今日の「お気に入り」は、北原白秋(1885-1942)の「邪宗門秘曲」。
われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。
黒船の加比丹(かひたん)を、紅毛の不可思議国を、
色赤きびいどろを、匂(にほひ)鋭(と)きあんじやべいいる、
南蛮の桟留縞(さんとめじま)を、はた、阿剌吉(あらき)・珍酡(ちんた)の酒を。
目見(まみ)青きドミニカびとは陀羅尼(だらに)誦(ず)し夢にも語る、
禁制の宗門神を、あるはまた、血に染む聖磔(くるす)、
芥子粒を林檎のごとく見すといふ欺罔(けれん)の器(うつは)、
波羅葦僧(はらいそ)の空をも覗く伸び縮む奇なる眼鏡を。
屋(いへ)はまた石もて造り、大理石(なめいし)の白き血潮は、
ぎやまんの壷に盛られて夜(よ)となれば火点るといふ。
かの美(は)しき越歴機(えれき)の夢は天鵝絨(びろうど)の薫(くゆり)にまじり、
珍らなる月の世界の鳥獣映像(うつ)すと聞けり。
あるは聞く、化粧(けはひ)の料(しろ)は毒草の花よりしぼり、
腐れたる石の油に画(ゑが)くてふ麻利耶の像よ、
はた、羅甸(らてん)、波爾杜瓦爾(ぽるとがる)らの横つづり青なる仮名は、
美くしき、さいへ悲しき歓楽の音(ね)にかも満つる。
いざさらばわれらに賜へ、幻惑の伴天連尊者、
百年(ももとせ)を刹那に縮め、血の磔(はりき)脊(せ)にし死すとも
惜しからじ、願ふは極秘、かの奇しき紅の夢、
善主麿(ぜんすまろ)、今日を祈(いのり)に身も霊(たま)も薫(くゆ)りこがるる。
われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。
黒船の加比丹(かひたん)を、紅毛の不可思議国を、
色赤きびいどろを、匂(にほひ)鋭(と)きあんじやべいいる、
南蛮の桟留縞(さんとめじま)を、はた、阿剌吉(あらき)・珍酡(ちんた)の酒を。
目見(まみ)青きドミニカびとは陀羅尼(だらに)誦(ず)し夢にも語る、
禁制の宗門神を、あるはまた、血に染む聖磔(くるす)、
芥子粒を林檎のごとく見すといふ欺罔(けれん)の器(うつは)、
波羅葦僧(はらいそ)の空をも覗く伸び縮む奇なる眼鏡を。
屋(いへ)はまた石もて造り、大理石(なめいし)の白き血潮は、
ぎやまんの壷に盛られて夜(よ)となれば火点るといふ。
かの美(は)しき越歴機(えれき)の夢は天鵝絨(びろうど)の薫(くゆり)にまじり、
珍らなる月の世界の鳥獣映像(うつ)すと聞けり。
あるは聞く、化粧(けはひ)の料(しろ)は毒草の花よりしぼり、
腐れたる石の油に画(ゑが)くてふ麻利耶の像よ、
はた、羅甸(らてん)、波爾杜瓦爾(ぽるとがる)らの横つづり青なる仮名は、
美くしき、さいへ悲しき歓楽の音(ね)にかも満つる。
いざさらばわれらに賜へ、幻惑の伴天連尊者、
百年(ももとせ)を刹那に縮め、血の磔(はりき)脊(せ)にし死すとも
惜しからじ、願ふは極秘、かの奇しき紅の夢、
善主麿(ぜんすまろ)、今日を祈(いのり)に身も霊(たま)も薫(くゆ)りこがるる。