忘れ草とは、古来よりこの花の美しさを見ると憂いを忘れるといわれ、万葉集にも5首詠まれています。
忘れ草我が下紐に付けたれど醜の醜草言にしありけり 大友家持(万葉集)
(恋を忘れられるというから下着の紐に着けたけれど、醜草(しこぐさ)の役立たず、名前だけのもので、あなたのことを忘れられません)
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この忘れ草は、ユリ科ワスレグサ属の野草でよく目にするノカンゾウとヤブカンゾウのことです。どちらも一日花で(まれに翌日まで咲く個体もあるようですが)よく似た仲間です。
生育環境も似ているので、たまたま千波湖畔の桜川沿いに仲良く咲いているのを見つけました。
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一重咲きがノカンゾウ(野萱草)です。
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どちらのカンゾウも春の若芽だけではなく、初夏の若い茎、つぼみ、花のお浸し、酢の物、てんぷらなどクセがなく美味とされますが、山菜好きの仙人もまだ食したことはありません。
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ヤブカンゾウ(藪萱草)は八重咲きです。
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蕊の見えないヤブカンゾウ
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この八重のヤブカンゾウを見ると、雄蕊、雌蕊が見えないもの、また花弁に変わりつつあるものが見えます。カンゾウ(萱草)類は結実できない三倍体植物なので、不要な雄蕊、雌蕊が花弁に変わりつつあるのでしょうか。
雄蕊が花弁に変わる現象は、偕楽園や弘道館の梅花でもよく見られます。
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こちらは「旗弁」と呼ばれています。本来はマメ科などの蝶形花でよく見られる、上方にある大きな1枚の花びらを旗弁といい、旗を立てたような形が昆虫を呼び寄せる役目をするといわれます。
梅花の旗弁化の原因はよくわかりませんが、この旗弁が増えていって八重咲きになったといわれており、同じ現象は桜や椿でも見られます。
なお同じ仲間には、黄色い花が横向きに咲き、初夏の戦場ヶ原や尾瀬湿原を彩るニッコウキスゲや、品種改良され、いろんな色の園芸種ヘメロカリスがあります。
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ニッコウキスゲ
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ヘメロカリス
(ニッコウキスゲのストック写真が見つからなかったので、日光市のホームページより拝借させていただきました。)
生れ代るも物憂からましわすれ草 夏目漱石
萱草や昨日の花の枯れ添へる 松本たかし
今日をうたえ藪萱草の百の舌 豊口葉子
忘草風がおもねるとき散れり 粕谷南城