はぐくみ幸房@山いこら♪

「森を育み、人を育み、幸せ育む」がコンセプト。株式会社はぐくみ幸房のブログです。色々な森の楽しさ共有してます♪

スギが教えてくれる表土流亡のリスク

2020年06月01日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 これまで人工林を観察してきた経験によるお話なので、科学的根拠は乏しいんですが・・・・

 スギは、表土流亡が起こるかもしれないエリアを私たちに教えてくれている。と、個人的に思っています。

 スギやヒノキなどの針葉樹は、基本的に、樹体の重心を真っ直ぐに保とうとするので、根元が曲がると、幹は根元と逆の方向に曲がる、曲がり返しという現象を起こします。

 

 写真を見ていただくと、お分かりになると思いますが、こういう樹形のスギやヒノキをよく見かけませんか?

 

 根曲がりだけでなく、幹が曲がっても、曲がり返しが起こります。

 広葉樹は、光があたる方へ、枝を伸ばし、結果、幹が曲がりますが、針葉樹は基本的に、天に向かって真っ直ぐ伸びる(頂芽優勢)ので、何かしらの原因で幹が曲がったら、曲がり返して、もとの場所に戻る(?)ようになります。

 

 積雪地帯のスギも、何度、雪に倒されても起き上がり、を繰り返し、弧を描く芸術的な樹形になったり・・・

 このように針葉樹は、根元や幹が曲がると、再び、重心を真っ直ぐに戻そうとし、曲がり返しを起こすのが、基本的な特徴の1つです。

 

 スギやヒノキの人工林内を歩いていると、一定の場所で根元曲がりが起こっているスギ・ヒノキに出会います。

 次の写真に書かれた赤○に注目して下さい。(ちょっと、分かりにくいですね。すみません。。。)

 

 積雪もない地域で、一定のエリアに生えているスギやヒノキが根元が曲がっていたら、もしかすると、「過去に表土が動いた」可能性が考えられます。(ただし、科学的な根拠はございません。。。m(_ _)m)

 1本、2本ではなく、一定のエリア内に生えるスギ・ヒノキの根元が曲がっていたら、「なぜ?」と思わずにいられません。

 高性能林業機械が普及し、作業道の作設が一般的となった現代の人工林を歩くとき、この根元曲がりエリアを注視すると・・・

 比較検証をしたわけでもないので、科学的な根拠はありませんが、表土の移動量が多い傾向にあると感じました。

 実際、現場に携わっている方は、どう感じますか?

 

 次の写真は、さっきの写真の少し奥の様子を、反対側から撮影したものです

 切土面(作業道の上)が脆弱で、根元曲がりエリアに付けられた道の切土面は、こういう傾向が多いのではないかと・・・。

 

 さらに、作業道作設後に表土が崩れた場所では・・・

 崩れた周囲を取り囲む様に根曲がりのスギ達が・・・・。

 

 落ち葉もない石や礫まみれで、明らかに表土が流されているヒノキ人工林でも、根元が曲がっています。

 

 おそらくですが、根の発達が弱い10年生くらいのスギやヒノキは、表土が動いた時に傾いてしまい、その傾きを修正するよう曲がり返しが起こった結果、根元曲がりの樹形になったのではないか・・・・と想像しています。

 20年、30年になると、根が発達し、幹も強固になるので、表土が動いたくらいでは、大きく傾かないと思います。

 

 同じく、崩壊した場所の周囲に生えている、根元が曲がっているスギ。

 ここの現場は、2020年時点で25年生前後なので、崩壊した後に傾いた可能性もあります。

 初回間伐(約10年前)を行った時点での崩壊はなく、作業道を作った後、崩壊したようです。

 

 年輪を見てみると、約15年生までは倒れていなかったと思われます。

 斜面下側の年輪が大きく偏り始めたのが8年前なので、8年前に傾いたと考えられます。

 崩壊したことで傾いたのか、作業道を付けた直後に傾いたのか、作業道を付ける直前に表土移動が起こり傾いたのか、それは分かりません。。。(作業道の付けた時期を聞けば、分かるんですけどね(^_^;)。)

 

 人工林が成熟期を迎えたと言うことで、皆伐や搬出間伐が進み、作業道の作設も進んでいます。

 科学的な根拠は希薄ですが、スギやヒノキの樹形を観察することで、崩壊が起こる可能性があるエリアを特定し、崩壊を回避・リスクヘッジするという方法もあるのではないのかなーと思います。

 

 可能性を見いだす視野が広がれば、

  ・ここに道を作るのはやめよう。

  ・ここは皆伐をせず、択伐または間伐にしよう。

  ・ここは深根性の広葉樹を植えて、崩壊しにくい山に転換しよう。

 など、森林づくり・森林管理・資源管理・森林整備の選択肢の幅が広がると思います。

 

 科学的な根拠はなく、あくまで針葉樹の特性とこれまでの観察や経験に基づくものですが、個人的に、指標としては「有り」だと思っています(^_^;)!


地拵え 種類

2020年04月10日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 前回、地拵えの目的についてお話しさせていただきました。

 今回は、地拵えの種類について。

 

 地拵えは、伐採跡地に残された伐倒木や枝条などの林地残材を整理し、安全かつ効率よく、再び、木(苗)を植えられるように整理する作業です。

 そして、地拵えのやり方次第では、「土壌流亡を防ぎ、林地保全を促進する。」というメリットや「地力低下を招く。」というデメリットを持ちます。

 

 地拵えは、大きく「潔癖地拵え」と「粗放地拵え」の2タイプに分かれます。

潔癖地拵えは・・・

 地表面をレーキでかいたり、残された根や落葉層まで除去し、特に天然更新を促進する場合は、鉱物質土壌まで露出させます。

 また、散在する枝条を集め、焼き払ったり、ブルドーザーやトラクタ等で耕耘したり、ササの地下茎を剥ぎ取ったり、徹底的に地表面を除去することも。

 メリットとして、地表面を除去することで、灌木などの侵入や再生が遅れるため、下刈りを省略することができます。

 デメリットとして、地表面を除去するため、特に鉱物質土壌を露出してしまうと、地力の低下や表土流亡の発生を招いてしまいます。

 枝条や刈り払った有機物を利用し、地表面を覆うことで、デメリットの対策・緩和に繋がりますが、地表面を除去した後、再び、枝条を集積して地表面を覆うとなると、労力・コストは大幅に上がります・・・。

 

粗放地拵えは・・・

 必要最小限の作業しか行いません。(一般的な地拵えが、これにあたると思います。)

 しかし、植栽作業や移動に支障をきたすような仕上げ方では、粗放過ぎます・・・。

 また、雑草木の除去程度が低いと、萌芽能力が高い植物や再生能力が早い植物に植栽木が覆われてしまいます。

 デメリットとして、仕上がり加減が、能力や経験値に左右されやすいと考えられるので、雑草木やつるが繁茂し、視界が悪くなる残された材や枝条が植栽や下刈り作業の障害になりうるということです。

 一方、メリットとしては、地表面の露出が比較的小さいため、地力の低下、雨滴や地表流下水による表土流亡が少ないという点です。

 

