博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

【新出金文】【韋攴】ゲン

2007年03月23日 | 学術
この器は孫慶偉「従新出【韋攴】甗看昭王南征与晋侯燮父」(『文物』2007年第1期)によると、山西省の北趙晋侯墓地114号墓から出土してたものであるが、この114号墓は考古学者によって発掘される以前に盗掘されてしまい、しかもその際に盗掘団が墓を爆破して副葬品を取り出そうとしたので、その爆破によってこの器は破損してしまったとのこと。(このあたりの盗掘の事情については先日紹介した『裏中国史 墓どろぼうは金持ちへの道』を参照。この晋侯墓地についても記述があります。発掘開始後も、ある墓を発掘中にすぐ近くの墓が荒らされるという状況だったそうです……)

その後破損部の修復が行われ、ようやく銘文が読み取れるような状態となったが、なお欠けた部分がある。以下の銘文釈読は孫慶偉論文に拠った。

【凡例】

・銘文中では「中(=仲)」、「白(=伯)」、「且(=祖)」、「又(=有)」など字釈上特に問題が無いと思われるものについては、通仮字で表記してあります。
・Shift JISやUnicodeで表示できない文字については、【林去】のように表記するか(この場合は「林」と「去」のパーツを組み合わせた字ということです。)、あるいは字形が複雑でそれも困難場合はやむを得ず〓の記号を付けました。
・銘文中で字の一部が欠けているものについては、[虎]のように[]付きで字を補い、字が丸ごと欠けていて補えないものについては□で表記しました。
・文中の「集成」は『殷周金文集成』の略。数字は著録番号です。

【銘文】

隹十又[二]月王[令(=命)]南
宮[伐][虎]方之年[隹]正
月既死霸庚申[王]在
宗周王□□【韋攴】使于
繁賜貝[五]□[【韋攴】]揚對
王[休]用作□□□[彝]
子子[孫孫]永□□□

【訓読】

隹れ十又[二]月、王、南宮に[命]じて[虎]方を[伐]たしむるの年、隹れ正月既死霸庚申、[王]、宗周に在り。王、【韋攴】をして繁に使ひせしめ、貝[五]□を賜ふ。[【韋攴】]、王の[休]に揚對し、□□□[彝]を作る。子子[孫孫]、永く□□□せよ。

【解説】

内容は昭王の南征に関わるものと見られ、また孫慶偉論文によると器形が西周早~中期間のものと近いという。銘文冒頭の「王、南宮に[命]じて[虎]方を[伐]たしむるの年」はいわゆる大事紀年であるが、中方鼎(集成2751~2)にも同様の「隹王令南宮伐反虎方之年」という記述が見られる。

この器が出土した114号墓は晋の第二代君主・晋侯燮父の墓とされており、この他の出土物として晋の初代君主・唐叔虞の器とも言われる叔夨方鼎がある。孫慶偉論文はこの器の所有者である【韋攴】と晋侯燮父が同一人物、すなわち【韋攴】が名で燮父が字ではないかとするが、墓地の副葬品として墓主の物ではない青銅器を納めることもあり、なお検討の必要がある。
コメント
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