薬師院仁志『日本とフランス 二つの民主主義』(光文社新書、2006年8月)
民主主義にはアメリカのような自由主義型と、フランスのような平等主義型(社会民主主義型) の2つのタイプがある。自由主義型は企業間の自由な経済競争によって社会全体が発展していくという考え方で、その結果、国民の間で経済的な格差が生じてもやむを得ないとする。また公的機関についてもできるだけ民営化を進めていこうととする。一方、平等主義型は国民の間の格差をできるだけ平等に保つことを理想とし、教育・医療・交通などの公的な分野では政府が積極的に規制を行うとする。
医療機関を例えに出せば、自由主義の考え方に基づけば、患者は自分のニーズに応じた治療を受ける権利を持っており、医者は自分の技術に応じた報酬を得る権利を持っているということになる。だから質の高い医療を受けようと思えば患者が相応の治療費を払わねばならず、貧乏人は質の低い医療しか受けられないということになる。平等主義はこれを問題とし、医療費を公的に定め、国民に健康保険の加入を義務づけて、なるたけ安価で質の高い医療を誰でも受けられるようにしようという発想になる。
フランスなどヨーロッパ諸国や南米諸国ではこうした平等主義的な政策を主張する左派が政権を担っていたり、大きな勢力を保っていることが多い。ところが日本ではアメリカの影響で、自由主義を理想とする風潮が強い。しかもしばらく前までは右派であるはずの自民党が公的機関の保護など平等主義的な政策を展開し、社会党などの左派が反対に公的機関の民営化などの自由主義的な政策を主張するという捻れ現象が起こっていた。しかし右派の自民党が郵政民営化など本来あるべき自由主義的な政策を打ち出すと、同じく自由主義的政策を主張していた野党は独自性が打ち出せなくなってしまった。また、有権者には自由主義的な政策に反対して平等主義的な政策を主張する政党を支持するという選択肢が無くなってしまった。
そこで自由主義と対比される存在として、フランスを例に平等主義型の民主主義とはどんなものなのか見ていこうというのが本書の主旨です。かといって一方的にアメリカの政治をこきおろし、フランスの政治を賛美するという態度を取っているわけではなく、問題点も含めてあくまでサンプルとしてフランスの政治のあり方を見ていこうとする所に好感が持てます。
日本でなぜ社会党などの左派政党が没落したかという分析は非常に面白いと思いましたが、ただ右派と左派の捻れ現象が起こった理由を戦前に自由主義も社会主義も一緒くたに弾圧されたからだと簡単に片付けてしまっているのはどんなもんでしょう。近代日本の西洋思想の受容について触れている小島毅『近代日本の陽明学』(講談社メチエ、2006年8月)なんかを読むと、これにはもっと根深い事情があるんではないかという気がするのですが……
民主主義にはアメリカのような自由主義型と、フランスのような平等主義型(社会民主主義型) の2つのタイプがある。自由主義型は企業間の自由な経済競争によって社会全体が発展していくという考え方で、その結果、国民の間で経済的な格差が生じてもやむを得ないとする。また公的機関についてもできるだけ民営化を進めていこうととする。一方、平等主義型は国民の間の格差をできるだけ平等に保つことを理想とし、教育・医療・交通などの公的な分野では政府が積極的に規制を行うとする。
医療機関を例えに出せば、自由主義の考え方に基づけば、患者は自分のニーズに応じた治療を受ける権利を持っており、医者は自分の技術に応じた報酬を得る権利を持っているということになる。だから質の高い医療を受けようと思えば患者が相応の治療費を払わねばならず、貧乏人は質の低い医療しか受けられないということになる。平等主義はこれを問題とし、医療費を公的に定め、国民に健康保険の加入を義務づけて、なるたけ安価で質の高い医療を誰でも受けられるようにしようという発想になる。
フランスなどヨーロッパ諸国や南米諸国ではこうした平等主義的な政策を主張する左派が政権を担っていたり、大きな勢力を保っていることが多い。ところが日本ではアメリカの影響で、自由主義を理想とする風潮が強い。しかもしばらく前までは右派であるはずの自民党が公的機関の保護など平等主義的な政策を展開し、社会党などの左派が反対に公的機関の民営化などの自由主義的な政策を主張するという捻れ現象が起こっていた。しかし右派の自民党が郵政民営化など本来あるべき自由主義的な政策を打ち出すと、同じく自由主義的政策を主張していた野党は独自性が打ち出せなくなってしまった。また、有権者には自由主義的な政策に反対して平等主義的な政策を主張する政党を支持するという選択肢が無くなってしまった。
そこで自由主義と対比される存在として、フランスを例に平等主義型の民主主義とはどんなものなのか見ていこうというのが本書の主旨です。かといって一方的にアメリカの政治をこきおろし、フランスの政治を賛美するという態度を取っているわけではなく、問題点も含めてあくまでサンプルとしてフランスの政治のあり方を見ていこうとする所に好感が持てます。
日本でなぜ社会党などの左派政党が没落したかという分析は非常に面白いと思いましたが、ただ右派と左派の捻れ現象が起こった理由を戦前に自由主義も社会主義も一緒くたに弾圧されたからだと簡単に片付けてしまっているのはどんなもんでしょう。近代日本の西洋思想の受容について触れている小島毅『近代日本の陽明学』(講談社メチエ、2006年8月)なんかを読むと、これにはもっと根深い事情があるんではないかという気がするのですが……