 もちろん、どちらの地拵えがイイというわけではありません

 現場や植生状況に応じて、どちらが最適か、部分的に潔癖/粗放を使い分けるべきか、等を判断することになります。

 ただ、コストという現実問題がある以上、基本的に粗放地拵えになると思いますが、下刈りの省略化具合によっては、潔癖地拵えの方がトータルコストは抑えられるかもしれません。

 初期に集中して投資するか、分割して投資するか、地形・地質・植生など現場の条件によって、トータルコストが抑制できるのか、そういう研究報告があると、経営判断の1つの指標になると思うんですが・・・。(僕が検索したところ、めぼしいものは無かったんですが・・・)

 それと、地域によって、高性能林業機械を使った地拵えを行うところもあると思うので、それは潔癖地拵えになるのかも・・・。

 

 ちなみに、講義や講習会で講師をさせていただくと、「下層がシダに覆われた山はどうすればいいですか?」と質問をされることがあり、そのような質問には、以下の様にお答えしています。

 ①シダを弱らせるため、徹底的に下刈りを行い続ける。時期は6~8月。シダの再生状況を見ながら年2~3回繰り返し、シダが枯渇するまで数年続ける。

 ②シダの地下茎ごと焼き払う。(立木あると無理だけど。)

 ③重機類を使い、地下茎を除去する。(立木あると無理だけど。)

 つまり、時間やコストが掛かりますよ。というお話をさせていただいています。

 その上で、

 ④繁茂しているシダがウラジロだったら、良好なウラジロが採取できる様、管理する。成功すれば、木材生産よりも利益がイイかも(^_^;)。(基本、立木がないと難しいかも。)

 邪魔者がお金に替わるかも・・・というお話もさせていただいています。

 

 

 ここから、地拵えの種類について(全8種類)。

 ①全刈り地拵え

 ②筋刈り地拵え

 ③坪刈り地拵え

 ④枝条散布地拵え

 ⑤先行地拵え(伐採前地拵え)

 ⑥棚積み地拵え

 ⑦火入れ地拵え

 ⑧開墾地拵え

 箇条書きになりますが、それぞれの特徴をご紹介します。

 実際、現場でご自身が行っている地拵えが、どの種類に該当するのか、どの種類とミックスしているのか、振り返ってみて下さい。

 表土流亡の影響やノウサギ被害の影響など地拵えの種類によって異なる。ということに気づいていただければ、今後、作業の見方が変わるかもしれません。

 

①全刈り地拵え

最も一般的で単純な作業で、雑草木などの再生抑制効果が高い

・植栽予定地に散乱する枝条や雑草木など、植栽の障害になる物を全面的に取り除く。

 取り除いた枝条や雑草木は、植栽の邪魔にならない場所へ集積する。

 等高線沿いに置いたり、谷や川へ落とす。

 ただし、谷や川に集積しすぎると大雨や豪雨の時に流され、下流域へ悪影響を与える可能性も出てくる。

 また、植栽に適した肥沃な場所に集積したり、落としたりしないこと。

・渓畔林などの保護すべき地点に対して留意すること。

作業量が多く、多数の人手を要する

地表面が露出しやすい

 

②筋刈り地拵え

・植栽する列のみを刈り払い、残りは放置する方法。
 刈り払った雑草木などは、列の上または列に沿って置いたり、斜面下方へ落とす。

植栽密度が低い(面積あたりの植栽本数が少ない)場合に適した方法

刈り残した列が、植栽木に対する防風効果が期待できるため、寒風などによる被害防止や軽減の効果が期待できる。

表土流亡の防止効果が期待できる。

全刈り地拵えよりも労力や経費の節減が期待できる。

・種子の供給源や地下茎が残されるため、刈り払った雑草木の再生力が強い

刈り残した列の植物が繁茂し、植栽木が被圧されるおそれがある。

ノウサギやネズミを誘引する可能性が高い。


③坪刈り地拵え

・植栽箇所の周囲のみ、円形または方形に刈り払う。→ 直径2~3mが一般的。

筋刈り地拵えよりも労力と経費が節減が期待できる。

・周囲に残された雑草木が、植栽木への保護効果が期待できる。

 ただし、周囲に残された雑草木などによる植栽木への被圧の影響が大きくなる

ノネズミやノウサギの被害を受けやすい

・再生した雑草木に植栽木が紛れてしまう可能性が高いため、後年の下刈りが面倒になる。

 

④枝条散布地拵え

・刈り払った雑草木類や林地残材を林地全面にまき散らす方法。長さ1~2mくらいに細断し、散布する。

・植栽予定地に雑草木類や枝条などの林地残材が少ない場合に採用。それなりに多い場合は、適当量散布するなど臨機応変に。

・メリットは、林地土壌の水分の発散を抑制雨水や雨滴による表面浸食の緩和腐植質の補給(地力低下の防止)雪崩防止(雪の移動を防止)落ち葉などの飛散を防止

・デメリットは、作業量が多い、雑草木類をまき散らすため、歩きにくく植栽や下刈りが不便になる、ネズミやノウサギが営巣する(獣害を誘発)。

・林地保全の観点では有効な方法だけど、小~中型獣類による被害を誘発する可能性を高めてしまう。

 

⑤先行地拵え(伐採前地拵え)

・主伐前に灌木やササ類を薬剤処理により除去する。

・メリットとして、伐採前の調査や作業、伐採後の地拵えが容易になる。刈り払い等の作業が日陰で行えるため、労務安全管理の面から有利な点がある。

・デメリットとして、主伐の予定がなくなった場合、作業が無駄になる。路網整備が不十分だと通勤が大変。搬出作業後、地拵えした場所が乱される場合がある。薬剤処理により下流域へ影響を与える恐れがある。

 

⑥棚積み地拵え

・刈り払った雑草木類を集めて、4~8m間隔で等高線沿いに棚の様に積み上げる方法。

 棚は、伐根に積み上げて固定したり、杭を打って固定する。

 また、伐採で残された樹木や生えている樹木を残し、そこへ枝条などを寄せ集める。

・林地残材の移動や積雪の移動による植栽木への損傷が予想されるような場所に適している。

・棚積みにした場所から生える樹木は、刈り取らず、そのまま利用すれば、林地崩壊や雪崩の防止効果が期待できる。

・ただし、利用する樹木が大きい場合は、植栽木の成長が抑えられる可能性がある。

 しかし、残した樹木を植栽木とともに保護すれば、混交林や複層林への誘導が可能となる。

環境林高い環境機能を備えた経済林にしたい場合は、棚積み地拵えが適している

 

⑦火入れ地拵え

・林地残材や刈り払った雑草木などを集め、林床をきれいに燃やす方法。

・焼き肥えによりリン酸など無機元素が増加する反面、林野火災の危険が伴う。

病害などによる改植ノネズミの異常発生コシダやウラジロの密生地などは、この地拵えが適している。

マツ類やカンバ類など(特に風散布タイプ)の天然更新の促進効果が高い

 

⑧開墾地拵え

・伐採跡地を焼き払った後、ソバやマメ類などを作り、同時期~3年後の間に植栽を行う。

 または、数年間、サツマイモやサトイモなどを栽培、コウゾやミツマタなどの特用樹や観賞用樹木などを栽培。

・開墾により、土壌耕耘効果や作物栽培への施肥効果によって、造林木の成長が良好になる。

・間作作物による地表被覆効果、地拵え及び下刈り作業の省力化が期待できる。

 ただし、急斜面では表土流亡や崩壊の原因になるおそれがある。

・間作の場合、施肥を怠ると地力低下を招く

間作作物を大切にしすぎて、植栽木を損傷してしまうことがある。

  ※間作林=スギなど高木性樹木の苗木が育つまで、苗木間の隙間で農作物を栽培する山林

  ※木場作=苗木が大きくなるまで、苗木と苗木の間に麦や落花生などの作物を栽培しながら、木を育てる方法。

 

 以上、8種類の地拵えでした。

 最後の開墾地拵えは特殊で、昔の農林家が行う様なイメージかな?

