2016年度改定率 ネット1.03%減、
本体0.49%増も過去3回より低く
m3.com 2015年12月21日 (月) 配信
橋本佳子(編集長)、成相通子、高橋直純(m3.com編集部)
政府は12月21日、2016年度診療報酬改定について、ネットの改定率を1.03%のマイナスとすることを決めた。診療報酬本体は0.49%引き上げる一方、薬価(1.22%)と材料(0.11%)を通常改定で1.33%、加えて薬価の市場拡大再算定で0.19%、合計1.52%引き下げる。
さらに別途、2016年度改定で新たに導入する薬価の「特例市場拡大再算定」、後発医薬品の薬価引き下げや使用促進、大型門前薬局の調剤報酬の適正化、湿布薬の使用制限などで、合計0.4%の引き下げを行う。厚生労働省はこれらの引き下げを「制度改正に伴うもの」という理由から、「外枠」として扱い、改定率の計算に入れない方針だが、これらを含めて改定率を試算すると1.43%のマイナス改定となる。
ネットのマイナス改定は、2014年度改定に続き、2回連続。2014年度改定では消費増税対応分を除けば1.26%のマイナス改定だった(対応分を含めれば、0.1%)。日本医師会をはじめ、医療界は「ネットでプラス」を要求していたが実現せず(『「ネットプラス改定」を要望、総決起大会』を参照)、本体0.49%増も、過去3回の改定よりも低く抑えられている(下表参照)。
塩崎恭久厚労相は21日に会見し、マイナスとなったネットの改定率よりも、今回0.49%のプラスになった「本体改定率が一番重要だ」と指摘し、「より良い医療を確保するという意味で、大きな成果があった」と強調した。
日本医師会会長の横倉義武氏も同じく21日に会見、「少し厳しいが、財政全体を考えると医療崩壊が起きないような配慮はされた。安倍総理はじめ閣僚、自民党の方々には深く感謝する。ぎりぎり合格点と考える」と受け止めた。
診療報酬本体の引き上げ率は、医科0.56%、歯科0.61%、調剤0.17%で、1:1.1:0.3の割合。当初、調剤については引き下げ圧力もあったが、結果的にはプラスを維持した。
今改定では、「外枠」扱いとされた部分に注視する必要がある。薬価の「特例市場拡大再算定」は、売上年1000億円を超す医薬品の薬価を引き下げるルールとして2016年度改定から導入される(『年間1500億円超の薬、最大50%も薬価ダウン』を参照)。その額は約280億円。そのほか(1)新規後発医薬品の薬価引き下げ、後発医薬品への置き換えが進まない長期収載医薬品の特例的引き下げ(国費ベースで約20億円)、(2)大型門前薬局の調剤報酬の引き下げ(約40億円)、(3)経腸栄養用製品の給付の適正化(約40億円)、(4)湿布薬の1処方当たりの枚数制限など(約30億円)――を合わせ、約410億円、約0.4%相当の引き下げになる。
厚生労働省は、2016年度予算概算要求の段階で、社会保障費の約6700億円の増額を要求。これに対し、財務省サイドは5000億円弱への抑制を求めていた(『財務相、社会保障費増「5000億円弱に抑制」と念押し』を参照)。これらの目標達成の一環として、「外枠」扱いの引き下げが実施された。
「外枠」扱いの部分を勘案すれば、(2)は約0.04%に当たり、この分を調剤報酬の引き上げ率0.17%から差し引くと、約0.13%増にとどまる。
薬価の通常改定では、薬価と市場実勢価格の乖離相当の引き下げが行われ、それにより浮いた財源を診療報酬本体の改定財源に充当することが、通例だった。しかし、2014年度改定ではこの充当が行われず、日医は問題視していた(『中川日医副会長、改定で「3つの苦言」』を参照)。
塩崎厚労相は、「従来からその時々の課題に応じて、診療報酬本体に充当する場合もしない場合もあった。今改定では、厳しい財政状況の下、経済財政再生計画との調和と地域包括ケアシステムの構築といった医療の質の向上などを考え、必要な本体改定率を確保できた」と述べ、今回の改定でも本体への充当は十分にされているとの見方を示した。一方で、横倉会長は、「薬剤は診察と不可分。薬価改定の半分も本体に充当されず、非常に残念」と問題視している。
