博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『孫子兵法発掘物語』

2006年09月20日 | 中国学書籍
岳南著・加藤優子訳『孫子兵法発掘物語』(岩波書店、2006年8月)

1972年に山東省の銀雀山漢墓で『孫子兵法』『孫臏兵法』などの竹簡が発見された経緯を赤裸々に描いたドキュメンタリーという触れ込みですが、本書は銀雀山漢簡の発見、孫武・孫臏の事績と竹簡の内容紹介、二人の孫子と二つの『孫子兵法』にまつわるこれまでの論争、二人の孫子の墓と故地の発見、1996年に西安で発見された八十二編『孫子兵法』が偽物とわかるまでの経緯と、5つの話題を扱っています。著者の岳南氏は少し前に出版された『夏王朝は幻ではなかった』の著者でもあります。

で、肝心の中身ですが、民放の特番かディスカバリーチャンネルのドキュメンタリーをそのまま活字にしたような内容です(^^;) 銀雀山漢簡の発見の経緯と偽物の八十二編『孫子兵法』に関する話は面白い内容でしたが、孫武・孫臏の事績は孫臏の同時代人として墨子を登場させたり、民間伝承での設定を織り交ぜたりして悪い意味で歴史小説的です。孫子の墓と故地については、孫子ゆかりとされる土地の地域振興や観光地化と密接に結びついている点は興味深く読みましたが、これが孫子の墓に違いない、この村こそが孫子の故地だと一々力説されても、こちらとしては「はあ、そうですか」としか反応のしようがありません……

解説は以前に竹簡本を中心に『孫子』の翻訳に取り組まれた浅野裕一氏です。氏は「重なりあった竹簡の束を無造作に両手でつかみ上げたとたん、バサッと二つに折れたなどという叙述に出会うと、何ということをしてくれたんだとの悔しい思いが、胸の底から突き上げてくる。」と述べておられますが、しかし破損を被ったとはいえ、銀雀山漢簡は関係者の尽力で世に出ただけでマシだったのかもしれません。文革の時期にはあるいは一旦発見されながらも諸々の事情で失われ、世に知られることのないままになった文物もあったのかもしれないなと感じました。

1972年の銀雀山漢墓の発見を皮切りに、1980年頃までに馬王堆漢墓、兵馬俑、中山王墓、あるいは睡虎地秦簡、利簋、史牆盤といった重要な遺跡や文物の存在が陸続と知られるようになりますが、こういった遺跡や文物の発見にも銀雀山漢墓発見と同様のドラマが秘められているのかもしれません。
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