 近年は、田舎暮らし、半農半X、自伐林業などに取り組む方が増えているので、今の時代スタイルに合った新しい開墾地拵えがあるかも。

 もしくは、植栽木がある程度生長するまで、林地を貸すというビジネスも出来るかも?

 「土地代は無料で、間作を自由に認めるから植栽木を管理してね。」みたいな(^_^;)。


地拵え

2020年04月07日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 皆伐が行われた後の山では、再び、木(苗)を植栽します。

 植栽する樹木の種類は、目的によって異なります。

 木材生産が目的なら、スギやヒノキなどの針葉樹。

 薪や炭の生産を目的とするなら、カシ・ナラ類。

 水源涵養や土砂崩れの抑制など公益的機能の発揮が目的なら、根を深く張る深根性の樹木。

 景観やレクリエーションが目的なら花や紅葉が楽しめるサクラやモミジなど。

  ・・・がオーソドックスではないかな~と思います。

 

 皆伐された場所には、伐り捨てられた材や不要だった材、枝条が残されており、これらを総称して、林地残材と言われています。

 林地残材は、はっきり言って、植栽作業や移動の邪魔になります。

 この林地残材を整理し、片付ける作業のことを「地拵え(じごしらえ)」と言います。

←地拵え前

←地拵え後

 
 皆伐から2年、3年、4年と時間が経過してしまうと、林地残材のほかに、灌木やつる類などが繁茂するため、それらも取り除かないといけません。
 そこで、皆伐後(伐採後)、直ちに植栽作業に着手することができれば、灌木やつる類が繁茂する前に植栽作業を終えることが出来るだけでなく、地拵えの手間も増えません。

 これは個人的な見解ですが、皆伐後直ちに植栽すると地拵えが省略できる・・・というわけではなく、皆伐から植栽作業の着手までに時間の経過が長くなれば長くなるほど、地拵えの手間が増える、という認識の方が正しいと僕は思います。
 それと、バイオマスなど燃料材に使われるから、木は全木集材で、皆伐跡地には林地残材がない・・・みたいな認識(解釈?)をもっている方(主に行政の方に多いですね。)もいますが、全ての現場がそんな都合のいい現場になっていません。

 

 地拵えは、伐採地に残された伐倒木や枝条を整理し、再び、木(苗)を植えられるよう、林地を整理する作業です。

 地拵えの目的は大きく分けて2つ。(各書物に書かれている表現を少しアレンジしてます。)

 

 ①植栽作業の安全を確保し、作業効率を向上させること。

 ②植栽木の競争相手になる植生を除去すること。→ 植栽木の活着と成長の促進に繋がる。

 

  この2つの目的を達成するために、地拵えを行います。(ちなみに、僕は特に①の”安全”を重視しています。)

 そのため、「無地拵え」や「一貫作業による地拵えの省略」という方法を採用するときは、この2つの目的が達成できるか否かを考えることが重要ではないでしょうか。

 他の植生が生える前に植栽するから無地拵え・・・。

 植栽に支障がないから無地拵え・・・。というのは、少し「?」な判断だと、個人的には思います。

 植栽作業が安全に行えるか否か。の検討が第一ではないでしょうか。

 安全に作業できるから、植栽作業の効率化も図れるのではないでしょうか。

 

 地拵えを省略できれば、確かにその分の費用は抑えられます。

 その代わり、植栽コストは上がるかもしれません。

 しかし、トータル的にはコストが下がるから地拵えはしないという、コスト縮減に偏った判断はナンセンスです。

 その判断は、植栽作業に従事する作業員が安全に働けるための環境整備を怠り、ケガや事故が起こるリスクを現場に押しつけた、ということに繋がるように思います。

 上述した地拵えの2つの目的が果たせているか否かの判断が乏しいまま、無地拵えという条件で植栽の公共事業を発注したり、補助事業の要件になっているものは、改めて検討した方がいいんじゃない?、と個人的に思いながら、要綱を見たり、書類を作っています(^_^;)。

 林業は労働災害が多い産業です。

 しかも、昔から今に至るまで、労働災害の発生率が改善していない産業です。

 山で作業する人達の安全を第一に考えるべきであり、コスト縮減を第一に考えた無地拵えによる公共事業の発注や補助事業の要件って、どうなの?って、思わずにはいられません。 

 

 地拵えを行うと、こんなメリットがあります。

 ①植栽作業の安全性が向上する。

 ②植栽作業の効率が上がる(作業が捗る)。

 ③その後に行う下刈りやつる切りなど保育作業の安全性が上がる。

 ④下刈りやつる切りなど保育作業の効率が上がる(作業が捗る)。

 

 植栽だけではなく、その後に続く、下刈りやつる切りなど保育作業の安全や効率にも影響を与えます。

 ということは、安全性の評価をせず、コスト縮減第一主義による無地拵えは、植栽だけでなく、下刈りやつる切りなどの安全面にも影を指すことになります。

 コスト縮減は大事です。

 でも、一番大事なことは、山で働く人たちの安全です。

 その考えを隅に置き、怠るような判断の下、無地拵えの採用はナンセンスだと思います。

 

 地拵えの目的は、

 ①植栽作業の安全を確保し、作業効率を向上させること。

 ②植栽木の競争相手になる植生を除去すること。→ 植栽木の活着と成長の促進に繋がる

 

 これらの目的が、達成されるか否かが、無地拵え採用の判断基準ではないかと、僕は思います。

 ちなみに、上記の目的は、林業技術ハンドブックなどの書物に、普通に書かれていることで、最新のことでも、珍しいことでも何でもなく、昔から、書籍に書かれています。(安全に関する部分は、書物によって、書いてあったり無かったりですが・・・。)


残された林内木 倒木の危険性

2019年10月08日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 人工林内の樹木1本1本の姿は、決して、喜べる様な姿ではない樹木が多い・・・。

 

  皆伐の現場で見かける残された人工林の一部を見ていると、納得していただけると思います。

 間伐が遅れた人工林の大半は、このような樹形をしていると思います。

 パッと見、緑色で覆われた人工林も、林内に入れば、脆弱な姿をしており、伐り残されると、その姿があらわになります。

 

