1からわかる!気候変動(1)COP28ってなに?地球温暖化を防げるの?

2024年06月22日 08時30分40秒 | 社会・文化・政治・経済

2023年11月30日  NHK (聞き手:堀祐理 正木魅優)

気候変動対策を話し合う国際会議「COP28」が始まりました。世界の200近い国と地域のほとんどの代表が集まるこの会議、各国の立場も思惑もさまざまです。異常気象が世界で相次ぐ中、温暖化を止めるすべはあるのか。COP28のねらいを最新事情も交えて、1から解説します。

そもそもCOPって何?

そもそもですが「COP」はどのような会議なのですか?環境問題を話し合うのかな…というイメージしかありません。

「COP」は「国連気候変動枠組条約」に参加している国が1年に1回集まって、温暖化対策について話し合う会議です。ちなみに「COP」は「Conference of the Parties」の略で、日本語では「締約国会議」と訳されます。

教えてくれるのは土屋敏之解説委員。科学・環境分野が担当で地球温暖化や脱炭素社会、生物多様性などに詳しい。科学番組のディレクターとして「NHKスペシャル」「クローズアップ現代」「サイエンスZERO」などの番組を制作してきた。

 


具体的に何が話し合われるのですか?

そもそもこの条約自体はある意味で概念的な話しか書かれていないので、条約をもとに、具体的なルールや目標を決めてきました。

 


皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが「京都議定書」「パリ協定」はその具体的な「ルール」に当たります。京都議定書はCOP3、パリ協定もCOP21で作られました。

条約の批准国の多くはパリ協定も批准しているのでパリ協定の話し合いも一緒にやります。

「パリ協定」とは

2015年、COP21で採択された「パリ協定」で、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度未満に保ち、できれば1.5度に抑えることを目標とした。世界全体で温暖化対策を進めることに合意した初の協定。

去年のCOP27はエジプトで開催された
議長は石油会社のCEO

会議はどこで開かれるんでしょうか?

今回はUAE(アラブ首長国連邦)で開催されます。

UAEと聞いてどんなイメージを持ちますか?

やっぱり、産油国というイメージです。

COP28の議長は大臣であると同時に、実は国営石油会社のCEOなんです。

石油会社のCEOが議長なんですか?

議長を務めるジャベル氏。UAEの産業・先端技術大臣で、国営石油会社のCEOも兼ねる

はい。そういう背景から、喫緊の気候変動問題に対してどのように取り組むのか、注目されています。

というのも、COPは開催する国の大臣が議長を務めるのが通例ですが、その議長によってテーマ設定の影響を受けるんです。

それくらい議長国の影響は大きいです。

例えば、環境問題に比較的熱心なイギリスで、おととし開催されたCOP26の成果文書は「対策を強化しなくてはならない」というニュアンスが強いものになりました。メディアによってはこの時「1.5度が事実上の新たな世界目標になった」と書いたくらいです。

大きなテーマは「損失と損害」

今回のCOP28、何が大きなテーマになりそうですか?

ひとつには「グローバル・ストックテイク」。これはパリ協定に基づく気候変動対策の目標をどの程度達成したかを5年ごとに評価するための仕組みです。

その最初のサイクルが完了するのがことしなので、重要なテーマのひとつになると思います。

ほかにもありますか?

「損失と損害」というテーマですね。

「損失と損害」って何ですか?

干ばつで食料や水不足に陥ったり、あるいは海面上昇で国土を喪失するなど気候変動がもたらす深刻な悪影響のことです。

こうした影響は、インフラなどがぜい弱な途上国ほど被害をより受けやすいので、途上国は長年、支援を求めてきました。

一方、温室効果ガスの多くを排出してきた先進国は法的責任や賠償などにつながりかねないと議論自体避けようとし、根深い対立が続いてきました。

干ばつで干上がったダムを歩く少年(チュニジア 2023年3月)

なぜ、それがことしの会議で重要なテーマになるんですか?

