「五千円、落ちてませんでしたか?」
中年の女性が店に入ってくるなり、そう尋ねた。
どうやら先ほどまで二階の座敷にいた客のようで、
店員が確認しにいった。
しかし、五千円は落ちていなかった。
「そうですか」
ちょっとがっかりしたような声でそう言うと、
その女性は帰っていった。
10分後。
若い男女がやってきて尋ねた。
「五千円、落ちていませんでしたか?」
落ちていなかったと答えると、
2人はそのまま帰って行った。
「あの女の子、さっきの女の人と一緒に来てた子ですよ。
でも、あの男の方はいなかったなあ」
と店の人。
つまり、
わざわざ知り合いの男性を連れて、
五千円が落ちていなかった再確認しに来たのだ。
なぜ?
「盗ったんじゃないかって疑っているんですかねえ」
と、店の人。
真相はわからないが、
なんとも奇妙な酒場での出来事だった。