2021/06/11
先日、林真理子さんの『小説8050』を読んだことから、8050問題についてもう少し知りたくて、精神科医・斎藤環氏の『中高年ひきこもり』を読んでみました。
斎藤氏は1998年に『社会的ひきこもり 終わらない思春期』(PHP新書)を出版しました。これをきっかけに、「ひきこもり」という言葉が、社会的に認知されることになったのです。その頃、私は斎藤氏の本を何冊か読みました。
親に子どもを養えるだけの経済力があるなら、そのまま養ってあげればいい、無理に就労させるべきでない、という言葉が印象に残っていました。
テレビで、暴力的なやり方で連れ出し、施設に入れることを賛美するような番組をやっていた時期でした。
2019年3月に内閣府の発表によると、自宅に半年以上閉じこもっている「ひきこもり」の40~64歳が、全国で推計61万3千人いるとのことです。
7年以上ひきこもっている人が約5割で、「30年以上」も6%います。
半分の人が7年以上とは驚くべき数字ですね。一度ひきこもったら、なかなか出られないということを示しているのでしょうか。
本書の所々を抜き書き、引用させていただきます。
「 心理学者のジョン・T・カシオポらは、孤独がいかに人の心身に有害なものであるかを詳しく検証しています。(『孤独の科学』河出書房新社)強い孤独感の中にいる人は、幸福度が低く、集中力や判断力が損なわれやすく、社会的な成功からも遠ざかりやすい。生活習慣病やうつ状態のリスクも高まるとされている。」(p.49)
「ひきこもり当事者のほぼ全員が自分が嫌いと訴える。自らの人生に、価値や意味を見出せないからです。プライドは高いが自信がない。理想とかけ離れてしまった自分を批判することによってプライドを担保する。このような自己批判の形をとった自己愛を、〈自傷的自己愛〉と呼んでいる。」(P.50)
ひきこもりに多く見られる対人恐怖は、自分が他人によくない印象を与える と思い込んでいることが多い。いじめの後遺症である場合もある。
「いじめがトラウマになり、その後の健康や社会生活にも重大な影響を与えるということは、2014年、精神科医の滝沢龍さんが中心となった研究で明らかになりました。イギリスで7歳から11歳までのあいだにいじめを体験した約8000人に対して追跡調査を行ったもので、いじめの被害を受けなかった群にくらべて、うつ病、自殺などのリスクが2倍以上になっていました。
また、社交関係の欠如や経済的な問題など、いじめを受けたあと、40年を経た時点での生活満足度・生活水準の低さにいじめ被害が関連していることも明らかになっています。」(P.81)
子ども時代のいじめが40年もの長きにわたり、精神を蝕み、生活水準を下げているとは、なんといじめの影響は重大なことでしょう。
対応について。
まわりの人は、ひきこもりの彼らを「たまたま困難な状況にあるまともな人」と見るようにすること。そういう姿勢で向き合い続けること。とにかく安心してひきこもれる環境を作ることが大切です。
ひきこもりは病名ではない。「ニュートラルな状態である」と定義します。
誰も苦しんだり困ったりしていなければ放置してよいのです。休養のためにひきこもりが必要な場合もあるのです。
ひきこもりのゴールは、就学、就労と考えがちだが、本人が自信を持つことができればそれがゴールだと考える。
現実的な8050問題に関わることとして、ファイナンシャル・プランナー畠中雅子さんのライフプランが紹介されています。
親の亡くなった後の人生設計の考え方が示されています。
「我々の老後の生活を考えると、あなたを扶養していけるのはあとX年が限界だ。それ以降は障害者基礎年金か生活保護を受給しつつ別々の暮らしをしていこう」と宣言する。
経済的にゆとりがあるとわかると本人が安心してしまって働く気がなくなってしまうという心配はない。経済事情を明かしてくれて、当分は心配ないことがわかったので、安心して働こうという気になったと言った当事者もいた。
就労意欲の基礎となるのは、経済的な安全保障感なのだ。
「親としてはここまでできる」、「その後は自分たちはこう生きる」と本人に伝えること。
親が老人ホームに入る時は、生前贈与して、世帯分離する。貯金がなくなる頃、子は生活保護を受ける。(P.142)
たいていは親が保険料を払ってくれているので、本人は年金を受給する資格があるのだが、本人ひとりでは手続きが難しい。罪悪感もある。
必要とあらば、年金も生活保護も受給できる資格があることをしっかり認識してもらい、どういう手続きをすればいいのか確認しておいた方がいい。
斎藤環・畠中雅子さんの共著です。
ひきこもりの状態であっても、なんとか心安らかに暮らしていけることを目指すほうが現実的であり、家族間のストレスやトラブルも少ないというものです。
ひきこもりを抜け出すには、家族以外の第3者の関与が欠かせません。
家族内の承認も大切ですが、友人、恋人など他人に承認されることの意味はとても大きいのです。
「ひきこもることが普通である社会を目指すべき」という、斎藤氏の言葉は、長年の臨床経験から出た重い言葉だと思います。
多様性を認める。いろいろな人がいていい。
本人や家族が困っていない状態なら、それでいいじゃないかということでしょうか。
他にも暴力のある場合、精神疾患のある場合、ニートとの違いなどについても書かれています。
ひきこもり当事者や家族には、心が軽くなる本だと思います。