博客 金烏工房

中国史に関する書籍・映画・テレビ番組の感想などをつれづれに語るブログです。

『戦争指揮官リンカーン』

2007年03月29日 | 世界史書籍
内田義雄『戦争指揮官リンカーン』(文春新書、2007年3月)

元弁護士で軍事には素人だったリンカーンだったが、南北戦争では当時の最新技術であった電信を利用して前線と連絡を取り、将軍の人事や軍事作戦を取り仕切っていた。本書では当時やりとりされた電信の読解を通してリンカーンと軍人たちの駆け引きを見ていきます。グラントら北軍の将軍たちは大統領による介入を避けるために、時には前線の状況を大統領に知らせまいとし、時には電信が不通になるようにして大統領による指令を受け取れないような状況を作り上げるといった抵抗を試みますが、結局はリンカーンはこの戦争を通してアメリカ陸海軍最高司令官としての地位を築き上げていきます。

本書のもう一つのテーマは、南北戦争がその後のアメリカの戦争の原型になったということです。リンカーンは「人民の、人民による、人民のための政治」で有名なゲティスバーグ演説で、南北戦争はアメリカの内戦であるにとどまらず、世界における自由と民主主義を守るための戦争なのだと強調しています。アメリカが世界の自由と民主主義を守るために戦うという理念がこの後も継承されたことは皆様ご存知の通りですが、現在のブッシュ大統領夫妻も自分達をリンカーンになぞらえるような発言を繰り返しているとのことです。

また南北戦争の後の南部では、確固とした復興計画が練られないままに取り敢えず北軍側による軍政が敷かれ、南部の経済は北部から一旗揚げようとやって来た野心家たちにいいようにされ、その反動でKKKのような団体が結成されたということで、イラク戦争後のイラクと似たような状況にあったようです。

何というか、悪い意味で過去があって初めて現在の状況があるということを思い知らせてくれる内容でした(-_-;)
コメント
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