知り合いの紹介で、
近所の美容室に初めて行った。
住宅街の真ん中にひっそりとあるその店の存在は、
以前から気になっていた。
髪を切ってもらいながら話を聞くと、
店をオープンしたのは2年前だという。
しかしその前からも同じ場所に美容室はあった。
当時は違う人がオーナーだったそうだ。
今年で70歳になる女性が長年そこで美容室をやっていたが、
引退することになり店を手放したのだという。
ここまではよくある話だ。
だがちょっと変わっているのはその先だ。
「今でも週3回、先生は店に出てるんですよ」
元オーナーの女性が、
今度は従業員として店に出ているのだという。
長年、美容室をやっていれば、
彼女の客というのが何人もいる。
中高年の客たちにとって、
長年つきあってきた美容師を変えるというのは、
できることならしたくないことだろう。
そこで現オーナーの提案で、
客からの指名予約が入った時だけ、
店に出ることになったのだそうだ。
それがだいたい週3回。
この現オーナー、
3月から駅前に2店舗目を出すのだが、
そこも十数年やっていた美容室を居抜きで借りるという。
元オーナーは美容師を廃業するつもりだったが、
1店舗目の時と同じような提案をし、
客たちの勧めもあって、
引き続き週何回か店に出るようになるそうだ。
その店に通っていた常連たちにしてみれば、
なんともうれしい配慮だ。
経堂という街のサイズだからこそできる、
”やさしい”ビジネスモデルである。