うさぎくん

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夢声戦争日記抄-敗戦の記

2017年01月07日 | 本と雑誌

仮住まいでは日曜大工用の作業台をPCデスク代わりにして、昔ミシンで使っていた椅子に座ってネットPCを開いている。写真などはdropboxを活用したり、MS付属のペイントを使ってリサイズしたりしてアップしている。ネットがテザリングなのがちょっと不便というか通信がもったいない感じがするが、とりあえず、PC環境はだいぶ自宅に近くなりつつある。印刷はできないが、その気があればプリンタなど5千円程度で買えてしまうし・。

移動時間が長いので、電車の中で読む本が大切になってくるが、嵩張るのは困るので、さいきん本は電子書籍を中心に買っている。

ただし、この徳川夢声は電子版がないので、文庫版で購入せざるを得なかった。一般書店にはあまり在庫がないみたいで、amazonで取り寄せた。

昨年いや一昨年になるのか、夢声戦中日記について書いたが、あれは昭和16年12月8日から始まって、20年の3月末で終わっている。

てっきり終戦まで書かれているのかと思ったので、いささか拍子抜けをしたが、その先は今回の「戦争日記」に掲載されていたのだ。

 前回の日記のときも、巻末近くになると空襲が激しくなり、3月10日の東京大空襲にも言及していた。

今回も夢声氏は連日B29がどこからきたとか、ラジオがどのような放送をしていたか、などを細かく記録している。夢声氏の住む荻窪は終戦まで直接の空襲は受けなかったが、東京下町はもちろん、新宿、渋谷、銀座などの繁華街、川崎、荻窪にも近い武蔵野などの工業地帯は連日空襲を受けている。夢声氏の仕事仲間も8割がたは焼け出されたらしい。氏は、いよいよ自分もやられる、と観念しながら、自分だけはどこかで助かるものと楽観したりもしている。

前回の日記では戦時下でも比較的日常生活(仕事をしたり、飲み食いをしたり、電車で移動したり)が保たれていることにむしろ驚きを覚えたが、さすがに終戦が近くなると、食糧事情も厳しくなってくる。夢声氏も庭に南瓜を植えて、その生育に一喜一憂している様子を日記に記している。戦前は作物づくりなどを手掛けたことがなかったようだが、おそらく政府からそうした指導があったのだろう。南瓜の他、庭先の植物の様子を事細かに記しているあたり、印象的であった。社会情勢その他はかなり絶望的になりながらも、人間以外の自然の世界-草花や蝉など-は例年通り、季節とともに様々な表情を見せる。これらももちろん、爆撃を受けてしまえば影響は避けられない。銀座や日比谷の柳並木などは焼け焦げてしまい、そこから新芽が吹いたりしていたそうだ。

何か大きな災害が起きたとき、そうした日常の自然の移ろいが、きっと心の支えになることもあるのだろうな。もう15年ぐらい前の話だが、イラク戦争が始まった朝、チグリス川沿いの公園のようなところから米軍の空爆の様子を中継したテレビニュースを見たことがある。何の鳥か知らないが(雀の類だろうか)、早朝の陽を浴びて、街路樹から鳥たちが鳴きながら飛び交っていた様子がとても印象的だった。爆撃さえなければ、いつも通りの忙しい朝だったはずだ・。

空襲下でも鉄道は動いていたようだ。地下鉄も無事で、夢声氏も浅草まで出かけて混雑が殺人的、と記している。大空襲後の浅草でも、何らかの社会活動は行われていたようだ。7月、夢声氏は豊川工廠へ慰問に出かけるが、ひとつ前の中央線列車がP51による攻撃を受け、多数の死傷者を出す。その結果予定が遅れ気味になり、伊奈線(今の飯田線)に乗っている途中で、慰問先が空襲を受けて多数の犠牲者が出たという話を聞くことになる。九死に一生を得たわけだ。

広島の原爆についても、早いうちにかなり正確な情報をつかんでいたようだ。徳川夢声氏はいまの日比谷高校の出身だが、それほど科学に明るかったわけでもないと思う。そうした市民でも、基礎の核物理学や放射能等の理解はある程度あったようだ。原爆の話は、その後も繰り返し人々の噂に上っている。夢声氏は知人から、12日には荻窪上空に投下されるはずだったと聞いて、固唾をのんでいる。

ソ連参戦や、日本降伏についても、相当前から(ソ連参戦については宣戦布告直後)情報を得ている。降伏については氏の夫人の親戚筋に当たる頭山秀三氏との会話から、大体の察しはつけていたようだ。

本来、人の個性や才能は生まれた国で測られるものではなく、民族の優劣などという議論はまともな議論としては取り上げられることはない。戦争は、そうした偏狭な議論が堂々と表にでてくることになる。8月15日を境に、夢声氏を含め、多くの日本人が、今まで見ていた夢がどんなものだったのか、やりきれない思いで振り返っていたことだろう。

当時の様子を伝える、非常に貴重な資料だ。

*1/20/'17追記:タイトルの名前が間違っていたので訂正しました。

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