知人の目撃談。
ある駅の改札付近でバイト仲間の女性を見かけた。
婦人警官に腕をつかまれている。
その傍らには中年男性がおり、
もう一人の警官に激昂した感じで何かを訴えている。
何らかのトラブルが起きているようだ。
巻き込まれては面倒だと、
知人はすぐさまその場を立ち去った。
後日、そのバイト仲間と顔をあわせる機会があり、
話の流れで、実はあの時の様子を目撃したという話になった。
「えー、あれ見られてたの」
と照れるバイト仲間の口から語られたのは予想外の内容だった。
その日、移動中の電車の中で体調が悪くなった彼女。
その時、隣にいたのが例の中年男性だった。
彼女に行き先を訪ね、自分も同じ方向だからと付き添い、
わざわざ一緒に降りてくれたのだという。
しかし彼女の体調は悪くなる一方。
たまたま駅前に、おそらくサミットのためだと思うが警官がいたので、
事情を話し、救急車の手配をしてもらったのだという。
つまり知人が目撃した、「婦人警官に腕を掴まれていた」のは、
「捕まった」のではなく「体を支えられていた」だけ。
「中年男性が激昂して何かを訴えていた」のは、
「早く救急車を呼んでくれと訴えていた」だけだった。
遠くから見た時は事件の予感がしたが、
いざ近くによってみるとそれは善意の出来事だったのだ。