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【明石】の巻 その(18)
明石の御方は、譬えようもないほどの萎れ方で、もともと身分の違いが根にあってのことながら、やるせなく忘れようにも形見の御衣ゆえに、ただただ涙に沈むほかはないのでした。
母君も慰めかねて
「何にかく心づくしなる事を思ひそめけむ。すべてひがひがしき人に従ひける心のおこたりぞ、という」
――どうしてこうも苦労の種となる事を思いはじめたのでしょう。みなあの一徹な人に従った私の油断のせいですよ、まったくやりきれない、といいます――
入道は
「あなかまや。思し棄つまじきことも、ものし給ふめえば、さりとも思すところあらむ。……あなゆゆしや」
――ああうるさい。思い棄てなさらない訳がおありの筈だから、何かお考えがおありだろう。(安心して、せめて薬湯でも飲みなさい。泣いたりして)まったく縁起でもない――
入道は、娘を気の毒に思うばかりに、ぼおっとして、昼の日中は寝てばかりいて、夜にはしゃんと起きていて、数珠の在処が分からなくなって、手を摺り合わせて空を仰いでいます。弟子たちにも馬鹿にされて、挙げ句には月夜に出て遣り水に倒れて、岩に腰を打って病み臥しています。その間は少しは気が紛れたようですよ。
源氏の一行は、難波で御祓いをし、住吉明神にも無事帰京の暁は、今までいろいろと掛けた願ほどきのお礼参りをするということをお使いをやって申させられます。物見にあちらこちらに立ちよることもせず、急いで京にお入りになり、二條の院にお着きになりました。
ではまた
【明石】の巻 その(18)
明石の御方は、譬えようもないほどの萎れ方で、もともと身分の違いが根にあってのことながら、やるせなく忘れようにも形見の御衣ゆえに、ただただ涙に沈むほかはないのでした。
母君も慰めかねて
「何にかく心づくしなる事を思ひそめけむ。すべてひがひがしき人に従ひける心のおこたりぞ、という」
――どうしてこうも苦労の種となる事を思いはじめたのでしょう。みなあの一徹な人に従った私の油断のせいですよ、まったくやりきれない、といいます――
入道は
「あなかまや。思し棄つまじきことも、ものし給ふめえば、さりとも思すところあらむ。……あなゆゆしや」
――ああうるさい。思い棄てなさらない訳がおありの筈だから、何かお考えがおありだろう。(安心して、せめて薬湯でも飲みなさい。泣いたりして)まったく縁起でもない――
入道は、娘を気の毒に思うばかりに、ぼおっとして、昼の日中は寝てばかりいて、夜にはしゃんと起きていて、数珠の在処が分からなくなって、手を摺り合わせて空を仰いでいます。弟子たちにも馬鹿にされて、挙げ句には月夜に出て遣り水に倒れて、岩に腰を打って病み臥しています。その間は少しは気が紛れたようですよ。
源氏の一行は、難波で御祓いをし、住吉明神にも無事帰京の暁は、今までいろいろと掛けた願ほどきのお礼参りをするということをお使いをやって申させられます。物見にあちらこちらに立ちよることもせず、急いで京にお入りになり、二條の院にお着きになりました。
ではまた