ベンベエの詩的つぶやき

世の中をちょっと斜めに見て・・・

      いのちの意味

2005-07-03 15:14:20 | 

          始祖の代から百万年

          じっと見つめてきた

          みずのみなもと

          ブナの精の沁み込んだ

          清らかで強いみず

          ザザムシを殖やし

          鳥と魚と人を育み

          地上をおおういのちのドラマ

          ここが始まりであることも

          流れの先のにぎわいのことも

          なにもしらない

          生まれついたそのときから

          始祖の姿そのままで

          ここにいる

          なにもしない

          なにも思わない

          若葉をこぼれおちる

          ひかりの陰で

          あるいは

          ぬるでの朱色に染められて

          ずっと

          みずを見つめている

          そのこと

          それがサンショウウオの

           いのちの意味

 


水撒き

2005-07-02 00:29:35 | 
          父は往来に水を撒いていました

          女学生の母は小走りに

          道の端を通り過ぎました

          それから間もなく僕が生まれました

          僕は水撒きが大好きです

          上手に虹をつくることもできます

          眩しくしぶく向こう側を

          女学生が

          駈けぬけていくような気がして

          高くおおきく水を撒きます


上昇する夕べ

2005-07-02 00:06:21 | 
          ほのかに

          外の空気が

          橙色を帯びてきて

          台所では

          鰈の煮つけが匂っている

          オーボエもいい

          チェンバロもいい

          やわらかな風のように

          ラジオからの音色は

          しぼんだ心を脹らませ

          鐘の鳴りわたる緑の谷間を

          炊煙たなびく田園を

          赤と白の軌跡を残し

          ぼくの気球は上昇する

          手をふる妻よ
 
          妹よ

          さびしい友よ

          小さな故郷よ

          さようなら

          ぼくはもう雲の中だ


おどろき

2005-07-01 23:46:10 | 
          沢山の言葉を見るたびにさびしくなる
          沢山のウンチクを聞くたびに哀しくなる
          〈まるで食べ放題のバイキング料理〉
          そのたびにぼくは
          失語症にもどってしまう

          「メルシー・ムシュー!」
          振りかえると
          黄色いタクシーが走り去っていく

          マロニエが黒い骨を晒し
          ぼんやりと昼を灯す宿の看板
          切なくただようジターンの香り
          憂うつなエトランゼを驚かせた
          やわらかな風
          「メルシー・ムシュー」
 
          なんだか嬉しくて
          ぴんと背すじを張って
          パリジャンの賑わいの中へ混じっていった

          「メルシー・ムシュー」
 
          言葉の嵐の中で
          一滴の目薬のようなおどろき
          さざなみが立ち
          ひかりの輪がはしり
          ぼくからあなたへ
          あなたから遠くのあなたへ
          暗い海が温かく灯される
 
 


あしたてんきになあれ

2005-07-01 13:53:40 | 
          はっと足が止まった
          神楽坂の路地の奥から
          かわいい声
           「あしたてんきになあれ」
 
          こんなやわらかなことばが
          残っていたなんて・・・
          立ち止まったまま
          路地の奥にこころを向ける
 
          三色の看板がまわっている
          自転車が立てかけてある
          プランターに赤い花がゆれ
          微かに揚げ物のにおいがする

          昨日も一昨日も
          荒々しい声と
          暗いことばにからまれて
          あしたの光りが見えてこない
 
          倦怠を曳きずり
          喧騒の中
          上ってきた坂道だったが
          まるで雨上がりのように
          あたりが煌めきはじめた
          風も 雲も 駅も 本屋も
          八百屋もブテックもみんな華やいで
          向うから宅配の青年が笑いかけてくる
          昼のサイレンが
          第二部幕開けのようなファンファーレ

           〈あしたてんきになあれ〉
          坂の上を見やりながら
          そっと呟いてみる