それは
黒い海岸松の枝をぬって
海鳴りとともにやってきた
おんなは傍らで眠っている
見つけるためにやってきた
海の見える高台
またひとつ
塩辛い哀しみを拾ってしまうとは
おんなが寝返りうって
薄眼を向けたとき
それは
窓ガラスの隙間から忍び入ってきた
壁のくらがりに
ぼんやり白い影がゆれて
微かに沈香がにおう
(抽斗に残っていたもんぺの匂い)
もう五十年も経ったというのに
ときどきこうしてやってきては
ぼくを見つめている
筒井筒の小面のように蒼白く
さびしい口もと
何か言ったようだが
その声は言葉にならないまま
海鳴りの底に沈んでいった
はるかとおくの岬
ひとつの灯が滲んで
沖の闇が赤く染められている
黒い海岸松の枝をぬって
海鳴りとともにやってきた
おんなは傍らで眠っている
見つけるためにやってきた
海の見える高台
またひとつ
塩辛い哀しみを拾ってしまうとは
おんなが寝返りうって
薄眼を向けたとき
それは
窓ガラスの隙間から忍び入ってきた
壁のくらがりに
ぼんやり白い影がゆれて
微かに沈香がにおう
(抽斗に残っていたもんぺの匂い)
もう五十年も経ったというのに
ときどきこうしてやってきては
ぼくを見つめている
筒井筒の小面のように蒼白く
さびしい口もと
何か言ったようだが
その声は言葉にならないまま
海鳴りの底に沈んでいった
はるかとおくの岬
ひとつの灯が滲んで
沖の闇が赤く染められている