東京で働くその人は、
大晦日になると必ず実家の関西に帰った。
老いた両親のために年越しそばを作るためである。
そば打ちが趣味だったのだ。
仕事がら年末は忙しく、大晦日に帰るのは大変だったが、
それでも両親のためだと思い、この数年、なんとか無理して帰っていた。
昨年もなんとか実家に戻り、年越しそばを作った。
「どう?」
年越しそばを食べる父親に尋ねると、
「・・・マズい」
え。
「前から言おう言おうと思っていたんやけどな、
お前のそば、マズいねん!」
なぜ、このタイミングで言う?
ぞうやら両親は、ずっとマズいと思いながらも、我が子が作ってくれるからと、我慢して食べていたようだ。
まるで、O・ヘンリーのような話である。