 伐り残された理由として、搬出できなかった、森林所有者が違う、森林所有者の意向、法的な理由など色々なケースが考えられます。

 このように残された林内木を見ていると、「貧弱な樹形で、形状比が高いなー」と思うわけです。

 専門用語になりますが、形状比とは、樹高(cm)を胸高直径(cm)で割った値で、風害や冠雪害の発生リスクを表す指標です。

 

  人工林では、形状比70以下が理想で、形状比が80を上回ると被害が発生しやすいとされています。

  人工林が成熟段階(60年生以上)を迎えると、形状比は60以下が望ましいとされています。

 

 

 さて、写真の様に残された林内木の形状比は、測っていないですが、おそらく80を超えていると思います。

 しかも、向こうの景色が見えるくらいの面積しか残っていないので、林内木の一部として密集していた時とは、環境も状況も大きく異なります。

 

 林業における形状比は、80以上が危険という指標ですが、孤立木の場合、形状比が50を超えると、倒木する可能性が上がるという指標があり、孤立木の望ましい形状比は30~35と言われています。

 「でも、その数値は孤立木の事だから。」

 と、終わらせたくなりますが、今回の写真の様に、向こうの景色が見えるくらい残された林内木って、孤立木と大きな差があるのかなと疑問に思いませんか?

 繰り返しになりますが、孤立木は、形状比50を超えると倒木する可能性があると言われています。

 間伐などの手入れが遅れた人工林が多い中、向こうの景色が見えるくらい残された林内木の形状比は、どれくらいになるのでしょうか。

 大半が80を超えているかもしれません。

 仮に、きちんと手入れされ、形状比が60~70だとしても、密集した人工林ではなく、伐り残された林内木の場合、60~70の形状比で十分なのか。

 孤立木の指標を考えると、今回の様に伐り残された林内木における気象害発生リスクを、もっと考える必要があるように思います。

 

 近年、台風による人工林の被害は甚大であり、林業という産業としての被害だけでなく、住民の生活にも大きな被害と支障を与えています。

 今後、皆伐が進むことを考えると、このような現場の状況と被害の実態を鑑みて、今一度、検討すべきではないかなと思います。

 

 ちなみに、国有林では、林縁木(立木)を防護柵の支柱として利用する事例がありますが、何でもかんでも、立木を利用するのではなく、その立木の形状比を考えておかないと、風でバタバタと倒されてしまう・・・と思います。

 特に林縁部の樹木は・・・。


下刈り

2019年08月05日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 林業の夏の作業と言えば、下刈り。

 基本的に植物は、春、根茎に蓄積された養分を消費して、新葉・新芽を展開します。

 夏、新しい葉を展開した後は、根茎に蓄積された養分は大きく低下し、再生力も衰えるため、新しい葉で光合成を盛んに行います。

 秋、来年の春に備えて、生産した養分を根茎に蓄積します。

 

 感覚的な話になりますが、

 梅雨明け後、盛んに光合成を行い、植物の生長が旺盛になる。

 お盆明け以降は、光合成で得た養分を蓄積している。

 と思います・・・、まぁ、あくまで、感覚的な話です。

 

 夏に下刈りを行うことは、植物・樹木の生長を考えると、とても理にかなっています。

 植えた木を成長させたい

  ならば、夏の生育環境を整えてあげれば、植えた木はグッと成長します。

 植えた木以外の植物を抑制したい

  ならば、根茎などに蓄積された養分が大幅に低下し、再生力も低下した夏に、刈ってやれば、成長を十分に阻害できます。

 夏になると、植物や樹木がぐんぐんと成長するため、一番活気盛んで元気!って感じるかもしれませんが、実は、養分のたくわえが最も少ない時期で、再生力も弱く、光合成を行う葉を一番失いたくない、ストレスを感じやすい季節が夏です。

 

 さて、下刈りの目的は、

①植栽木の健全な成長

 光環境の改善。

 風通しを良くし、蒸れによる枯死を回避。

 梢端部への被圧防止。

②植栽木の幹曲がり防止

 寄りかかってくる他の植物を除去し、覆い被さることを防ぐ。

③つる類による巻きつきや被圧の防止

 

 ざっくり言うと、

「植えた木が立派に成長するため、競争相手となる他の植物を除去する」

「良い木材を生産するため、材質や価値の低下を招く要因となる他の植物を除去する」

という感じです。

 

 下刈りは、植栽木とそれ以外の樹木の生長との関係によって異なりますが、概ね植栽後5~6年間、毎年行います。

 後半になると植栽木以外の植物を除去するというより、「つる」の駆除がメインになる場合が多いと思います。

 

 下刈りの時期は、植栽樹種によって多少の差はありますが、概ね6月中旬~7月下旬が望ましく、8月中旬や下旬とあまり遅い時期に行うと、下刈り後の生長期間が短くなり、植栽木の成長促進効果は高いとは言えません。

 前出した内容と重複しますが、秋になると、光合成で生産した養分は、成長のために使わず、蓄積に回すため、下刈りを8月中旬以降と遅い時期に行うと、植栽木の生長期間が短く、結果、成長促進効果が伸びないというわけです。

 ちなみに、スギは6月中旬~7月下旬ヒノキは7月上旬~7月下旬の期間が適しているといわれています。

 そして、アシナガバチの活動が最も活発で、危険な時期は8月と言われています。

 なので、アシナガバチの被害軽減と下刈り効果を考えると、7月末までに下刈りを完了させることが理想です。

 

 林床に、直接、太陽の光があたる時期の森林は、様々な植物が繁茂するため、激しい生存競争が行われます。

 その激しい生存競争の中で、植栽木を生き残らせるために、下刈りを行います。

 これは、スギやヒノキに限らず、広葉樹であっても、人が植えた以上、無事に成長するまで、面倒を見ることが大切だと思います。

 

 

 次に下刈りの方法です。

 植栽地を全面的に刈る「全刈り」

 

 植栽木の列に沿って、帯状に刈る「筋刈り」

 さらに、縦方向(傾斜方向)に刈る「縦筋刈り」と横方向(水平方向)に刈る「横筋刈り」の2種類があります。

 

 植栽木の周囲1m四方程度を方形または円形に刈る「坪刈り」

 


 上述した3つの下刈りは、それぞれの特徴があります。

 すみません、書くのが面倒なので、一覧表を貼り付けますね。

  実は、下刈りそれぞれのメリットとデメリットは、昔から言われています。

 近年は、コスト重視で全刈りか筋刈りかみたいに言われることもありますが、植栽樹種、雑草木の状況などの条件に応じて、どの方法を採用すべきか、検討する必要もあります。

 植栽木の成長を優先するなら全刈りですが、獣害のことを考えると筋刈りの方が良いけど、ウサギが多いなら坪刈りが良い。

 

 植栽(造林)コストの軽減と言うことで、haあたりの植栽本数も下がってきているので、自ずと、1本あたりの植栽間隔が広くなり、結果、全刈りだと無駄に刈り払う面積が増えるということも・・・。

 が・・・、そう言いつつも、色んなことを考えると、結果的に全刈りが一番楽なんじゃないかな~と思います。

 

 下刈りの動画Ver.はこちらです!↓ ↓

森の知識はぐくMOVIE「下刈り」


前生林の伐採株

2019年02月03日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 とある人工林を歩いていたら、今の人工林になる前に伐採された切り株を発見。

 切り株の高さは約1m、直径は・・・感覚的に60~70cm。

 比較できるものと一緒に撮影しなかったので、わかりにくいですね・・・。

 

 ところで、高さ1mの位置で、こんな大きな木を伐ったとは考えにくい・・・。

 切り株は、天然ヒノキだと思うので、こんな位置で伐採するのはもったいない。

 おそらく、前生林の頃からより、土壌が流されて、見かけ上の切株高が高くなったのかな?