去年のCOP27で初めて気候変動による「損失と損害」というのが、すでに起きているということが各国の合意となりました。それで「損失と損害」を補うための基金を作りましょうということで合意したんです。

対立が続いていたけど、合意できたんですね。

そうですね。先ほども議長国が大事だと言いましたが、去年のCOP27の議長国はエジプト、途上国側でした。

議長国の強い意向で「損失と損害」が主要議題になり、最終的に基金を作りましょうという結論になりました。

損失と損害は今や科学的事実であり逃れられない現実になってきたのです。

具体的にどんな議論になりそうですか?

先進国は基金を「作ること」には合意しましたが、誰が負担するのか、誰が受け取るのかなどの基本的なことも前回は決まりませんでした。

「負担するのは先進国だけなのか?」「新興国と呼ばれる、例えば中国やブラジル・インド・インドネシアといった国はどちら側なのか?」

「少なくとも中国は経済力的にも、あるいは二酸化炭素排出量もすでに世界一多いから、先進国と同様に負担をする側であるはずだろう」

そうしたさまざまな主張もあって、まだ具体的な部分が決まっていないんです。こうした内容について話し合われる可能性はあると思います。

補償だけでは止められない?

この話し合いで両者が合意できたら、温暖化対策はかなり進むのでは?

難しい問題ですね。なぜなら被害が出たものに補てんをしても、温暖化は止まらないからです。

気温の上昇を止めない限り、いくらお金を積んでも根本的な解決にはなりません。

でも被害に対する基金の話を進めていかないと、途上国側が排出削減の議論に乗ってこないということを、先進国側は懸念しているところはあります。

途上国側が話にのってこないから基金の話もしなきゃいけない?

これは、どの立場で見るかによるでしょうね。

途上国側からすると「こんな議論する前に先進国が、早く温室効果ガスの排出量をもっと減らせばいいじゃないか。そして、お金を出して。そうしたら対策を取りますよ」と。

先進国は排出量がおおむね減少傾向にありつつも、いまだに増加する年もあるような状況の中で、途上国に何かをやれというのはおかしいじゃないかという考え方もあるんです。

各国のスタンスは

そうすると、各国がどのスタンスで参画してくるかは重要ですね。

そうですね。でもここが本当に読めないんですよね。

特に今回の場合、アメリカもスタンスがはっきりしないし、中国は先日また政府高官が「先進国に責任がある」的な発言もしていて、正直なところ、態度も読めない状況になっています。

インドはどうですか?

これも本当に読めないですね。インドは世界で3番目の排出国ですが、すべての国民に電気が行き渡っていない面もあり、まだまだ経済発展が途上だということを考えることも出来る。

一方で、再生可能エネルギーとか車のEV化とかは積極的に進めているという面もあって、基本的に対策は先進国がどれぐらい支援をしてくれるかによる、というスタンスも示しています。

今回の会議では、対策について踏み込んで話し合われることが期待されてはいるんです。

とはいえ、議長国が産油国であること、ウクライナ情勢などでエネルギー確保が重要だと考える国も多くなっていることを考えると、これまでよりも排出削減を強化しようという議論がどれぐらい進むのかは率直なところ見通しが立ちません。

温暖化の問題に限らず、さまざまな分野で国際的な分断が進んでいて、各国の足並みがなかなか揃わないため、踏み込んだ合意ができるのかというのは危ぶまれている面もあります。

日本のスタンスは?

日本のスタンスはどうでしょうか?

これも難しいですね。日本はすでに2030年に46%削減など目標を出していて、それに向かってGXの法整備をしたりして積極的に取り組んでいますとアピールしています。

国際社会にはそのスタンスに理解を求めるということになるのかなと思うんですけれども。

日本が掲げる目標は?

日本は、世界の平均気温の上昇を1.5度に抑えるという目標の達成に向けて、

▼2030年度に温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減

▼2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにすることを目標としている。

GXですか?聞いたことがあるような、ないような。

GX、グリーントランスフォーメーションの略で、政府は脱炭素を通じた社会変革への対応としています。

ことし、法律や国家戦略が出来て、日本は盛んにGXで経済成長と脱炭素を両立させますとアピールしています。

ただ、率直に言ってこれが目標を実現できる施策なのかは、いろいろ疑問もあります。

少なくとも先進国の中では、気候変動対策に日本は積極的な国だと思われていません。

なぜですか?

