今日の「 お気に入り 」は 、戦国武将が主人公の
時代小説の 一くだり 二くだり 。備忘のため 、抜
き書き 。
引用はじめ 。
「 『 では ―― では 、佐久間さまは犬死にで
ござりますか 』
『 犬死になどない 』
利家はするどく言い切った 。『 もののふは 、
いつもいのちがけじゃ 。そなたとて 、そう
であろう 』 」
( ´_ゝ`)
「 元康は屈託のない笑顔となって語りかける 。
『 許されよ 。当家のものは 、他国の方に壁
をつくるくせがござっての 』そこでことば
を切った元康のまなざしが 、にわかに翳りを
おびた 。右の拳が吸いこまれるように口もと
へはこばれ 、かふかふ 、という耳なれぬ音
が 、しずまりかえった広間にひびく 。家臣
たちが 、そっと面を逸らした 。
長頼は 、異様な生きものでも見るような思
いで 、眼前に坐す若者を凝視する 。爪を嚙
んでいるのだ 、と気づいたとき 、ようやく
元康が語を継いだ 。
『 ・・・ 長らく 、小そうなって生きてま
いったゆえ 、な 』
そのことばが胸のうちによみがえったのは 、
役目をおえ 、岡崎城の大手から退出したあ
とのことである。」
「『 ―― 小そうなって生きてまいったゆえ ・・・ 』
あのとき 、わかい領主はそうつぶやいていた 。
家臣たちに事寄せてはいたが 、あれはやはり 、じ
ぶん自身のことでもあったろう 。
―― が 、いまや 、この大きさはどうだ 。」
( ´_ゝ`)
「 だれにでも 、気にくわぬ相手というものがある 。
村井長頼 ( ながより ) にとって 、それは奥村
助右衛門家福( すけえもんいえとみ )という
ことになろう 。ふたつ齢上にすぎぬが 、あるじ
利家の兄・利久に仕える筆頭家老である 。
そこも何とはなし気に入らぬ 。ほかにも 、お
のれより上背があるとか 、細面で秀麗といって
いい風貌ちをしているとか 、癇にさわるところ
を挙げればきりがない 。 物言いが尊大である 、
ということもおおきい 。」
( ´_ゝ`)
「 『 十年さき 、わしはこの世におらぬ 』
つかのま息がとまった 。いつもの冗談
かとおもったが 、ふざけている気配は
なく 、かといって深刻めかしているわ
けでもないようだった 。
『 どこかおわるいので ・・・ 』
ようやく 、それだけを口にする 。あ
るじはいくぶんさびしげに 、かぶりを
ふった 。
『 どこも悪 ( あ ) しゅうはない ・・・
されど 、余人には見えずとも 、少し
ずつ 、ほんの少しずつ 、この身のお
とろえゆくが分かる 』そこまでいって 、
ことさら大げさに顔をしかめてみせる 。
・・・ 」
「『 ま 、わしはこのまま逃げきれそうじゃ
がの 』」
( ´_ゝ`)
「 ―― 気のせいというものはない 。
と長頼は信じている 。感じたものには 、
なにかしら 、理由がある 。それをおろ
そかにしなかったから 、いままで生きて
こられたのだろう 。」
( 砂原浩太朗著『いのちがけ 加賀百万石の礎』
講談社刊 所収 )
引用おわり 。
( ´_ゝ`)
久しぶりに 、読み応えのある時代小説に出会えた 。
時代小説は 、現代の若者には 、だんだん読むのが
つらくなってきているのではなかろうか 、と思う 。
原作として映像化された後 、中高年だけでなく若年
層にも若干読者が広がるという市場構造なんだろうか 。
多少とも 時代背景 や 史実 をかじってないと 、面白
味も 半減するに違いない 。吉川英治に始まって 、
山岡荘八 、山本周五郎 、海音寺潮五郎 、池波正太郎 、
司馬遼太郎 、藤沢周平 、・・・ を読み継いできた世
代に受容される書き手になるのは大変だ 。
( ´_ゝ`)
閑話休題 。
小説の主人公 、 村井長頼 じゃないが 、
ながく宮仕えしていると 、同僚 、上司に「 好かぬやつ 」
の 一人や二人 必ずいる 。表立った諍いがある訳でもなく、
格別の恨みごとがある訳でもないが 、なんとなく「 気に入ら
ない 」、「 反りが合わない 」、「 あいつより先に死にたく
ない 」という気持ちが 心の片隅にないではない 。
相手もそう思っているかも知れないから 、おあいこだ 。
かつての「 好かぬやつ 」の大半は 、鬼籍に入っている 。
作家は 、小説の中で 、前田利家をして こう言わしめている 。
「 ま 、わしはこのまま逃げきれそうじゃがの 。」
「 墓へ入れば 、いくらでも休める 」。
( ついでながらの
筆者註:「 村井 長頼( むらい ながより )は 、戦国
時代から江戸時代初期にかけての武将 、前
田家の家臣 。本姓は平氏( 桓武平氏 )。
家紋は丸ノ内上羽蝶 。通称は又兵衛 、長八
郎 、豊後守 。嫡男に 村井長次 。
生 涯
天文12年(1543年)に生まれ 、はじめは
織田氏家臣の前田利久に仕える 。
永禄2年(1559年)から永禄4年(1561年)
にかけて 利久の弟の前田利家が織田家から
追放されていた時に長頼も従い 、永禄12年
(1569年)に 織田信長の命により 利久に
代わって弟の利家が前田家を継ぐと 、それ
に従って利家の家臣となった 。
以後 、常に戦場でも共にあり幾度もその盾
となって救っており 、利家からは通称である
又左衛門から『 又 』の字を拝領するほど信
頼され 、石山本願寺攻め 、金ヶ森城攻め 、
長篠の戦いなどで数多くの軍功をあげる 。
利家が加賀国に封じられて大名になると家老
となり 、奥村永福らと共に加賀藩の基礎を
築いた 。慶長4年(1599年)に利家が死去す
ると長頼は隠居したが 、加賀征伐を行おう
とした徳川家康に対して 、前田利長が母の
芳春院を人質に差し出すと 、長頼も芳春院
に従って江戸に下った 。
慶長10年(1605年)10月26日 、江戸で死去
した 。享年63 。
人 物
前田利家から『 髭殿 』と呼ばれるほど 、
立派な髭をたくわえていたといわれている 。
演じた人物
女たちの百万石 演:長門裕之
加賀百万石〜母と子の戦国サバイバル
演:石倉三郎
利家とまつ〜加賀百万石物語〜
演:的場浩司
村井長頼を主題とした作品
小説
砂原浩太朗『いのちがけ 加賀百万石の礎』
講談社、2018年、ISBN 978-4-06-220952-6 」
( ´_ゝ`)
「 砂原 浩太朗 ( すなはら こうたろう 、
1969年 - ) は 、日本の小説家 。兵庫
県神戸市生まれ 。
略 歴
早稲田大学第一文学部卒業 。出版社
勤務を経て 、フリーのライター・編集
者・校正者になる 。
2016年に『 いのちがけ 』で第2回決戦!
小説大賞を受賞し 、作家デビュー 。」
以上ウィキ情報 。 )