■削減のターゲットは薬
2016年度診療報酬改定の基本方針は、既に社会保障審議会で決定している(『「不適切な長期投薬」は是正、削減対象は薬』を参照)。
2025年の医療提供体制の構築に向けて、「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等」が重点課題だが、内容的には、地域包括ケア病棟や地域包括診療料など、新しい概念の点数が設定された2014年度改定と比べれば、算定要件や加算の見直しなど、従来路線の調整的な改定にとどまる見通しだ。次回の2018年度の診療報酬と介護報酬の同時改定が、2025年に向けた最大の焦点と言える。
機能分化の関連では、7対1入院基本料の病床抑制に向け、算定要件をどこまで厳しくするかが焦点(『7対1厳格化に「やり過ぎ」の声も』を参照)。外来については、医療法改正を受け、特定機能病院と500床以上の地域医療支援病院の患者数抑制に向け、紹介状なしの患者等に定額負担徴収を導入する(『紹介状なし大病院受診、定額徴収義務化』を参照)。在宅に関しては、高齢者向けの集合住宅への訪問診療は締め付けが強化されそうだ(『「湿布薬、1回70枚」に制限する案も』、『分割調剤や残薬調整、診療側と支払側で意見対立』などを参照)。大型門前薬局についても、メスを入れる(『門前薬局から、かかりつけ薬局・薬剤師への転換迫る』を参照)。
一方、引き上げ項目は、チーム医療の推進、退院支援をはじめ地域医療連携の取り組みのほか、認知症をはじめ高齢社会に向けて増加が想定される疾患の対応については、一定の評価がなされる見通し。評価の視点としては、施設や人員配置などのストラクチャー評価ではなく、診療行為の成果を見る「アウトカム評価」がどの程度、入ってくるかが注目点の一つだ(『リハビリ、「アウトカム評価」重視へ』を参照)。
本体0.49%増も過去3回より低く
m3.com 2015年12月21日 (月) 配信
橋本佳子(編集長)、成相通子、高橋直純(m3.com編集部)
政府は12月21日、2016年度診療報酬改定について、ネットの改定率を1.03%のマイナスとすることを決めた。診療報酬本体は0.49%引き上げる一方、薬価(1.22%)と材料(0.11%)を通常改定で1.33%、加えて薬価の市場拡大再算定で0.19%、合計1.52%引き下げる。
さらに別途、2016年度改定で新たに導入する薬価の「特例市場拡大再算定」、後発医薬品の薬価引き下げや使用促進、大型門前薬局の調剤報酬の適正化、湿布薬の使用制限などで、合計0.4%の引き下げを行う。厚生労働省はこれらの引き下げを「制度改正に伴うもの」という理由から、「外枠」として扱い、改定率の計算に入れない方針だが、これらを含めて改定率を試算すると1.43%のマイナス改定となる。
ネットのマイナス改定は、2014年度改定に続き、2回連続。2014年度改定では消費増税対応分を除けば1.26%のマイナス改定だった(対応分を含めれば、0.1%)。日本医師会をはじめ、医療界は「ネットでプラス」を要求していたが実現せず(『「ネットプラス改定」を要望、総決起大会』を参照)、本体0.49%増も、過去3回の改定よりも低く抑えられている(下表参照)。
塩崎恭久厚労相は21日に会見し、マイナスとなったネットの改定率よりも、今回0.49%のプラスになった「本体改定率が一番重要だ」と指摘し、「より良い医療を確保するという意味で、大きな成果があった」と強調した。
日本医師会会長の横倉義武氏も同じく21日に会見、「少し厳しいが、財政全体を考えると医療崩壊が起きないような配慮はされた。安倍総理はじめ閣僚、自民党の方々には深く感謝する。ぎりぎり合格点と考える」と受け止めた。
診療報酬本体の引き上げ率は、医科0.56%、歯科0.61%、調剤0.17%で、1:1.1:0.3の割合。当初、調剤については引き下げ圧力もあったが、結果的にはプラスを維持した。
