.
 著書に『昭和天皇の終戦史』(岩波新書,1992年),『日本人の戦争観』(岩波現代文庫,2005年/原著は1995年),『アジア・太平洋戦争』(岩波新書,2007年),『現代歴史学と軍事史研究』(校倉書房、2012年),『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書,2017年)第30回アジア・太平洋賞特別賞,新書大賞を受賞.『兵士たちの戦後史』(岩波現代文庫,2020年/原著は2011年)ほか

 

前著『日本軍兵士』は、2018年に読んでいて、その続編『続・日本軍兵士』であるが、眼点は、戦場での日本兵士の「戦死者より戦病死」の方がはるかに多い。それは何ゆえかを新たな資料を探しながら「7年かけての、空振りの多かった本は他にはない」と書くが如く、資料が残っていないのである。
それはこの本の主題である戦場の日本兵士(兵隊)の衣食住、気象や病気などへの備えが、余りにも軽視されている。したがって、その記録も非常に軽視され、折角情報を得て行くと、「行方不明か廃棄か」と言う扱いに現れている。
陸・海軍症、参謀本部、軍令部は「武力装備(正面装備)」は開戦時はアメリカに匹敵する軍事力を持ったが、兵站(人員や軍需品の輸送・補給)、情報、衛生、医療、給養(食糧や被覆など)」は、極めて色んな気象条件や環境への備えが劣悪で、「蟻の兵隊」には極めて過酷な長期過労で、しかも食事や医療体制も劣悪、そのために「多くに兵隊がやせ衰え、老化現象を来たし、それに加えマラリア、脚気などの病気で衰弱し、餓死して行く。制空権を握られているため、太平洋に広がる島々にいる兵団に補給も届かず、放置された。
まさに、「日本軍の兵士」に如何なる状態に置かれ、戦場で戦い、さまよったかを伝えようとして、吉田裕一橋大名誉教授にしてようやく新書として出せるという、悪戦苦闘の書であるのだが、きれいには纏まっていない。短文を集めたような書になっている。
しかし、伝えようとしたこと・戦場における日本兵士の姿、本当に過酷なまでに上層部の配慮のなさ(正面装備・軍事力・戦術には力を入れるが、人間である兵隊を軽視する思考、感性のなさ)、兵士を単なる歩としての駒(蟻の兵隊)として扱い、戦死者より圧倒的な戦病死(病気、重傷、凍傷、衰弱、放置、餓死)の圧倒的多いという事実と原因、将校(士官)と下士官以下二等兵までの扱いの差、アメリカ軍兵士との待遇の差を活写した労作と言えようか。
 
この本は、私たちが漠然と抱いている「日本軍」のイメージを、具体的なデータと兵士たちの生々しい証言によって覆す一冊です。

特に興味深い記述は、アジア・太平洋戦争における約230万人もの戦没者のうち、実に6割が戦闘死ではなく戦病死だったというところです。
この数字の背後には、軍部の杜撰な計画性と人命軽視の体質が透けて見えます。

著者は、日清戦争から太平洋戦争までの長期的な視点で、兵士たちの「食」「体格」「装備」「居住環境」などを丹念に分析。
読みどころとしては、「進歩的」と評価されがちな海軍でさえ、兵員の居住性を著しく軽視していた実態や、陸軍における機械化の遅れが露呈していく過程の描写があります。

本書の価値は、単なる悲惨な戦争の記録にとどまりません。
軍隊における階級間の不平等、例えば食糧配分や戦死率の格差まで踏み込んで分析することで、組織の構造的問題を浮き彫りにしています。

戦後80年近くが経過し、戦争の記憶が風化しつつある今だからこそ、この本が示す事実の重みをかみしめる必要があります。
歴史研究の専門書でありながら、平易な文章で書かれており、一般読者にも十分読みやすい内容となっています。
戦争の実態を知りたい方、日本の近現代史に関心のある方に、ぜひ一読をお勧めします。
 
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    軍役は辛い。庶民が戦争に加わるとする
    と、ほとんどは一兵士として働くことだ。
    一般論のレベルでも、楽しくないこと、
    辛いことがみえている。しかも、命を落
    とすこともめずらしくない。

    さらに、日本軍の特徴もあるのだ。具体
    論にこそ価値があるので、本書は有益な
    兵士論であり、戦争論でもある。

    重い現実を知ることで気が重くなるが、
    事実を知ることは良いことだ。
     
    軍の幹部も他国に比べて機械化が遅れていることを知ったり、栄養あるものを食べさせようと全く考えなかったわけではないのですが、兵士を鍛え、精神力に頼ろうとすることを資料から読み取っています。
    また、海軍は先進的なイメージを持たれますが、艦船は戦闘を重視し、居住環境はよくなかったこともまとめられています。
    当時の日本は予算や技術力を含めた国力がないので、仕方がなかったのかもしれません。
    国力のなさを人命を考慮せずに精神力や攻撃力重視で乗り切ろうとしたのが大日本帝国陸海軍の戦いでした。
    アメリカ軍も訓練は厳しいのですが、余裕があるので、兵士の栄養面を考えたり、敵地のパイロットを救出したりします。

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