というのは、日本はG7の中では唯一、石炭火力の廃止時期を明示することに反対し続けている国です。石炭はご存じのように二酸化炭素の排出が最も多い。

いつ脱石炭するかっていうのが、国際的な関心事になっていて、先進国には2030年にも脱石炭を求める声もあったりします。

ただ、日本は基本的にはエネルギーの安定供給が大前提、そのためには石炭は欠かせないというスタンスで今もいるのです。

なるほど。では、企業などで変えていこうという動きはあるんですか?

はい。それぞれでは結構あるんですけれども、注目されている産業のひとつが製鉄ですね。

それはなぜでしょうか?

鉄を作る工程で、鉄鉱石から鉄を取り出すのに、石炭からできたコークスを使わなきゃいけないのと、高熱になるのでとてもエネルギーが必要だということもあって、すごく二酸化炭素の排出が多い分野です。

ここで世界的に新しい動きとして出てきているのが、代わりに水素を使って鉄鉱石から鉄を取り出す水素還元製鉄という新技術です。

水素製鉄法の試験高炉

これを使うと、劇的に製鉄から出る二酸化炭素を減らせるということで、日本の鉄鋼業界もこれを使って2050年の脱炭素を目指すという目標は掲げ始めています。

これはGXのひとつに入っていて、国が支援をして構造転換を進めていくことになると思います。

できることから取り組んで

ほかに社会全体で出来ることはありますか?

最近の動きでいうと、東京都と神奈川県川崎市が新築の建築物に、2025年度から太陽光パネルの設置義務化という条例を作ったんですよね。そういう劇的なことをやらないと、なかなか目標達成は実現できないと思います。

出来ることからやっていかなければならない。

脱炭素という点では、太陽光パネルや乗用車のEV化などさまざまな対策があると思います。

実は防災上も重要と言われてるものもあるんです。

防災ですか?

災害で停電すること、いまとても多いじゃないですか。でも、その時に家に太陽光パネルが入っていたり車がEVだと、太陽光で昼間発電した電気で昼間は電気を使えるし、余剰分を車のバッテリーにためておいて夜はバッテリーから家に電気を戻して、家で使うという使い方ができるんですね。

これが普及すると、災害が多い日本で防災力の強化と脱炭素の両方を解決できるかもしれません。負担の軽減策や太陽光パネルのリサイクル方法など課題はありますが、日本でうまく導入が進んだら、海外にPRできる技術じゃないかとも思うんですよね。

COP28は国以外の企業や団体は参加しないんですか?

メインの締約国会議で議論するのは各国政府の代表ですが、関連のイベントや会議には自治体や企業、NGOも参加します。「非国家アクター」というんですけれども、近年はこれが占める比重がすごく大きい。

そこで、例えば「EVをもっと普及させましょう」とか「水素を産業に育てましょう」とか、そういう話し合いをやったり、いろいろなイベントを開いたり、世界的なPR活動が行われるので、ここ最近はとても大きな複合イベントになっていますね。

会議が開催される会場では、各国がブースを設けて取り組みを紹介している(2022年11月)

新しい動きが生まれるきっかけになりそうですね。

そうですね。経済に影響があるから気候変動対策できません、ではもはや進まなくて、最近は脱炭素というのが新しいビジネスチャンスだという考え方が世界的にも主流になってきています。

COP28で各国がどんな主張をし、どんな合意がなされるかには是非、関心をもってほしいと思います。

そして、国が明確な政策を打ち出す必要があるのはもちろんですが、今や対策に残された時間がどんどん少なくなっているので、企業や自治体、市民レベルでも、出来ることからやっていくことがとても大事だと思います。

「COP28開幕」の焦点について解説するおはよう日本は11月30日に放送しました。


編集 近藤優美子

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