永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(102)

2008年07月10日 | Weblog
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【明石】の巻  その(14)

 几帳の紐が琴に触れて、かすかに音をたてましたのを、すかさず源氏は、噂に聞いてばかりの琴の音さえ、惜しまれるのですか、などとさまざまにおっしゃる。

 うたのやりとりのほのかな気配は、今は伊勢に行かれた六條御息所にたいそう似ていて、源氏ははっと息をのみます。が、それは娘を厭う気持ちになるどころか、このとき、上品で気高く、みやびやかな情趣や豊かな才能を、明石の御方にお感じになったのでした。

このような根比べのようなことが、いつまでも続く筈もなく、
「かうあながちなりける契りを思すにも、浅からずあはれなり。……」
――こうして無理に結んだ契りを思われるにつけても、愛情は近くなったようでございます――

 人に知られぬようにと心がせかれますが、細々とお話なさってお帰りになります。
翌朝、源氏は忍んで後朝(きぬぎぬ)の御文を贈ります。

「あいなき御心の鬼なりや」
――一方で(源氏は)都に憚って、わけもなく良心がとがめることだ――

と、都(紫の上)に遠慮して、明石の御方にお通いになるのを遠慮なさるのを、明石の御方も、入道も、やはり思ったとおり…と嘆かれるのでした。

 二條の君(紫の上)が、どこからともなくこのことを聞かれたならば、どうであろうかと心苦しく思われるのも、源氏の紫の上への深いご愛情なのでございます。
源氏はこちらの人をご覧になるにつけても、紫の上が恋しく、しかし慰む術もないので、細々と文をお書きになります。

文の終わりに付け足すように、
「まことや、われながら心より外なるなほざりごとにて、疎まれ奉りしふしぶしを、思ひ出づるさへ胸いたきに、またあやしうものはかなき夢をこそ見侍りしか。……」
――ああそうそう、自分ながら心外な浮気ごとをしたもので、あなたに嫌われた時々の過ちを思い出してさえ胸が痛みますのに、また不思議な、はかない夢を見てしまったようでございます。(お尋ねもないのにこのように白状しますのをお察し下さい。あなたとの隔てのない心でという約束を思いあわせて)――

源氏のうた「しほしほと先づぞ泣かるるかりそめのみるめは海士(あま)のすさびなれども」
――かりそめに女と逢ったのは、ほんの出来心でしたが、それにしても先ずあなたが恋しくて泣けてくることです――

◆写真:明石の御方 風俗博物館より

ではまた。


源氏物語を読んできて(立烏帽子)

2008年07月10日 | Weblog
立烏帽子(たちえぼし)
 
 前代の略装だった圭冠(けいかん)が発展したもので、初期は黒のあしぎぬを用いて半円の布を二枚縫合した柔らかい袋状のものだった。
 後に羅や紗の生地に薄く漆(うるし)を塗って全体に張りを持たせて烏帽子が完成した。

◆参考:風俗博物館
◆絵: 装束の知識と着方より