 根の位置から考えると、厚さ50cmくらいの土壌は流された・・・かな?

 きっと天然林だったので、落ち葉の層も厚い・・・はず。10cmくらい?

 

 と、色々考えたけど、いずれにしろ、伐り高は高い気がする・・・。受け口も高いし・・・。

 取りあえず、前生林の頃より土壌の層が薄くなっていることは確実かな。


風害 林業 完満材とうらごけ材

2019年01月27日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 今回は、「林業で育てる木は風の影響を受けやすい傾向にある」というお話です。

 林業は木材生産を目的とした産業です。

 木材を生産する上で求める立木の形状は「完満材」。

 完満材は、末口(先端側の木の断面)と元口(根元側の木の断面)の直径差がほとんどない木材のことを言い、反対に末口と元口の直径差が大きい材を「うらごけ材」と言います。

 簡単に説明すると、赤い点線が柱材となる部分、それ以外は端材になる部分で、左のイラストが理想とする木の形、完満材です。

 端材となる部分が少ない完満材は、歩留まりが良いので、木材生産は完満材を目指した施業を行います。 

 木材生産という観点で言うと、完満材はうらごけ材より優れていますが、うらごけ材は完満材より風の影響を受けにくいというメリットがあります。

 釣り竿を例に話をすると、釣り竿の形状は手元から先端に向かうほど細くなっています。

 そのため、釣り竿を大きく振りかぶったときに起こる衝撃は、先端がしなやかに曲がることで衝撃の力が分散され、手元への負担がほとんどありません。

 仮に、手元と先端の太さがほぼ同じ釣り竿があったとして、それを振り下ろす、というイメージをしていただくと、手首への負担がどうなるか、想像できるかなと思います。(この表現で、お分かり、納得いただけるでしょうか?)

 

 同様に、林業で育てる木の形状が、先端が細く、根元が太い形状(うらごけ材)の場合、風が吹いた時、先端がしなやかに揺れるため、衝撃が吸収され、木の根元に対する曲げの力の影響はほとんどありません。

 一方、末口の直径と元口の直径の差がほとんどない木(完満材)の場合、風が吹いた時、衝撃を吸収する力が弱く、”てこ”の原理が働き、根元に曲げの力が及ぶため、幹が折れてしまう可能性が出てきます。

 

 一般的に、「幹や枝の形状が先端から根元にいくほど、太くなる円錐形になると曲げの力が均等化される」と言われています。

 上図に示す矢印は、長い矢印ほど曲げの影響を受けているというイメージです。

 なので、木(幹・枝)の形状は、完満材よりも、うらごけ材の円錐形の方が、曲げの力を均等化することができるというのが、うらごけ材のメリットです。

 

 さて、木材生産を目的とする林業の主な森林は、スギやヒノキの人工林です。

 こうした人工林では、木が密集していることで、下枝が枯れるため、自ずと樹冠の位置が高くなります。(生きた下枝がびっしり生えているスギ・ヒノキ人工林って、ほとんどないと思います。)

【補足】

 下枝=したえだ。赤い矢印の部分。木に生えている枝の中で、最も根元に近い枝(一番下にある枝)。

 樹冠=じゅかん。青い線で囲った部分。枝葉が覆っている範囲

 

 樹冠の位置が高いと言うことは、枝葉の量が少ないという風にも考えられます。(絶対とは言い切れませんが。)

 枝葉の量が少ないと言うことは、葉で生産される光合成の生産量も少なくなります。

 光合成で生産されたエネルギーは、消費しながら、先端から根元に向かいますが、全体の生産量が少ないと、根元まで十分なエネルギーを送ることが出来ません。

 というのも、人工林内の木(以下、林木)は、高い位置にある樹冠全体を支えるため、幹上部でしっかり太らないといけません。

 そのため、根元の幹が太るために必要なエネルギーが少なくなり、結果、末口と元口の直径差が少ない完満材になります。

 ちなみに、人工林に限った話でも、針葉樹林に限った話でもなく、樹木が密集した環境であれば、天然林でも、広葉樹林でも、同じような現象が起こっています。

 

 

 樹木の成長に応じて、一定の密度を保ちつつ、樹冠をコントロールすることで完満材という木材を生み出す、というのが林業です。

 一方、孤立した木(以下、単木)の場合、下枝が枯れにくいため、樹冠の位置が低く、一番下の枝も光合成を行うため、樹幹下部も盛んに肥大成長し、結果、末口と元口の直径差が大きいうらごけ材になります。

 スギやヒノキなどの針葉樹を例にすると、樹冠の位置が低いうらごけ材は、下の写真の様な樹木です。

←メタセコイヤ

 

 単木はうらごけ材で、風が吹くと樹幹上部は激しく揺れますが、樹幹下部はほとんど揺れません。

 林木は完満材で、風が吹くと、はじめ樹幹上部が小さく揺れ、やがて樹幹下部で大きく揺れ出し、結果、立木全体が揺れます。

 さらに・・・

 単木は樹冠の位置が低いため、重心も低くなります。

 林木は樹冠の位置が高いため、重心も高くなります。

 音楽で使われるメトロノームと同じ理屈で、重心を高くすると大きく揺れ、重心を低くすると小さく揺れます。

 

 

 

 単木は曲げの力を均等化させる「うらごけ材」で、樹冠(重心)の位置が低いため、風が吹いても大きく揺れにくい。

 林木は曲げの力を均等化させにくい「完満材」で、樹冠(重心)の位置が高いため、風が吹くと大きく揺れやすい。

 

 林木は周囲に他の樹木があるため、お互いに風を遮りあう関係にあるので、簡単には倒れません。

 しかし、強風が吹き続けると、大きく揺れ出し、写真のように樹冠が絡むこともあります。

 

 また、数十年に一度の大型台風など、林木同士が互いに風を遮りあっている力以上の風が吹くと、一気に倒木することもあります。

 さらに、林木は、間伐により立木密度が下がったり、周囲が皆伐されたりすると、ちょっとした強風で簡単に倒れてしまうこともあります。

 

 単木の様な「うらごけ材」は、大きな節もあるため、林業では嫌われる木材です。

 しかし、樹木という観点では、下枝も光合成を盛んに行っている健康的な樹木と言えます。

 