今改定では、「外枠」扱いとされた部分に注視する必要がある。薬価の「特例市場拡大再算定」は、売上年1000億円を超す医薬品の薬価を引き下げるルールとして2016年度改定から導入される(『年間1500億円超の薬、最大50%も薬価ダウン』を参照)。その額は約280億円。そのほか(1)新規後発医薬品の薬価引き下げ、後発医薬品への置き換えが進まない長期収載医薬品の特例的引き下げ(国費ベースで約20億円)、(2)大型門前薬局の調剤報酬の引き下げ(約40億円)、(3)経腸栄養用製品の給付の適正化(約40億円)、(4)湿布薬の1処方当たりの枚数制限など(約30億円)――を合わせ、約410億円、約0.4%相当の引き下げになる。
厚生労働省は、2016年度予算概算要求の段階で、社会保障費の約6700億円の増額を要求。これに対し、財務省サイドは5000億円弱への抑制を求めていた(『財務相、社会保障費増「5000億円弱に抑制」と念押し』を参照)。これらの目標達成の一環として、「外枠」扱いの引き下げが実施された。
「外枠」扱いの部分を勘案すれば、(2)は約0.04%に当たり、この分を調剤報酬の引き上げ率0.17%から差し引くと、約0.13%増にとどまる。
薬価の通常改定では、薬価と市場実勢価格の乖離相当の引き下げが行われ、それにより浮いた財源を診療報酬本体の改定財源に充当することが、通例だった。しかし、2014年度改定ではこの充当が行われず、日医は問題視していた(『中川日医副会長、改定で「3つの苦言」』を参照)。
塩崎厚労相は、「従来からその時々の課題に応じて、診療報酬本体に充当する場合もしない場合もあった。今改定では、厳しい財政状況の下、経済財政再生計画との調和と地域包括ケアシステムの構築といった医療の質の向上などを考え、必要な本体改定率を確保できた」と述べ、今回の改定でも本体への充当は十分にされているとの見方を示した。一方で、横倉会長は、「薬剤は診察と不可分。薬価改定の半分も本体に充当されず、非常に残念」と問題視している。
■削減のターゲットは薬
2016年度診療報酬改定の基本方針は、既に社会保障審議会で決定している(『「不適切な長期投薬」は是正、削減対象は薬』を参照)。
2025年の医療提供体制の構築に向けて、「医療機関の機能分化・強化と連携、在宅医療の充実等」が重点課題だが、内容的には、地域包括ケア病棟や地域包括診療料など、新しい概念の点数が設定された2014年度改定と比べれば、算定要件や加算の見直しなど、従来路線の調整的な改定にとどまる見通しだ。次回の2018年度の診療報酬と介護報酬の同時改定が、2025年に向けた最大の焦点と言える。
機能分化の関連では、7対1入院基本料の病床抑制に向け、算定要件をどこまで厳しくするかが焦点(『7対1厳格化に「やり過ぎ」の声も』を参照)。外来については、医療法改正を受け、特定機能病院と500床以上の地域医療支援病院の患者数抑制に向け、紹介状なしの患者等に定額負担徴収を導入する(『紹介状なし大病院受診、定額徴収義務化』を参照)。在宅に関しては、高齢者向けの集合住宅への訪問診療は締め付けが強化されそうだ(『「湿布薬、1回70枚」に制限する案も』、『分割調剤や残薬調整、診療側と支払側で意見対立』などを参照)。大型門前薬局についても、メスを入れる(『門前薬局から、かかりつけ薬局・薬剤師への転換迫る』を参照)。
一方、引き上げ項目は、チーム医療の推進、退院支援をはじめ地域医療連携の取り組みのほか、認知症をはじめ高齢社会に向けて増加が想定される疾患の対応については、一定の評価がなされる見通し。評価の視点としては、施設や人員配置などのストラクチャー評価ではなく、診療行為の成果を見る「アウトカム評価」がどの程度、入ってくるかが注目点の一つだ(『リハビリ、「アウトカム評価」重視へ』を参照)。
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