住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
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四国遍路行記-24

2011年01月17日 18時58分42秒 | 四国歩き遍路行記
挨拶を済ませ、一晩お世話になった岩屋寺の石段を下る。次の46番浄瑠璃寺までは22キロ。川沿いに国民宿舎古岩屋荘の前を通り、途中昨日通った道を逆にたどる。山道に入り三坂峠を越え下った辺りに網掛石と言われる大きな石に出会った。弘法大師が巡錫の折、網をかぶせて棒で動かしたと言い伝えられ、網状の模様がある。小さなお堂があり番外札所となっていた。

里に出て車道を歩く。途中長珍屋という旅館の看板が目に入る。歩き始めてどのくらいの頃に聞いたのだったろうか。この旅館は歩き遍路さんをただで泊めてくれるというので、その名前は歩き遍路たちには有名だった。一度宿賃を受け取った後、お接待ですと返して下さるのだとか。まだ夕刻には間がある。すぐ先の石垣に囲まれた浄瑠璃寺に札を打つ。

浄瑠璃寺は、和銅元年(708)、行基菩薩がこの地を訪れ、薬師如来、日光月光菩薩、十二神将を刻んで安置したのが始まりという。その後一時荒廃していたというが、弘法大師が訪れ伽藍を修復。室町期には荏原城主が霊験を得て土地を寄進するなど寺観を調えたが、江戸・元禄時代に山火事が類焼し全焼。その後復興の目途がたたなかったところ、庄屋出身の堯音上人が本堂を再建。さらに橋を造るなど社会事業にも尽力したという。

境内には本堂前の見事な老木のほか樹木が所狭しと植えられ、お釈迦様の足の裏を刻んだ仏足石や平たい大きな説法石などが置かれている。木々に囲まれた参道を通り抜け、唐破風の庇が正面に突き出た本堂にたどり着く。本尊薬師如来。お薬師様ということもあってか、霊水で入れたお茶のお接待がありがたい。喉を潤して理趣経一巻。大師堂は、本堂右手に進み心経一巻。狭いがいろいろな見所のある境内を後にして、先を急ぐ。

細い水路が横に流れる道を進む。小さな神社があり、また建設中の家を眺めつつ歩く。次の47番八坂寺は一キロも離れていない。すぐだと思うせいか、なかなか到着しない。民家が軒を連ねた一本道に出る。そこを進むと石段の先に八坂寺が姿を現した。創建は大同元年(701)、文武天皇の勅願寺として伽藍を造る際に八カ所の坂を切り開いたので八坂寺という。

本尊は恵心僧都源信作と伝わる阿弥陀如来。国の重要文化財。鎌倉から室町時代には修験道の根本道場として知られ、僧兵も擁し末寺48か寺と栄えたが、戦国時代の兵火で伽藍を消失し現在に至っている。ちなみに岩屋寺も浄瑠璃寺も真言宗豊山派に属しているが、ここ八坂寺は修験道のお寺ということもあり、真言宗醍醐派である。

本堂の隣に小さな建物があり、中を覗くと、八大地獄絵図が描かれている。恵心僧都が、極楽往生の手引きとして平安中期に著した『往生要集』で、最も詳細に認めた地獄の描写をここにビジュアルで表現されている。現代は漫然と、死んだらみんな極楽に行くと考えがちだが、昔は悪いことをしていたら地獄に落ちるのだと考えた、だからこそ極楽へ行きたいと人々は願い念仏を唱えた。

現世の浮き世話に熱中するあまり、誰も真剣に死後を憂えることもなくなれば、世の中は悪人が大手を振って歩く世になる。そんなことにならないように昔は地獄絵を絵解きしたのであろう。逆に言えば地獄を説かなくなった現代は悪人が跋扈している世なのだとも言えようか。そんな良き時代の名残であろうかと考えつつ眺めた。

ここでも錫を置くには、まだ早い。来た道を戻り、国道を北に歩く。48番西林寺までは、4.5キロ。車の多い時間帯だったのだろう、数珠つなぎに車がひしめく。こちらはそれを眺めつつ、のんきな歩みを進める。途中別格霊場のひとつ文殊院がある。遍路の元祖ともいわれる衛門三郎の私邸があったところでもあり、また菩提所でもある。

大きな重信川にかかる久谷大橋を渡ってしばらく進むと西林寺の山門が姿を現す。夕刻にさしかがっていたので、寺務所に行き一晩の宿を請う。こころよく山門入って右横の阿弥陀堂に案内された。位牌堂でもあるのか沢山の位牌が祀られている。古いお堂で、隙間だらけだが、板の間に寝袋を広げられるだけでもありがたい。早速教えられた近くのお店に行き、海苔巻きとおからを買い入れた。

この日、なぜか心休まるものを感じていた。山間から街中に入ったからであろうか。食べるもの、寝るところ、困ったときに頼れるものが多いからであろうか。田舎の山寺にでもいいところはないかなどと考えるのも、結局は都会しか知らない人間の戯言にしか過ぎないのかもしれない。そんなことを考えながら寝袋に入り込んだ。

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