今日の「お気に入り」。
「 アンの予感は的中した。この午後のできごとを知ったときのバーリー家とクスバート家の
騒ぎはたいへんなものだった。
『 いったい、いつになったら、あんたに分別がつくんだろうね、アン 』マリラはうめいた。
『 つきますとも、だいじょうぶよ、マリラ 』アンはうきうきと答えた。東の部屋で一人きり
で思う存分に泣いたので神経も休まり、いつもの快活さがもどったのだ。
『 分別がつく見込みは、いまじゃずっとたしかになりました 』
『 さあ、どんなもんかね 』
『 だってね、あたし、きょう、新しく、とてもいいことを学んだんですもの。グリン・
ゲイブルスにきてからずっとあたしは失敗ばかりしてきたけれど、一つするたびになに
かしら自分のとてもわるい欠点がなおっていたのよ。紫水晶のブローチのことでは自分
のものじゃない品物にさわるくせがなおったし、『 お化けの森 』のことではあんまり
想像をめぐらせすぎることがなおったし、塗り薬のお菓子の失敗は、お料理は注意ぶかく
しなくてはならないことを教えてくれたんですもの。髪を染めたことで虚栄心をなおし
たし、いまじゃもう、自分の髪や鼻のことを考えないわ―― たまにしかね。それから
きょうの失敗は、あたしがあんまりロマンチックすぎるのをなおしてくれたわ。アヴォ
ンリーじゃロマンチックになろうとしてもだめなことがわかったの。何百年も昔の塔の
町キャメロットでだったら、よかったんでしょうけれど。でもいまじゃ、ロマンスはあ
んまりはやらないわ。もうあたしもすっかり変わってしまう時がきたと思います、マリ
ラ 』
『 そうなれば結構だがね 』マリラはうたがわしそうに言った。
しかし、マリラが部屋から出て行ってしまうと、いつもきまった自分の片すみに黙り
こくってすわっていたマシュウが、アンの肩に手をかけて、『 お前のロマンスをすっかり
やめてはいけないよ 』とアンにもじもじしながらささやいた。
『 すこしならいいことだよ――あんまり度を越しちゃいけないがね、もちろん――。だが
すこしはつづけるんだよ、アンや、すこしはつづけたほうがいいよ 』」
( Lucy Maud Montgomery 著、村岡花子訳 「赤毛のアン」(原題 "Anne of Green Gables") 新潮文庫所収 )