永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(117)

2008年07月25日 | Weblog
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【澪標(みおつくし】の巻  その(10)

この様子を遙かに見上げて明石の御方は、このように思うのでした。

「げにあさましう、月日もこそあれ、なかなかこの御有様を遙かに見るも、身の程口惜しう覚ゆ。……いと悲しうて、人知れずしほたれけり」
――まったく、あいにくなこと、月日も多いのに、よりによって今日という日に、源氏の華やかなご様子を遙かに見やるにつけても、数ならぬ身の程が思われて恨めしい。(源氏との切れぬご縁ながら、このようなつまらない身分の者さえ、満足そうにしてお供を光栄だと思っているのに、自分はどのように罪深いのでしょうか、源氏のことを始終気にかけていながら、源氏のこうした盛んなご参詣の噂も知らず、ここまで出かけて来たものか、などと思いつづけていますと、)しみじみ悲しくて、人知れず涙に袖を濡らしております。――

「松原の深緑なるに、花紅葉をこき散らしたると見ゆる、袍衣(ほうい・うえのきぬ)の濃き薄き数知らず。六位の中にも蔵人は青色著く見えて、」
――松原の深緑に、花や紅葉をまき散らしたように、袍の濃淡さまざまの色が数知れず見えます。官位が六位の者でも、蔵人は帝の御袍と同じ青色(山鳩色)が鮮やかに際だって――

 源氏のお供で須磨に一緒にいらした、右近の将監(うこんのぞう)は、衛門の尉(えもんのじょう)の蔵人であり、良清も同じ役所の佐(すけ・次官)になって、特別、晴れ晴れとした上機嫌で、仰々しい緋色の袍(五位)がまことに清々しい。

 いずれも、明石で見た時とはうって変わって立派に装い、馬や鞍まで飾り整えて美しく磨き立てているのを、明石から来た供びとは、世にも珍しい見物だと、田舎びた心におもうのでした。

 若宮(夕霧)も供びとにかしずかれて一緒にお参りになって居るご様子を、尊く拝されますにつけても、我が子(明石の御方の姫君)が、数ならぬ身に思われ、ますます御社の
方角に向って拝むのでした。

明石の御方はきまりの悪い思いで、漕ぎ離れて行かれました。




源氏物語を読んできて(数ならぬ身)

2008年07月25日 | Weblog
数ならぬ身
 
 この時代の結婚と男女交際については、おいおい見ていこうと思いますが、ここでは、「数ならぬ身」と嘆く意味を調べました。

 貴人にとって、女房は性のはけ口でした。まして行きずりの女、遊女は、貴人にとって「ものの数」ではなかったのです。源氏を取り巻く女性の中で、時折女房が出てきます。正妻葵の上付きの女房とも、長い間、関係をもっています。この時代は公然と、また当然のこととして、ごく当たり前のことでした。

 源氏が紫の上の養育のひとつとして、「嫉妬をしない」女性像を目指していることが語られます。気位の高い明石の御方が、「数ならぬ身」を嘆き、「ものの数」にも扱われないとしたら…という悩みはそこにあります。

 女性にだけ嫉妬を封じる世の中を、その挙げ句行き場のない女性の心理と生涯を、紫式部は当時にあって、するどく見つめています。


源氏物語を読んできて(蔵人)

2008年07月25日 | Weblog
官職としての蔵人

 蔵人(くろうど、藏人)は日本の律令制下の令外官の一つ。天皇の秘書的役割を果たした。秘密が漏れないように。

職掌
 蔵人所はもともと天皇家の家政機関であるが、殿上一切のことを取り仕切る公的な機関となった。平安時代中期になると内豎所・御匣殿・ 大歌所・楽所・作物所・御書所・一本御書所・内御書所・画所など「所」といわれる天皇家の家政機関一切を取り扱うようになる。

職員

別当 1名
頭 2名
五位蔵人 2~3名
六位蔵人 5~6名
非蔵人(見習) 3~6名
雑色、所衆、出納、小舎人、滝口、鷹飼、侯人

◆六位の袍の色は深緑であるが、蔵人六位は、禁色青色山鳩色(天皇の袍色)のゆるしがあった。写真は:禁色青色山鳩色