博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『グリム童話の世界』

2006年11月09日 | 世界史書籍
高橋義人『グリム童話の世界』(岩波新書、2006年10月)

『シンデレラ』や『白雪姫』といった日本でもお馴染みのメルヘンの世界観を探っていくと、一見キリスト教的な価値観でもって語られているように見えても、実はキリスト教がヨーロッパで広まる以前の神話や民俗が反映されていることがわかる。そういった主旨の本です。

例えば『蛙の王子様』と日本の昔話の『鶴の恩返し』を比較して、日本人が人間と動物との間の距離が非常に近く、動物の方が人間より尊いと見るのに対し、キリスト教的な価値観ではあくまでも動物は人間より劣った卑しい存在であり、人間と動物との間には断絶があると見ているが、かつてはヨーロッパ人も日本人と同じような自然や動物に対して同じような感性を持っていたのではないかと論じています。

ただ、この本の著者がやたらと「メルヘンの本質」とか「メルヘンの法則」、「メルヘンらしくない」といった言葉を使うのが気になりました。ペローの童話集は民衆が語り継いできたメルヘンを現実化・世俗化したものに書き換えたが、これはメルヘンの本質を損なうものであるとか、グリムの童話集はメルヘンをより神話化させ、よりメルヘンの本質に沿ったものに修正したといったような表現がしばしば出て来るのですが、そもそも著者のいう「メルヘンの本質」なるものが本当に妥当なものなんでしょうか。民衆の間で語り継がれていたメルヘンはペロー童話の世族性とグリム童話の神話性の丁度真ん中の性質を持っていたのではないかという気がするのですが……
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