 今回のお話で、理解して頂きたいのは、木材生産を目的とする林業で育てている樹木は、必然的に「風の影響を受けやすい樹木」に育つ傾向にあるということです。

 という風に考えると、強度間伐や皆伐を行うことで、林木に与える風の影響が大きく変化するというリスクに気づくことが出来ます。

 ただし、強度間伐や皆伐を否定しているわけでも、やってはいけないと指摘しているわけではなく、その行為が、林木に与える風の影響力を変えてしまうことを認識することが大切だと言うことです。

 林業は、必然的に風の影響を受けやすい樹木を育てているので、その点と現場の環境を考慮した上で、施業や整備を行うことが必要だということです。

 林業は産業であり、収益確保も重要なことなので、強度間伐や皆伐を、完全に否定してしまうと、施業の選択肢を狭めてしまい、経営面でマイナスになることもありえます。

 木は山主にとって資産です。

 そして、その資産は、風の影響を受けやすい資産なので、林業施業は現場に応じて、適した時期にその現地に適した施業を行う事が理想で、一律に35%間伐すれば、良いというものではありません。

 適した間伐率を見極めるって、ホントに難しいんですが、現地によって適した間伐率があるという認識をもつことが大切だと思います。

 知っていれば、それを目指すことが出来ますし、技術向上にも繋がります。

 

 脱線しましたが、今回のお話をまとめると・・・

・「うらごけ材」は、木材の歩留まりは悪いけど、曲げの力を均等化させるというメリットがある。

・「完満材」は、木材の歩留まりは良いけど、曲げの力を均等化させにくいというデメリットがある。

・単木の形状は「うらごけ材」で、下枝が枯れず、樹冠(重心)の位置も低くなるため、風が吹いても大きく揺れにくい。

・林木の形状は「完満材」で、下枝が枯れており、樹冠(重心)の位置も高くなるため、風が吹くと大きく揺れやすい。

・林業は「完満材」を生産したいので、必然的に「風の影響を受けやすい樹木」に育つ傾向にある。

・林木は、風の影響を受けやすいという欠点を、密集(密度)で補っているため、間伐や皆伐によって、林木に与える風の影響が変化する。

 

 林業で育てる木は、「風の影響を受けやすい傾向にある」という認識があれば、施業の重要性が見えてくると思います。

 このことは、間伐とも関係してくるんです、、、それは、また別の機会にお話ししたいと思います。

 


風害 林業 もめ

2019年01月25日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 2018年の台風・・・。

 今も風倒木処理に追われている地域もあるかと思います。

 僕自身も、近所の方に「薪にしてエエで。」と・・・、裏を読めば「伐っといて。」ってことなんですが・・・。

 とにかく風倒木処理はおっかないので、出来ないモノのには手を出さないようにしています。

 

 と言うわけで、今回は風による林業被害「もめ」について。

 
 林業を営む上で、気象による自然災害、特に台風や豪雨の発生は、ホントに嫌なものです。
 台風が進行する中、現場の様子を思い浮かべながら、早く治まることを願わずにはいられません。
 木材を何十年と育てる林業にとって、風をはじめとする気象害は、避けては通れないものですが・・・。
 
 
 林業現場において、風による被害と言えば「もめ」。
 樹木が瞬間的に強くねじられたり、強く曲げられたりすると、木材の繊維が細かく断裂することを「もめ」と言います。
 もめは、部分的に発生することもあれば、幹全体に及ぶ場合もあります。
 
 盛り上がった部分が、断裂された箇所です。
 
 幹全体に及んでいると、いくつもの凸凹の盛り上がりができます。
 
 断裂された部分は損傷した部分なので、樹木はその傷を修復しますが、表面の凸凹は残ります。
 年月が経てば、表面上の変化は分かりにくくなるかもしれませんが、材部に受けたダメージは修復されないなので、木口面にはその傷痕がハッキリと残っています。
 また、断裂された部分から腐朽菌が侵入してしまうと、材部が腐朽する可能性もあります。
 
(上の写真は断裂した部分から樹液が漏出)
 
 断裂具合にもよりますが、伐採中に、断裂部分から幹が折れることあります。
 「もめ」がひどい現場では、作業中に幹折れが発生するリスクがあると知っておくことも重要です。
 また、表面上の修復が完了していても、内部の断裂がひどければ、強風が吹いた時、伐採の時に幹が折れる場合もあります。
 風害が激しいと、上の写真の様に、年輪に沿うように材が剥離されることがあります。
 
 断裂した部分は、修復されますが、それは、表面的な修復であって、樹幹内部の断裂までは修復されません。
 なので、樹幹内部の断裂が激しいと、上記の写真のように、幹が裂けることがあります。
 
 図はシンプルに表現していますが、実際は、何か所でいくつも断裂していると思います。
 
 「もめ」は、幹が曲げられたとき、圧縮の力が働いて発生します。
 風によって、幹が左右に揺さぶられます。
 下の図で言うと、左に揺さぶられたときに圧縮されて、盛り上がります。
(圧縮されたイメージ)
 盛り上がった部分は、圧縮された部分の細胞が押しつぶされたり、切断されて生じたものです。
 風が吹いて、引っ張る力が働いて、ブチブチっと断裂したと、いうわけではありません。
 表面上、もめが発生していなくても、「ヤニ壺」や内部の材が剥離する「目回り」が発生している可能性もあります。
 
 「目回り」をイメージするとこんな感じで、赤いラインが損傷した部分になります。
 
 スギやヒノキを造林するとき、普段から風が通りやすい場所という情報も重要です。
 そういう場所に造林する場合は、長伐期施業は風害リスクが高まり、不利になる可能性が高いですし、風の影響で、あまり樹高が伸びず、材積の蓄積も望めない可能性も考えられます。
 元々、林縁部のスギやヒノキは、枝を残して、風から守る工夫もしていました。
 深根性の広葉樹を植えて、風の力を緩和するという方法もアリかなと思います。
 
 あと、個人的な考えになりますが、風の影響が受けやすい環境下では、獣害対策の単筒は、あまりオススメできません。
 高い可能性で、単筒が飛ばされたり、倒れると思います。
 
 過去の被害情報や気象情報をもとに、風の影響を受けやすい森林エリアを抽出する事が出来れば、風害リスクの高い/低いを加味した上で、どのような林業経営を目指すべきか、判断できるツールになるかもしれません。
 特に長伐期を目指す場合は、心強いツールになるなと思いますし、災害対策を視野に入れた森林整備の着手にも必要な情報だと思います。
 
 個人的な考えですが、過去の被害や気象情報を取り入れて、森林GISなどのシステムとマッチングさせ、林業経営の判断できるツールを作成できないかな~って妄想しています。
 
  って、どこかで実践してる事例ないですかね? 

