アニメーターになって、初めてもらった仕事は世界名作劇場の「愛の若草物語ナンとジョー先生」の一シーンでした。
そして、めでたくも、これが見事リテイク(やり直し)第一号となりました(苦笑)
オルコット先生ゴメンナサイ。
だけど楽しい仕事だったな~♪ (生活は苦しかったけど…)
ボストンの名門出ではあるものの、父親の事業の失敗などで貧困生活を余儀なくされたオルコット。
それでも筆をとりつづけた彼女は、二十年目にしてようやく『若草物語』がヒットして日記に「借金はのこらず返済、安心して死ねる気持ち」と書き残しています。
今回ご紹介する本は、そんな『若草物語』の作者が送る、ちょっと趣きの変わった物語。
ボストンを舞台にした、ルイザ・メイ・オルコットの『昔気質の一少女』です。
ボストンの上流社交界に浮き身をやつす少女ファニーのもとに、昔気質の教育を受けた田舎娘、ポリーが遊びにやってきます。
まるで毎日お菓子ばっかり食べて暮らしているようなファニーの都会的で華やかな生活に、田舎育ちのポリーは振り回されっぱなし。
おしゃべりとファッションが幅を利かすファニーの友達とのお付き合いにも辟易してしまいます。
そんなポリーでしたが、喧騒と社交辞令の中で知らず知らずのうちに心の明りを曇らせてしまっていたファニーの家族にとっては、彼女の昔風の、そして優しい心遣いは、忘れていた家庭の幸せに光を投げかけてくれることとなるのです。
「今の女の子は、悲しいことに美しい昔気質というものを、まるで知らないようにみえる。知っていてもそれを恥じるような風潮にあるように思われる。真に女を美しくし、家庭を楽しいところにするのは、古きよき習わしであると思うのだが…」
序文でオルコットはこう書いていますが、オルコット自身、「女が結婚もせずに小説なんか書いて…」という時代の中で作家を続けていました。
しかもこの物語が書かれたのはアメリカ南北戦争後というのだから、「昔」の定義も難しい。
だけどこの”旧式な”ポリーの行動には、時代を越えた『真実』のようなものを感じます。
「取るにも足らない自分でさえも、何かよいことをすることができるかもしれない」
ファニーの父親が家に帰るたび、このバラ色の頬をした少女が小走りで向かえに出て、小さい両手を彼の大きな腕にまわすシーンは読んでいてついつい微笑んでしまいます。
カワイイ娘に、こんな出迎えを毎日してもらったら、たまんないな、父親は(笑)
ファニーはおやすみのキスも「赤ちゃんみたい」とバカにしますが、ポリーは気にしません。
一人でいることの多いおばあさまのお話を真に嬉しそうに聞くポリー。
こうしたポリーにとって「当たり前」の愛情が、生活を浪費することに忙しいファニーの一家に暖かな変化をもたらしていく様は、現代の私達にも「大切なこと」を教えてくれます。
ポリーの母親はいつも彼女にこう言い聞かせていました。
「たとえ小さい女の子でもこの広いせわしい世の中に何か力を尽くせるし、いくらでも善行をほどこせるものです」
自身、南北戦争に看護婦として志願したオルコット。
その時にかかった熱病がもとで、終生健康な体には戻れませんでしたが、衰える体力に鞭打つように小説を発表し続けていきます。
そんな中からこうした珠玉の作品達が生まれていったんですね。
この物語は南北戦争後のアメリカの人々の心を打ち、多くの要望に応えて、次の年には続編が書かれました。
舞台は六年後。ピアノ教師として自立したポリーの物語。
では続きは次回ということで。
ルイザ・メイ・オルコット 著
吉田 勝江 訳
角川文庫
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