はじめてのヒグラシが向かいの西山で鳴いた。
わずか二声、三声ほど鳴いて
そのあとは深い沈黙。
雨模様の中を様子伺いに出てきたものだろう。
地表近くまで這い上ってきて
( まだか、まだか ) と、ひしめき
あがいているセミたちの姿が眼に浮ぶ。
暗い土中での七年と泣きとおすだけの七日と
セミにはどっちが現世だろうか。
ほんとうに幸せなのはどっちの世界だろうか。
あの泣き腫らした眼を見るにつけ、そう思う。
ぼくは明け方に鳴くヒグラシが好き。
かそけきその声にはこころが清められようだ。
( ひぐらしはカナシ、カナシと鳴くんだよ )
明日の朝は、
足尾のカジカ浄土を訪ねることになっている。
( あした天気になーれ )
ひぐらしの声この世ともあの世とも やす