枝打ち

2017年09月17日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 枝打ちは非常に高度な技術の1つで、「無節材」など優良材生産を目的に行われます。

 1つ目の写真は、枝打ちが行われた天然絞り丸太のスギ林、2つ目の写真は、四方無節の柱材。

 

 このほか、林内の光環境の改善、林分管理、病虫害の保護や予防という目的で、枝打ちを行う場合もありますが、いずれも、主目的として行うことは少ないと思います。

 いずれにしても、優良材生産を目的に枝打ちを行えば、林内の光環境の改善、林分管理、病虫害の保護・予防という効果を副次的に得ることができると思います。

 ただし、木材価格の低迷から枝打ちをかけた経費以上の収益・収入が見込めなくなったこと、木材に対する志向や住宅工法等の変化により「無節材」や「磨き丸太」などの役物の需要が減ったなどの理由から、枝打ちをされることは、ほとんどなくなりました。

 

 個人的な意見ですが、それでも枝打ちは重要な施業だと考えています。

 枝打ちは、林業の施業の中で、優良材生産に直結する重要な施業で、未熟な者が行えば、材質が低下してしまう非常に高度な技術であるため、枝打ちをする者がいなくなれば、その高度な技術が失われてしまいます。

 以前、山主さんと枝打ちの話をしたときに、「最近は、無節の木材よりも節のある木材の方が、木材らしくて好まれる。だから枝打ちは必要ない。」という話題になりました。(正しくは「生節」。「死節」を含む意味ではありません。)

 しかし、枝打ちをしなければ「生節」が出来るというわけではなく、その上、「死節」が出来るというリスクも発生します。

 枝が生きている間に、幹に巻き込まれると「生節」になり、枝が死んだ状態で幹に巻き込まれると「死節」になります。

←生節 ←死節

 死節があるということは、腐朽菌が広がって死んだ枝が巻き込まれてできる「腐れ節」や、死節の部分がすっぽりと抜け落ちて穴が開く「抜け節」というさらに質を下げるリスクも高まります。

←腐れ節 ←右:抜け節(左:生節)

 この「腐れ節」や「抜け節」は、製材所など川下にとても嫌われる欠点となります。

 特に床板や壁板など内装材の場合、腐れ節や抜け節を「埋め木」という材料を使って、この欠点をなくす作業・工程が増えます。

←埋め木。大小様々な抜け節に対応できるようサイズは色々。結構、高い。

←埋め木のサイズに合わせて穴を空ける。

←埋め木された壁板。

←パテで穴を埋める場合も。

 枝打ちされた木材であれば、このような作業を省略することができます。

 逆に、枝打ちが実施されていない林分や死節が多い木材では、こうした1手間、2手間が増えてしまう可能性がありますので、製材所としては、枝打ちされた木材が欲しいはず・・・。

 合板や集成材も同様です。

 表面に穴が開いている合板や集成材を見かけることもありますが、住宅用など人目につく場所で使われる場合は、一番外側(表面)には節の無い部分を持ってくるなど、ここでも選別や仕分けなどの1手間、2手間が増えます。

 枝打ちにかけた経費に見合う金額で購入されるか、否かは別の話として、木材製品を製造する者としては、枝打ちされた木材は製造の余計な手間の省略と、それに係るコストを縮減できると考えられるため、優先的に購入したい木材のはずです。

 

 購入する相手のニーズに合わせた商品を作ることは、商売の基本であると思っています。

 単に「無節材の需要が少ない」、「生節が望まれる」、「割に合わない」といった生産者側の都合で、枝打ちを実施しないと判断するのではなく、製造する者・購入者のことを考えて、枝打ちの実施を判断すべきではないかと思います。

 それと「生節」が好まれるという場合も、枝打ちは必要だと思います。

 次の写真は、板の表と裏をスキャニングしたものです。

 1枚目が表、2枚目が裏です。

 

 右側の節は、表も裏も「抜け節」で、穴の周りには樹皮が残っています。

 枯れた枝の木部が抜け落ちて、樹皮だけが残ったようです。

 左側の節は、表は生節ですが、裏を見ると「死節」です。

 枝打ちをしていれば、両面とも生節になっていた可能性も考えられます。

 きっと、スキャンした板の表の時点では生節でも、その先は死節になり、腐れ節や抜け節が存在していたかもしれません。

 ヒノキのように、枯れた枝が自然に落ちない場合、その間は幹に巻き込まれ、どんどん死節が蓄積されることになります。

 やがて、枯れた枝に腐朽菌が蔓延しすると、腐朽菌が周り、普及した枝が幹に巻き込まれると、そこから病害が発生するリスクが高まり、製材した時に腐れ節や抜け節の原因にもなります。

 下の図に示したように、枝打ちをしないと枯れ枝が残り、やがて腐朽菌が周り、幹の中に巻き込まれ、「死節」・「腐れ節」・「抜け節」という欠点にはります。

 逆に、枝打ちをすれば、枯れ枝は発生せず、腐朽菌に侵されるリスクも病害が発生するリスクも大幅に低下します。

 

 さらに、枯れ枝を放置すると、スギノアカネトラカミキリが産卵し、「アリクイ材」・「アカネ材」といった被害材を生み出すリスクも高まります。

 

 枝打ちにかけた経費に見合う価格で取引されていなくても、枝打ちされていない木材よりも枝打ちされた木材の単価の方がやはり高いです。

 ただ、近年の市場は、競争性が下がっているため、なかなか単価が上がりません。

 その上、需要に対して供給も多い気味なので、なおさら単価は上がりません。

 木材単価は崩れていますが、今の単価が悪いから枝打ちをしないのではなく、やはり、買い手が求める木材を考えたとき、枝打ちは必要ではないかと。

 枝打ちの経費以上の収入が見込めない状況にある以上、昔の無節材など優良材生産を目的とした枝打ちではなく、欠点の少ない木材や製材の手間とコスト縮減につながる木材の生産を目的とした枝打ちや枝打ちのコスト縮減を検討すべきかと。

 例えば、初回間伐後に枝打ちを行う、将来的に残す木を対象に枝打ちを行うなど。

 また、アカネ材などの被害を生み出す、スギノアカネトラカミキリは枯れて2年以降の枯れ枝に産卵するので、枯れ枝であれば、2年以内に枝打ちを行えば、アカネ材の発生を防げますし、腐れ節や抜け節も防げ、生節と大差ない死節になります。

 昔の優良材生産目的ではなく、製材時に欠点が少ない木材生産を目的に適した枝打ちの検証・検討が必要ではないかと思います。

 植栽が密植であれば、下枝が早く枯れ始めるので早い時期から枝打ちが必要になりますが、植栽が疎植であれば、下枝の枯れ始めも遅くなると思います。

 1回目の間伐後に行う枝打ち、将来木のみを対象にした枝打ち、下枝が枯れて2年以内に行う枝打ち(同時期に生きた枝も枝打ちしておく)といった従来よりもコストを抑えた枝打ちの検証が必要ではないかと思います。

 それでも難しいと思いますが、異常なまでに低下し続ける木材単価を盛り返すには、欠点が少ない木材を生産していかないと、このままズルズルと、いってしまいそうな気がします。

 「鶏が先か、卵が先か」みたいな話になりますが、欠点がない木材であれば価格交渉できる可能性はありますが、欠点がある木材では、価格交渉は難しいと思います。(もちろん、需要と供給のバランスも考慮しないといけませんが。)

