ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

海鳴り

2005-06-25 23:30:12 | 
それは
黒い海岸松の枝をぬって
海鳴りとともにやってきた

おんなは傍らで眠っている

見つけるためにやってきた
海の見える高台
またひとつ
塩辛い哀しみを拾ってしまうとは

おんなが寝返りうって
薄眼を向けたとき
それは
窓ガラスの隙間から忍び入ってきた

壁のくらがりに
ぼんやり白い影がゆれて
微かに沈香がにおう
(抽斗に残っていたもんぺの匂い)

もう五十年も経ったというのに
ときどきこうしてやってきては
ぼくを見つめている

筒井筒の小面のように蒼白く
さびしい口もと

何か言ったようだが
その声は言葉にならないまま
海鳴りの底に沈んでいった
はるかとおくの岬
ひとつの灯が滲んで
沖の闇が赤く染められている



そらの果て

2005-06-25 19:32:23 | 
そらの向こうには
そらがあります
そのそらの向こうにも
そらがあります
渦巻きながら
そらがそらを呑み込み
炸裂しては
そらがそらを産み
漆黒のそら
輝きのそら
悲しみのそら
歓びのそら
怒りのそら
沈黙のそら
ずっとずっと
そらは
つづいているようでした
こんぺいとうの川では
小さな汽車とすれちがい
それから
へんてこな子と
たいせつの涙をさがして
氷の星に
寄り道もしました
いくつもの虹をわたり
いくつもの神々に出会い
そうしてまた永い虚無を
どんどんどんどん
進んでいく

かなたに
覚えのあるそらが
拡がってきて
さっき
ぼくが歩きだした紺碧の
そらに
辿り着きました
そこでは
化石となった
ぼくの足うらを
見つけました