永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(116)

2008年07月24日 | Weblog
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【澪標(みおつくし】の巻  その(9)

藤壺の宮は、出家の御身で、今更皇太后におつけすることもできませんので、太上天皇(だじょうてんのう)になずらへて、俸禄を差し上げます。役人もお付きになり、重々しさも増して、今は自由に宮中をお出入りされています。

 兵部卿宮(紫の上の父君)は、源氏が不遇の数年間は世間体を気にされて、冷淡無情でいらしたので、源氏がこの宮一門には無情なお仕打ちをされることもあるのを、入道の宮(藤壺の宮・兵部卿宮の御妹)は、兄君のこととて、お気の毒とも、困ったことともお思いになるのでした。

 「世の中の事ただ、半ばを分けて、太政大臣とこの大臣の御ままなり」
――天下の政は、お二人で分け合って、太政大臣(前左大臣・葵の上の御父)と源氏の意のままでございます――

 権中納言(葵の上の兄)の娘は、この年の八月に入内なさり、弘徴殿女御におなりになりました。

 この年の秋、源氏は願ほどきを、なさるべく、住吉明神へお出かけになります。世の中こぞって、上達部、殿上人が我も我もとお供なさって、ご立派な行列を連ねてのご参詣です。

「折しもかの明石の人、年ごとの例の事にてまうづるを、去年今年はさはる事ありておこたりけるかしこまり、取り重ねて思ひ立ちけり。船にて詣でたり」
――折りも折り、あの明石の人も、毎年の例で住吉に詣でていましたが、去年今年と、懐妊や出産があり、怠ったお詫びも兼ねて、参詣を思い立って、船で参りました――

 岸辺について見ますと、にぎやかに参詣なさる人々が渚に満ちあふれ、厳めしい立派な奉納品を持って行列が続いています。

「楽人十列など、装束を整へ容貌を選びたり」
――東遊の舞人が十人で、社殿で舞を奏するために、装束を新たに整えて、容貌(みめかたち)の美しいのを選んでおります――

 明石側の供びとが「どなたさまのご参詣ですか」と尋ねますと、「内大臣様(源氏)が御願ほどきにお参りなさるのを、知らない人もあるものだ」と下っ端の者まで得意気です。

ではまた。


源氏物語を読んできて(後宮の殿舎)

2008年07月24日 | Weblog
弘徴殿・承香殿・麗景殿

●弘徴殿(こきでん)は、清涼殿(帝のお住い)の夜御殿(夜の御殿・寝室)に一番近く、飛香舎(藤壺)を与えられる人と共に、身分高き女性であった。
この巻の弘徴殿女御は、朱雀院に入内した権中納言の姫君の局名(つぼねのな)。

●承香殿(じょうきょうでん)
 この巻の承香殿女御は、朱雀院の新東宮の御母君のこと。

●麗景殿(れいけいでん)
この巻に出てくる麗景殿女御は、故桐壺院の妃で、花散里の姉君のこと。

このように、固有名詞ではなく、清涼殿に与えられた局・部屋の女主人を言う。

◆写真:現在の京都御所の飛香舎(藤壺)。
    寛政時の復興にならって安政時に再建された唯一の後宮殿舎です。
    風俗博物館