 僕は山主でもなければ、林業経営者でもありませんし、製材する人間でもありませんが、林業という商売を客観的に見たら、今の時代にあった枝打ちの検討・検証は、必要であると思います。

 今後の木材や建築物が、CLTやLVLなどを中心にしていくのであれば、枝打ちの必要性は低いのでしょうが、木材単価を考えると、やはり無垢材なので、枝打ちは無視できない施業ではないかと思っています。 

 

 

 ちなみに、枝打ちした部分は木口できちんと見せて、枝打ちした材であることのPRが必要です。

 


林業振興 地域振興

2017年07月18日 | 森林管理・森林空間・森林整備のお話

 森林・林業関係に携わる者として、地域振興も念頭に、切り離さず考えないといけないと思っています。

 とはいえ、地域振興は簡単に成功するものではありませんし、やっぱり難しい。

 しかし、近年は、成功した地域振興の事例紹介や講演会など学べる機会も増え、重要な共通点というものも見えてきています。

 

 個人的に重要視しているものとして、「地域のお金は地域で回す。」

 単純に言えば、地域外にお金がどんどん流れると地域は衰退し、地域内でお金をどんどん回して、地域外からお金を得ると地域は振興する。

 地域で生産したものを地域で消費する=地産地消

 地域で生産したものを地域外で消費する=地産外消

 さらに、商品を生産する際に消費する物も地域の物を使うということも重要で、

 地域で消費するものは地域で生産したものを使う=地消地産

 

 例えば、野菜1つ生産するにしても、種、苗、肥料は地域のものを使う。

 この場合、大手のホームセンターで購入するのではなく、地元で生産されて、地元で販売しているお店で、となります。

 僕自身、まだまだ勉強中ですが、1つの商品を生産するために消費する物も、なるべく地域内で賄い、生産した商品は地域外で消費または地域外の人を招き、地域内で消費する、というシステムが地域振興を成功させる1つのポイントではないでしょうか。

 

 地域振興について、成功事例や講演会などで、色々勉強しながら、色々考えていると、ふと「林業の振興は、本当に地域振興に繋がるのか」と改めて考えるようになりました。

 少し極端な例かもしれませんが、図を使いながら説明を。

 A村に森林を所有するB市の山主さん。

 そこへC町の伐採業者が山主さんから立木を買いました。

 伐採業者は、伐採した立木をD町の製材所へ売りました。

 D町の製材所は、Z市に製材品を売りました。

 さて、お金の流れを見ると、A村にはお金が流れていません。

 実際にこうした取り引きもありますが、このような形で林業が振興しても、地域振興に繋がるか、「地域内でお金を回す。」という観点から見ると、疑問を感じます。

 で、この場合、問題は山主・伐採業者・製材所が地域外であることになるかと。

 山主もA村の人で、伐採業者も製材所もA村なら、地域内でお金が回っています。

 そして、地域の最終出口である製材所が、Z市に製材品を売れば、地域とすれば、プラス収支。

 岡山県西粟倉村の「西粟倉森の学校」が取り組んでいるイメージ・・・といえば、分かりやすいかなと思います。

 

 極端な例かもしれませんが、地域におけるお金の流れを見ながら考えると、必ずしも、林業振興=地域振興とは単純に言えないのでは?、という考え方もできるのではないでしょうか。

 

 仮に伐採業者がA村の業者であっても、従業員がC町に住んでいれば、従業員に支払われた賃金は、基本的にC町で消費されます。

 従業員がA村の住民なら、支払われた賃金がA村で使われれば、お金は地域外へ流れません。

 人件費も地域内の人に支払えば、地域外へのお金の流出は抑えられます。

 

 あと、電気代も地域外への支出の1つです。

 そこで、水力発電や木質バイオマス発電などで、電気も地域で生産すれば、地域外へのお金の流出を止められます。

 ただし、木質バイオマス発電の場合は、地域資源・収支バランス・発電規模などなど健全な経営が実現できるプランが不可欠です。

 長野県の「いいづなお山の発電所」は、稼働して早い時期(3~4年だったかな?)に黒字経営へと転換し、2号機は銀行の融資(補助金なし)により稼働したと聞いています(いずれも発電規模は2000kw未満)。

 こうした発電所が地域にあれば、電気代は地域で賄え、かつお金が地域外に流れていかないシステムが構築できるかもしれません。

 もちろん、発電用材の価格が適正であることは必須になります。

 

 最近は、農業法人として成功したビジネスの事例も紹介されています。

 こうした社長さんの中には、生産者が生産できなくなれば、ビジネスが成立しなくなるので、「生産者価格を守る」という共通点が多々見られます。

 さて、林業はどうでしょうか・・・。

 

 また、ヨーロッパでは「自国の食糧とエネルギーは自国で賄う」という考えがあるそうです。

 そして、グローバルとローカルが合わさった造語「グローカル(地球規模の視野で考え、地域視点で行動する)」という考え方も広がっているようです。

 ざっくり言うと、地域で生産したものを単に地域や国内で消費するだけでなく、海外への輸出も進めていくような・・・。

 脱線してきましたので、無理矢理、話を戻します。

 

 先ほどの図で示したような林業では、地域振興が進むのか、疑問を感じます。

 しかし、山主も伐採業者も製材所も同一地域内で、お金の流れを地域内で回すことができれば、地域振興に繋がる可能性が出てきます。

 地域外の山主が地域内の山主に変わるだけで、立木代というお金を地域内に回すことができると思います。

 林業振興と地域振興を考えたとき、近年、全国に広がりを見せている自伐型林業は、やはり無視できません。

 自伐型林業に取り組んでいる方が、実際に山主になっているか、否かわかりませんが、自伐型林業を中心に、お金の流れを地域内で回すシステムを作り出せば、地域振興に繋がっていく可能性は十分にあるのではないか、と考えています。

 でも、自伐型林業に取り組んでいる方が、山主になっていたら、それは「林家」になるので、自伐型林業をきっかけに「林家」を増やす・・・ということになるのかもしれません。

 あくまで、これは1つの考え方です。

 もちろん、大規模山主と大規模製材所が地域内に存在すれば、地域内で雇用も生まれますし、地域外に製材品を販売すれば、地域振興に繋がりますし。

 

 長々と、ごちゃごちゃ書き綴りましたが、今回、お伝えしたかったのは、

 地域振興は、地域内でお金が回る仕組みと地域内外で販売できる流通の構築が必要ではないか。

 林業振興は地域振興に繋がると言われていますが、実際にお金の流れを追いかけると、決して、そうとは言い切れない部分もあるのではないか。

 

 明確な答えというものはなく、それぞれの地域が有する強みを生かし、林業という1つの産業で地域を振興したり、地域全体で複数の産業を1つにまとめて地域を振興したりと、まさに十人十色で、1つのことに固執せず、柔軟な発想をもって、計画を立て、実践することが求められるのではないかな~と思います。

 現状で止められないことはありますが、変えられることは何か、そして、前向きにできることは何か。

 林業振興が地域振興に繋がると、単純に考えてはいけないと思う、今日この頃です。