山手線の車中、
食事帰りと思しき男女の会話が聴こえてきた。
男:鹿の肉と蛙の肉は似てたね。
え?
男:動きが似てるからかな、
筋肉のつきかたとか。
え?
女:そうだね。
え?
お前ら、何の肉を食ってきたんだ?
最近聞いた、好きな話。
最期の時を迎えた男性の口から出たのは、
家族も初めて聞く女の名前だった。
付き添っていた妻や子どもたちは大騒ぎ。
後にわかったことだがそれは、
その男性が少年の頃の映画のヒロインの名前だった。
おそらく彼の初恋の人だったんだろうなあ。
家人(小)は、
中学生になるまで、
ほぼ自分の部屋で寝ることはなく、
リビングのソファで寝ていた。
事情を詳しく説明すると長くなるが、
ひと言で言うと奥まった自室で寝るのが「怖かった」のだ。
ちょうどその頃、
リタ(ミニチュアシュナウザー)を夜間、
ケージに入れるのが面倒になり、
終日、野放しにしておくようになった。
すると、家人(小)と一緒にソファで寝るようになった。
その姿は、ネロ少年とパトラッシュのようでもあり、
まだ幼さの残る家人(小)を護る母犬のようにも見えた。
それから時が過ぎ。
さすがに家人(小)も自分の部屋で寝るようになったが、
それでもしばしばソファで寝落ちする。
リタは普段、家人(大)のベッドで寝ている。
しかし家人(小)がソファで寝落ちした時だけは、
昔のようにピタリと寄り添って寝る。
朝までずっと。
リタの中では今も、
家人(小)は小さい頃のままなのかもしれない。
夜中にソファで寝ている一人と一匹の姿を見ると、
懐かしいような切ないような、不思議な気持ちになるのだ。